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05 兄弟喧嘩の理由はしょうもないことだったそうです

 後もう一歩というところで、メリッサからの告白を聞くことが出来なかったあの日から、二年の歳月が流れていた。

 ファニスは27歳。メリッサは17歳となり、身長も伸びお似合いの二人となっていた。


 告白が中断された日から、あの手この手で続きの言葉を聞こうと頑張っているファニスだが、何かしらのハプニングが起こり、なかなか聞くことが出来ないまま時だけが過ぎてしまっていた。

 メリッサはというと、恥ずかしがってあの時の続きを言ってくれないどころか、とうとう一年前から一緒に寝ることも禁止されてしまった。


 さらに、ファニスに追い打ちを掛けるかのように、お役目に着く頻度が上がり、現在では教会ではなく、屋敷で過ごすことが殆どとなった。


 そんな中、王城では第一王子が、始まりの聖女が残した秘術で異世界から力のあるものを呼ぶべきではないかという話まで出ているという。


 しかし、ファニスにとってそんなことはどうでもいい話だった。

 現在の問題は、どうやってあの時の続きを言ってもらうかということと、忌々しい弟をどう排除するべきかという二点のみだ。


 そう、弟のフィーニスは、始まりの聖女好きが行くところまで行き、とうとう始まりの聖女研究の第一人者になっていたのだ。

 その、聖女マニアの弟が召喚術の研究のためと、屋敷に滞在しているのだ。

 メリッサは、久しぶりに再会した幼馴染のフィーニスと楽しそうに話している。

 そのことが、ファニスを最悪の状態にしている。

 そもそも、フィーニスは始まりの聖女が好きなのであって、準聖女が好きな訳でも、メリッサの事を女性として好きな訳でもない。

 それは分かっているが、メリッサのためなら心の狭さは世界最小になるファニスはご機嫌斜めを通り越して、魔王と化しているのだった。


 そんな、ファニスの魔王化が進むある日の昼下がりのことだった。

 その日は、魔物討伐もなく、ファニスと騎士達は訓練という名の、八つ当たりで騎士団員達は泣きごとを言いながらもファニスの扱きに堪えていた。

 そこに、メリッサが「みなさん、いつもありがとうございます」と、差し入れを持って現れた。

 それを見たファニスは、騎士達に休憩をすることを許可した。


「メリッサ、わざわざすまない。今日のお役目は?」

「ふふふ。いつも守ってもらっているし、これくらい何でもないわ。今日は、巫女の方達がやってくれているから大丈夫なんです」

「そうか、それならメリッサもここで一緒に休憩を――」

「メリッサ~。さっきの続きなんだけど~」

「フィーニス君、今行くね!お兄ちゃん、さっき言いかけた事って?」


 ―――フィーニスの奴、空気を読め!!折角メリッサ成分を摂取する機会が台無しだ!!いや、召喚関係の話なら仕方なくもない……はぁ


「いや、何でもない。フィーニスはなんて?」

「えっと、準聖女にだけ閲覧が許されている資料についていろいろ教えて欲しいって」

「そうか。第一王子からの命令だからな。頑張れよ。俺にも手伝えることがあったら遠慮なく言えよ」

「第一王子からの命令?」

「ん?召喚関連の話しじゃないのか?」

「ううん?始まりの聖女様の好みのタイプ?を知りたいって?」


 ―――思いっきり趣味の話だった!!フィーニスにはお仕置きが必要だな


「そうか。俺もフィーニスに用事があったことを思い出した。一緒に行こうか」


 そう言って、二人でフィーニスの元へ向かった。

 フィーニスは、メリッサの姿を見て顔を輝かせた後、その隣にいるファニスの姿を見て、顔を引き攣らせた。


「あはは、ボクは別に遊んでいるわけじゃないよ?これも研究の一環で……」

「そうだな、愚弟。これも、自分の趣味の研究の一環だな?」

「ソ、ソンナコトナイヨ?コレモ(もしかしたら)召喚ノ研究ニ繋ガル(かもしれないし)」

「そうか、そうか。お前は、早く始まりの聖女のところ(あの世)にいきたいようだな?」


 唐突に始まった、リム兄弟の口喧嘩だったが、いつものことなので、周りにいた騎士団員達は放っておく事にした。

 メリッサはというと、「二人とも、いつまでも仲が良くていいなぁ」と言った、ちょっと、いや、かなりずれた事を思いながら、二人のことをニコニコしながら見守っていた。


 しかし、その日のリム兄弟はそれぞれ違うベクトルで煮詰まっていたので、いつもよりも口喧嘩は激しいものとなっていた。

 ファニスは、メリッサ成分の圧倒的不足によって。

 フィーニスは、召喚術研究が行き詰っていたことで、思うように始まりの聖女の研究が出来ないことによって。


「なんだよ、兄さんこそメリッサに相手してもらえないからって、ボクに当るのやめて欲しいな?それに、騎士団の人も大変だよね?」

「は?」

「だって、兄さんの八つ当たりで厳しい訓練を課されるなんてさ!!」


 ―――やめてーーーー!!俺達のことを引き合いに出さないで!!!


 騎士団員達は、まさかフィーニスが自分達のことを引き合いに出してまでファニスに言い返すとは思っていなかった。フィーニスの言葉で団員達はもれなく青い顔をして距離を取った。


「は?何を意味のわからないことを言っているんだ?それに、俺と、メリッサは、その、アレだ!!」

「ふん。無自覚って笑える。ははは。それに、メリッサとアレって?なんだよ?」

「相思相愛だ!!」


 ファニスがそう言った瞬間、フィーニスはメリッサを見た。しかし、メリッサはニコニコした表情で、それが真実か表情から読み取ることが出来なかった。

 なので、あろうことかメリッサに確認する。


「ねえ、メリッサは兄さんと相思相愛なの?」


 急に話を振られたメリッサはというと。


「えっ?相思相愛?」


 メリッサの反応で、フィーニスは爆笑。ファニスは、周辺(メリッサ以外)に殺気を振りまいた。

 その殺気をモロに受けてしまった者達は、その場で卒倒した。

 フィーニスは、思いっきり爆笑した後に白目をむいて倒れた。


 実は、メリッサは「二人とも仲いいなぁ~」と思いぼーっとしていたら突然話を振られたため、どう返していいのか分からず、あの返答となった。しかし、ファニスはそのことを、知る由もなかった。


 その日、謎の集団気絶があったと、その場にいなかった騎士が、騎士団に報告したことで、さらなる悲劇が起ころうとは誰も思いはしなかっただろう。

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