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愛は貫くためにある  作者: 愛原 夢音
2/5

心もびしょ濡れ

シンデレラは、今も昔も助けを求めようとしない。

辛いことも苦しいことも全て一人で抱え込んで、必死に耐え抜く日々。

いつまで我慢するつもりだ、と守は思った。

守は、美優が声を上げるのを待っていた。しかしー

ばしゃんという音がして、美優は一瞬にしてびしょ濡れになった。

髪も服もエプロンも。体が冷たく重くなっていく。

テーブル席に座る女性客たちは、びしょ濡れの美優を嘲笑する。

守はカウンター席から美優の様子を伺っていた。

しかし美優は一向に助けを求めようとせず、黙って床を雑巾で拭いていた。

守は、美優が助けを求めずにいることが歯痒くて仕方なかった。

「可哀想に。また水をかけられてるよ」

「助けを求めればいいのに、どうしてやられっぱなしなんだろうね」

「そんなんじゃ、味を占めてまたやられちゃうよ」

守の周辺に座る客達の呟きが、あちこちから聞こえる。

周辺の客達は、美優に同情の目を向けるも、助けに行く者は誰一人としていなかった。

美優をよく思わない客はたまにいるらしく、

今回のような悪質な嫌がらせも度々起きているのだという。

「ちゃんと言わなきゃ、伝わんないだろ」

守は立ち上がり、テーブル席へと近づいた。

周りにいる客の視線が、一気に守に集まる。

「やめろよ」

美優に再び水をかけようとしていた女性客の手首を、守はがっしりと掴んだ。

「ま、守さん…!?」

守の声に、女性達はうろたえた。

「恥ずかしいと思わないのか?良い大人がこんなことをして」

「そ、それは…」

女性達は、口ごもった。

「はあ…僕は恥ずかしいよ。抵抗もしない人間に牙を剥くだなんて、

大人としての品性を疑うね。こんなのが僕の部下だなんて、呆れてものが言えないよ」

守は、女性達を睨みつけた。

「ご、ごめんなさい」

女性達が頭を下げると、守はすぐにしゃがみんで美優に声をかけた。

「みーちゃんもみーちゃんだよ。嫌なら何故、嫌と言わない?助けを求めない?」

「あの…あなたは…?」

「本当に覚えてないんだ」

「えっ?それはどういう…」

美優は、床を拭く手を一瞬止めた。

(さかい) (まもる)

「守、兄さん…?」

美優は目を丸くしながら、守を見た。

「覚えててくれたんだ。嬉しいな」

守は、自分のことを覚えてくれていたことが何より嬉しかった。

「みーちゃん、王子様もお姫様も現実にはいないんだよ、実際は。

シンデレラになんてなれないんだ。自分から声を上げなきゃ」

守は美優に手を差し伸べた。

「あーあ、こんなにびしょ濡れになっちゃって。ほら、掴まって」

守は、美優が手を握ってくれると信じていた。

美優は昔から、守の手を握るのが好きだった。いつも守にくっついていた。

過ぎ去った年月なんて関係ないと、そう思っていた。

しかし、美優は守から眼を逸らし黙って立ち上がった。

「みーちゃん?」

美優は、守の手に触れようともしなかった。

「王子様なんて、いるわけないでしょ。そんなお伽話を信じるほど幼稚じゃない。それに、私は運の良いシンデレラになんて、なれない」

厨房へ向かおうとしていた美優の前に守は回り込んで、美優の肩を掴んだ。

「みーちゃん、ちょっと待て。そういう意味じゃなくて」

「随分、出世したのね」

「そんなことない」

「離して。守兄さんと話すことなんて、何もない」

守は、美優の言葉に声も出なかった。

すたすたと歩いていく美優を、守は呆然と見つめていた。


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