ファッションに無関心なシンデレラ
「まだ怒ってる?」
守は、カウンターに頬杖をついて美優を見つめた。
美優は無言の抵抗を貫く。
「僕は、ファッション業界で働いてるんだ。
ファッションプロデューサーって仕事なんだけどさ、わかる?」
「わかるわけないでしょ」
「だよね」
守の言動の一つ一つを目で追ってしまう自分に、美優は嫌気がさしていた。
「簡単に言うと、ファッション関係のチームをまとめる責任者なんだ」
「そうなんですね」
「冷たいな。根掘り葉掘り聞いてくれないのかよ」
守は溜息をついた。
美優が自分と関わらないようにとにかく距離を置こうとしているのを、
守は嫌というほど感じていた。しかし、ここで諦める訳にはいかない。
長年探し続けたシンデレラをみすみす手放すなんてことは、決してしない。
もう二度と離しはしないと、守は既に心に決めていたのだ。
「ファッションには、人を変える力がある。
各々の魅力を引き出せるのは、ファッションの魔力なんだよ。
個性は、ファッションによって光るんだ」
「その手には乗らない。見ての通り、ファッションには興味ないし」
美優は自分の格好を見て言った。
サンダルにズボン、白いワイシャツ。ファッションセンスは、皆無に等しい。
「ファッションを侮ってはいけないよ」
守は静かに椅子から立ち上がり、目の前に立つ美優の手を握って引っ張った。
「女性は特に、服の力を信じるべきだよ」
「服の力?」
「僕は、女性でも男性でもファッションによって変われると信じている。
お客様の魅力を最大限に引き出せるのが服。ひいてはファッションに繋がるからね」
「ファッションで変われるだなんて、そんなの」
「夢物語だ、って思う?」
美優が言おうとしていた言葉は、守に先に言われてしまった。
「どうして私の言おうとしていることを、先回りして言うの?」
美優は口を尖らせたが、守は嬉しそうに美優を見ていた。
「いいねえ、その目。好きだよ」
「からかわないで」
「そのまま、昔みたく話してほしいな」
知らず知らずのうちに守の罠にはまってしまったことに、美優はたった今気付いた。
「あっ!だめだよ、境界線引いちゃ」
守は逃さないとばかりに、美優の手を更に強く握りしめた。
「ただでさえみーちゃんに冷たくされてへこんでるのに、敬語で話されるとかもう限界」
守は美優を真剣な目で見つめていた。
「…もう、わかったから」
美優が観念したのを見て、守は安堵の溜息を漏らした。