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海の見えるこの町で、夏樹との出会い(3)

翌日、目が覚めるとすぐにお店のみんなの朝食を作り、黒に書き置きを残して葛城に向かいました。


「自分の後悔しない選択を、ね。そうだよね、私は今まで逃げてばかりだったんだから、今度こそ……!」


 私は自分の中の弱い心を蹴飛(けと)ばすように、地面を強く踏みしめて一歩一歩進んで行きます。

 もちろん怖いです。拒絶されるのも、危害を加えられるのも。

 私は生まれたときから特別な力を持っていました。

 それだけ聞けば、世界に祝福されているだとか、羨ましい。なんて言われてしまうかも知れませんが、幼い頃は苦労をしました。

 いえ、幼い頃はまだ無自覚だっただけ、救いがあったのかも知れません。本当に苦しかったのは、学生の頃でしたね……。


「いやいや、こんなネガティブ思考でどうするんですか! 私はこれから彼の背中を押しに行くんだ! 私が笑ってないで人を笑わせられませんからね!」


 私は落ち込みかけた思考を無理やり捕まえて、乾いた音を響かせながら頬を両手で打ちました。

 ひりひりと痛む両頬に潮風が心地よくて、迷いは吹っ切れました。

 ぐるぐると考え込んだり、頬を打ったりしている内に、葛城のすぐ近くまで来ていた私は、最後の一歩を自分を鼓舞する声と一緒に踏み出しました。


「よしっ! やりますか!」


 まずは、前回と同じお店の裏手に回って誰かいないかを確認しようとすると、裏手の方から怒鳴り声が聞こえました。


「お前まだ状況分かってねぇのか? もうお前の居場所なんかねぇんだよ!」


「若いくせしやがって俺たちに恥かかせてただで済むと思ってんのか!? なぁ!」


「別に、お客さんのご要望にお応えしただけですよ。お客さんが先輩たちより俺の作ったものが食べたいって言ってくれたのは、先輩たちがそうやって後輩いびってる間も腕を磨いてたかどうかじゃないんすか?」


「んだとっ! てめぇもっぺん言ってみろ!」


 恐らく、以前夏樹さんを害そうと話していた先輩さん達がついに夏樹さんに絡みだしたんでしょう。

 しかし、夏樹さんもわざわざあんな煽るような態度を取らない方がいいんじゃないかと、はらはらしながら物陰に隠れていることしかできませんでした。


「何回だって言ってやるよ! お前ら目障りなんだよ! 大して本気にもならずに他人の足引っ張って! 俺は、自分の心に嘘ついて生きて行きたくなんてねぇんだよ!!」


 夏樹さんのそんな叫び声が聞こえた後に、鈍い音が響きました。

 私が物陰から少しだけ顔を出して、状況を見ると、そこには今まで視たことも無いほど、どす黒くて、重たい赤が視えました。


「うぷっ……」


 私は、あまりに大きすぎるその負の感情に耐えられずにその場から逃げてしまいました。

 私が走り出したのと同時、先輩さん達の怒鳴り声と、夏樹さんの慟哭が聞こえて。

 どこまで走っても走っても、いつまでも残響がついて回っているように感じました。


「はぁ……っ。はぁっ……。また、私は何もできなかった……っ!」


 いつの間にかたどり着いていた堤防に額を当てて、自分の弱さが悔しくて悔しくて、嗚咽をぶつけました。


「ヒナ、だから言ったでしょう? 今はまだ、僕たちにはどうしようも出来ないんだって」


「黒……」


 いつの間にか、私の後ろに黒が立っていて。私に諭すように語りかけました。


「ヒナの気持ちは分かるよ。でもね、僕たちは結局起きてしまった後のケアしか出来ないんだ。悲しみを癒やすことは出来ても、悲しみが生まれなくすることは出来ないんだよ」


 黒のその言葉に、そうやって言い訳をしてしまえば、自分の目の前で起きてしまった悲劇から目を背けるのは簡単だと、心がまた逃げようとした時。


『俺は、自分の心に嘘ついて生きて行きたくなんてねぇんだよ!!』


 彼の言葉が私の心を強く掴んで離しませんでした。


「黒……。それでも、私はここで逃げちゃだめなんです……。これが最後……。ううん。最初の私の本気なんです。私が助けたいのは、夏樹さんだけじゃない。私が歩いてきたこの時間も、救いたい」


「ヒナ……」


「夏樹さんのところに戻ります。まだ、なんとかなるかもしれません」


 私がそう言って駆け出そうとすると、黒が私を呼び止めました。


「ヒナ」


「なんですか? もう、私は止まりませんよ」


「んーん。僕もね、もう今回は止めようとは思わないよ。けれど、夏樹くんはあの後怪我をしてね。今は病院だよ。あの人達は自分で怪我をさせておいて、怖くなったのか救急車を呼んでいたしね。まぁ当然のように口止めはしていたけれど」


「そんなに大きな怪我をしたんですか!? ど、どこの病院に……」


「この辺りだと(くすのき)総合病院かなぁ」


「楠総合病院ですね! わかりました!」


 私はそれだけを聞くと、すぐに駆け出しました。

 病院に着くと、ほとんど突進するような勢いで夏樹さんの状況を尋ねると。


「お、落ち着いて。落ち着いて下さい! 夏樹さんなら、先程処置が終わって二〇五室にいますよ」


「あ、ありがとうございます!」


 私は教えてもらった通り二〇五室まで歩いて、扉の前に辿り着きました。


「……。勢いでそのまま来ちゃったけど、なんて声をかけたら……」


 私が扉の前で、少しの間足踏みしていると、中から声が聞こえました。


「大将……。すんません。不注意で怪我しちまって」


「……。まぁ、少し休め。お前の帰る場所は残しといてやる」


「うす……」


 恐らく、葛城の大将さんが付き添いで来ていたんでしょう。

 でも、夏樹さんは本当のことを話すつもりはないようで、私はそれがまたとても不器用に感じました。

 邪魔になっても悪いと思ったので、扉を離れようとすると、大将さんが扉を開けて外に出てきました。


「嬢ちゃんは……。黒猫さんのところの」


「あ、えっと。はい。春日井日向です……」


「あいつは……。遥は俺の若い頃に似て不器用だからな。面倒、見てやってくれ」


「えっ。えっと……私なんかで良ければ?」


 大将さんは私がそう答えると、私の肩を軽く叩くと、そのまま行ってしまいました。


「面倒見てって……。ええい! ここまできたら入るしか無いですよね!」


 ままよ! と扉を開けると、右腕に痛々しい包帯を巻いた夏樹さんがベッドに座って窓の外を眺めていました。

更新遅くてほんますいません……。

エタることは無いようにするのでなにとぞ……!

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