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海の見えるこの町で、夏樹との出会い(5)

 そう言って病室を出た私は後ろ手で静かにドアを閉めると、その場にしゃがみ込んで、震える息を吐き出しました。

 誰かが私と同じ傷を持っていて、それでも葛藤しながら前に進んでいる。

 私が逃げ出してしまった道を誰かが歩いていくれている。

 ただそれだけのことがこんなにも嬉しいとは思わなかった。

 私は……。


「私も、今からでも誰かのために何かをすることが出来るでしょうか。私が何かをしても、許されるのでしょうか」


 そんな言葉が口をついて出た。けれど私は、一度溢れてしまったその言葉を拾い上げて飲み込むと、もうそんな自分を否定するような弱気が溢れないようにと、心の奥底に弱い自分を閉じ込めた。


 「いつの日か笑顔で、周囲の暖かさに触れている内に弱い私を受け入れられる日が来るまで、おやすみ」


 私は最後に自分の胸を手でそっと押さえると、病院の廊下を静かに、けれど精一杯力強く歩く。


 その一歩一歩は弱い私を奮い立たせるために必要な儀式みたいに感じた。

 病院の出入り口に着く頃には、私の心は表面だけは少し強くなれた気がした。

 たとえ私の心の中心が透明だとしても、その周囲で煌めく色はきっと偽物なんかじゃなくて、それも私の心の一部だから。


 そんな風に思えた、思うきっかけをくれた彼を、夏樹さんの笑顔をこのまま海の底に沈めたくなくて私は病院から続く下り坂を、転びそうになりながらも駆け抜けた。


 肩で息をしながら、私はあの場所に。夏樹の感情に初めて触れて、彼を渦巻く状況を知って、それでも何も出来なかったあの場所、葛城の裏手に辿り着きました。

 時刻はちょうど夏樹さんや件の先輩方がいつも休憩をしていた昼過ぎ頃。

 案の定先輩方はそこでたむろしていた。

 私は震える膝を叱咤するように、思い切り大地を踏みつけてその空間に足を踏み入れた。


「あの! 夏樹さんのことでお話があるのですがっ」


 私は気がつけばなんの前置きもなく、感情のままに言葉を投げつけていた。

 加えて、決して穏やかとは言えない表情でだ、当然相手の印象が良いはずもなく。


「はぁ? なんだお前」


「ん? おい、こいつよく見たらこないだの客じゃねぇか」


「あぁ、あの時のか。なんですかねぇ? お客さん。今は休憩時間なんスけど?」


 何を言いに来たのか薄々分かっているようだったけれど、どうせ弱い女だと甘く見ているのが透けて見えた。

 それが、無性に悔しくて、情けなくて。

 私は思わず相手の頬に拳を叩き込んでいた。


「あんた達なんかに……。あんた達みたいな人間がいるから!」


 震えながらも振り絞った私の言葉と拳は相手の反感を買ったようで、相手からどす黒い赤が視えた。


「おい、痛えじゃねえか」


「あーあー、赤くなっちまってんじゃん。こりゃあ責任とってもらわないとなぁ?」


「お前もあいつみたいに腕へし折ってやろうか?」


 こんな、三人固まってないと強気になれないような、偽物の強さに溺れた人達に、本当に強くあろう、強くなろう、としている人の道が塞がれるのが我慢できなくて。

 私はその赤い感情の渦を視て確かな恐怖を感じながら、それでも。



「努力も出来ない奴が、必至に努力してる人間の夢を邪魔するな!!」



 叫んでいた。

珍しく短い時間で更新……。本文が短いですからね。

次が見せ場になるハズ!

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