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直毘国鬼切伝説  作者: 髪槍夜昼
第肆章
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第八十五話 討伐


「こう言うの、弔い合戦って言うらしいぜ。くはは」


道中を歩きながら蝦夷は言った。


足を止めないまま、顔だけ後ろに向けて人を食ったような笑みを浮かべる。


「…まさかお前の口から弔い、なんて言葉出るとは思わなかったぞ。友切(・・)の蝦夷」


「皮肉に決まってんだろ。分かれよ」


驚いたような信乃の言葉に、蝦夷は面白くなさそうに息を吐いた。


「だが、俺はやる気だぜ? 千代なんざどうだって良いが。やられっ放しってのは気分が悪ィ!」


直毘衆を一人殺して、連中は調子に乗っている。


あの鬼共は、直毘衆を簡単に殺せる相手だと舐めている筈だ。


それだけは我慢ならない。


「殺られたら殺り返す! 倍返しでもまだ足りねえ! 化物の分際で人間様に楯突きやがって、一人残らずぶっ殺してやる!」


目を爛々と輝かせ、獰猛な笑みを浮かべる蝦夷。


「むしろ、意外なのはアンタの方だ」


「…俺?」


「アンタは俺以上に怒り狂い、殺気立っていると思ったんだがな」


「………」


信乃は確かに、と口を閉じた。


元々は鬼に復讐する為に直毘衆に入った信乃だ。


知り合いを殺された今、蝦夷以上に昂っていても不思議では無かった。


「………」


だが、信乃は冷静だった。


異常なほど落ち着いた様子で、ただ足を進めていた。


「ハッ」


張り合いがない、と思ったのか蝦夷はつまらなそうに鼻を鳴らした。








千代の凶報から二日後、


帝より一つの勅命が下された。


それは『討伐隊』の結成。


金剛と言う最後の鬼の存在が判明したことで、いよいよ帝も攻勢に出たのだ。


全国から集められた直毘衆、三十名。


都の兵士の精鋭、五十名。


計、八十名で『鈴鹿山』を攻略する。


隊長として頼光が指揮を執り、金剛、橋姫、果心居士の三名を討伐する作戦だ。


「帝も思い切ったことをしたもんだ。まあ、防戦一方よりは俺好みの作戦だが」


蝦夷は道中に現れる餓鬼を斬りながら、そう言った。


確かに、思い切った作戦だと信乃も思う。


都に集められた直毘衆の殆どと、頼光までも今回の作戦に参加している。


逆に言えば、都には数名の直毘衆しか残されていないと言うことだ。


今、都を襲われれば簡単に落とされてしまうだろう。


「あの帝のことだから別の作戦があるんだろうよ。天文道は今回の作戦に、誰一人参加していないらしいじゃねえか」


「あんな連中が役に立つのかねー…」


自分より弱い者は基本的に信用しない蝦夷としては、天文道は誰一人信用に値しないのだろう。


とは言え、そもそも帝や都のことも本気で心配している訳でも無く、すぐに忘れてしまった。


「役に立つか、と言えば、アイツらのことはどう思うよ。先輩」


蝦夷は後ろから着いてくる別の直毘衆、及び都の兵士を見る。


鈴鹿山は噂通りの人外魔境だった。


道中次々と現れる餓鬼達に、信乃達はともかく、他の者達は疲弊を見せていた。


「流石に直毘衆は餓鬼に後れなんて取らねえが、あの霊鬼六道とやらには歯が立たねえぞ、多分」


「だからこそ、数を連れてきたんだろう」


「実力差は織り込み済みってか。帝も人が悪いな」


一体、何人の人間が生きて山を降りることが出来ると言うのか。


恐らく、帝の本命は頼光、信乃、蝦夷の三人だけ。


それ以外の面子は矢除けや肉壁に過ぎないのだろう。


「どーりで、うちの大将の機嫌が悪ィ筈だ」


この作戦が始まってからずっと険しい表情で言葉を発しない頼光を見て、蝦夷は納得した。


犠牲になることが分かっている兵士を預かる将の気分など、最悪だろう。


「うわああああ! また化物が出たぞ!」


「餓鬼だ! 早く、直毘衆は前に…!」


「チッ!」


後方から聞こえた声に、信乃は地面を蹴った。


例え犠牲になる為に連れて来られたとしても、流石に見殺しには出来ない。


後方の兵士達に襲い掛かろうとしていた餓鬼の首が宙を舞い、体が塵となって消える。


「こっちにも居るぞ…!」


同時に、全く別方向からも声が響いた。


見ると、信乃が倒した餓鬼よりも一回り大きい鬼が出現していた。


(間に合わな…)


「うぜェ! 雑魚が!」


苛立ち交じりの声と共に、その鬼の体がバラバラに切断される。


それを成した蝦夷は、塵の山となった鬼を踏み締め、大きく舌打ちをした。


「たっく、矢除け所か足手纏いじゃねえか」


「蝦夷。助けたのか?」


「んな訳ねえだろ。餌を見るような目で俺を見るコイツがムカついただけだ」


原型を失った鬼を睨み、蝦夷は言った。


「誰だろうと、何だろうと、この俺を見下す奴は許さねえ! 俺はこの戦いで果心居士をぶっ殺し、誰も俺を見下せなくなるくらい高みに上るぜ!」


名誉欲、名声欲。


そして自己顕示欲。


全ての人間に認められること。


それが蝦夷の原動力だった。


自己中心的と言えば、それまでだが。


逆に言えば、自分のことしか頭になく、他者に目を向ける余裕がない(・・・・・)


「蝦夷、お前は…」


「…待て」


何かを口にしようとした信乃を止め、蝦夷は視線を前に向ける。


視線の先には、信乃と蝦夷が護った都の兵士達だけが居た。


「そこに居るのは、誰だ?」


人の心を読み取り、生物の気配に人一倍敏感な蝦夷だからこそ気付いた。


その中に、鬼が混ざっていたことに。


「………かくれんぼは、もうおしまい?」


いつからそこに居たのか、一人の少女が中から現れる。


まるで座敷童のように自然に、人の輪に混ざり込む不自然さ。


それがその鬼の特性。


誰からも愛され、誰からも傷付けられない性質を持つ者。


「久しぶり」


橋姫は人懐っこい笑みを浮かべてそう言った。

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