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海の見えるこの町で、夏樹との出会い(4)

「ん? あぁ……。またあんたか」


 私が病室に入ると、彼は風にたなびくカーテンを背に私に力ない声をかけました。

 私は一瞬そのあまりにも力を失った瞳に呆然としてしまいましたが、それでも大将さんから彼のことを頼まれてますし、なによりも私が今の彼の心に触れたくて、私は彼を視ました。

 すると、半透明な深く暗い青が視えました。

 きっと彼のこの半透明な青は深い悲しみの中で自らを失いかけているんだと感じました。

 しばしば、自分の個性を色にたとえられることがありますが、私はこの力を持っているがゆえにそれはあながち間違いでは無いと感じています。

 周囲に否定され続けてきた人は一見とても個性的に見えるかも知れませんが、それは自分を護るために色を纏っているだけであって、薄く纏われた色をどかしてしまえば、そこには透明しか無いことがままあります。

 今の彼はそんな状態よりも深刻で、悲しみの青を薄く纏って自分を傷つけながら透明に飲まれてしまうのを防いでいるように視えました。


「あ……。夏樹さん、その。今回は大変だったみたいで……」


 なんの気もきいていない只々対岸の人間の言葉しか投げかけられない自分に下唇が少し痛いくらいに噛み締めました。

 私は人と距離をとって接していこうとしていた学生時代の反動で他者との交流に疎くなってしまったのでしょう。

 けれど、今はそんなことを言っている場合ではありません。

 悲しみは後ろ向きに進む感情です。

 せめて怒りでも良い。彼の心に暖色を落とさなくては。

 私がそう思って行動に移そうとすると、彼は私の言葉よりも早く。


「もう、いいんだ。やっぱり、俺は料理なんて人に何かを与えることをしていい人間じゃなかったんだ。今回のことでよくわかった。俺は与える人間じゃない、奪う人間なんだってさ」


 彼のその言葉を聞いて私は視界が赤熱するのを感じました。

 彼に怒りの色を落とすつもりだったのに、逆に落とされてしまった私は、静かに、けれど熱く伝う雫に構わずに気がつけば彼の病衣の胸元を左手で掴むと空いている方の右手で彼の頬をはっていました。

 乾いた音が静寂の病室にやけにうるさく感じ、その音に負けないように私はありったけの感情を声量に変えて彼にぶつけました。


「違うでしょっ! あんたは自分の心に嘘を吐きたくないって! そう言ってたじゃない! それに、私はさっきのあんたの言葉で救われたんだ、人に何かを与える人間じゃないって。それって何かを与えたいと思ってるってことじゃない! 私なんてっ! 私なんて……、逃げてばっかりだ……」


 私が感情のままに叩き付けた言葉の奔流に彼は目をぱちくりとさせて、初めて彼の年齢相応な反応を見た気がしました。

 ですが、その後に彼はじわりじわりと私の言葉を飲み込んだようで、段々と顔が険しくなっていきました。


「お前に……っ。お前に何が分かるっていうんだ!! 俺はずっと後悔してきたんだっ。俺は親父を超えるためだけに、何人も何人も蹴落として、傷つけて。そうやってこの道を歩いてきた! 茨の道だったよっ。傷まみれになりながら進んできたさ! でもな! その道を進むために俺が切り落としてきた茨だって皆なにか成したいと思っていたはずなんだ……っ」


 私はやっと彼の心の一端に触れられた気がして、それがどうしようもなく嬉しくて、彼が怒っているのにこんなの絶対に気分を害すると分かっていても、思わず笑ってしまいました。

 私は、茨の道から逃げてきた、だからこそ弱いままなんだと思っていました。

 けれど、茨の道を進んで傷まみれになっている人もまた、弱い人なんだと思ってしまったからです。


「ふふ。あぁ、なんだ。夏樹さんも私と同じだったんですね?」


「あぁ? 同じってなんだよっ! 何笑って……。は? 笑いながら泣いてるのか?」


「あ、ごめんなさい。嬉しくてつい……」


「なんなんだよお前……」


「私ですか? 私は……」



「人の痛みに寄り添いたいただの弱虫ですよ」



更新が遅いのは仕様です、ごめんなさいごめんなさい……。

短編も投稿するようになったのでそちらもご覧になりながらゆっくり待って下さい……。


感想とかもお待ちしてます故……何卒ぉ……。

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