嵐の前の、静けさなど無かった
翌朝、目が覚めると昨日の熱が嘘のように下がっていて寝起きから快調だ。一瞬私は自分が思っているよりも単純なのかと心配にはなったけれど、そんなことは気にしない。
「おっはよー!」
一日休んで程よく疲労も抜けたので開口一番に元気よく朝の挨拶をする。
「「おはようございます、主」」
ステレオで聞こえてくる挨拶もいつもどおりだ。けれど、なんだか今日は無性にそのいつもどおりが愛おしくて、ミントちゃんと嫌がるタイムくんをもみくちゃに撫で回した。
「やめ、やめろー!」
「くすぐったいですよぉ~! でも、良かったです。ここ最近の主は元気がないように見えましたから~。タイムも口ではつんけんしたこといってますけど、お仕事が終わって部屋に戻ると毎日心配してたんですよー?」
「ちょ、そんなこと言ったら……」
震えるタイムくんに狙いを定めた私は後ろから片腕でその細い体を抱え込むと、毛根がなくなってしまうのではないかと思うくらいに撫で回してあげた。そんなタイムくんの犠牲を横目に、服のしわを軽く叩いて直したミントちゃんがしたり顔で口を開いた。
「タイムぅ? 世の中は犠牲と搾取で成り立っているんですよ~?」
「裏切ったなミントぉ!!」
この双子も出会った当初に比べて、大分馴染んできた気がする。どこか壁を感じていたけれど最近ではその壁もだいぶ薄くなってきた。けれど、それはそれとして。
「ミントちゃーん? 仮にも私のお店で働いているあなたが世の中は犠牲で出来ているなんていうとはいい度胸ですね~?」
「ひっ……! ちが、違うんです今のは言葉の綾で……ああああああああ!!!」
砕けた関係になることは良いことだけれど、締めるべきところはしっかりと締めていく。そういうのが大人になるっていうことなんだと思う、多分。
そんな賑やかな早朝を過ごしていると、じきに遥もやってきて朝食の時間になる。いつもならこの時間には黒も起きてきているんだけれど、今朝は寝坊でもしているのか一向に姿を見せない。不思議に思った私は素直にミントちゃんに問いかける。
「黒がまだ降りてこないみたいですけれど、寝坊でもしているんでしょうか?」
「あ、お師匠なら今朝はもうお出かけになられましたよ?」
「こんな時間にお出かけですか?」
あの寝坊助がこんな時間から出かけてるなんて一体どういうことだろう。今日は槍でも降るのかも知れない。
「なんだか昨夜に主様からお呼びがかかったみたいで嫌々朝から支度されてましたよー」
「あぁ……」
その姿が目に浮かぶようだ。まぁ、たしかにあの黒がこんな早朝から出かけるなんて主さんに呼び出されでもしない限りありえないですよね。でも、またなんで呼び出しがかかったんだろう。もしかして……。
「私なにか不味いことしましたかね? とでも言いたげな顔してるとこ悪いが多分自意識過剰だぞ」
「勝手に人の心読むのやめてもらえませんか?」
「お前がそれ言うか……」
「まったく、遥にはデリカシーというものがないんでしょうか。うら若き乙女の心情を読んであまつさえそれを口にするなんて無神経にも程がありますよ! ……さて、冗談はこれくらいにして朝ごはんを頂きましょうか。もう私お腹すきましたしー」
「女って怖い……」
ぼそりと女々しく恨み言を垂れる遥を目だけで黙らせて朝食を食べる。いつもと変わらず会話はあるけれど、一人少ないからか少しだけ普段よりも静かな気がする。
ちょっぴりおセンチな気分でそんなことを考えていると、勢いよく扉を開ける音でそんな感傷は吹き飛んだ。
「あー!!! 僕が居ないのにみんなご飯先に食べてるー!」
なんだろう、感傷に浸るなんて私らしくないとでも言うことなんだろうか。ちょっぴりだけ足りない気がした賑やかさの五倍くらいの賑やかさで黒がそんなことを言いながら帰ってきた。
「おはようございます、黒。そりゃ食べますよ。いつ帰ってくるかもわからないんですから」
「そーだけどさー! 僕だって朝ごはんも食べずに出かけてたんだからもうお腹ぺこぺこなのにさー! あ、ヒナのつまみ食いしていい?」
「駄目で……」
「そうおっしゃると思って黒さんの分の朝食もご用意してあります!」
「でかした遥!」
「なんかもう、遥は下僕が板についてきましたね……」
言い切る前に食い気味に目を輝かせながら反応した遥とそれを褒めながらもさも当然のように出された食事に齧り付く黒を見ていると、感傷に浸っていたのが馬鹿馬鹿しく思えてくる。こんな姿を見たら昨日の頬の熱も勘違いだったと思わざるを得ない。そうだ、この私が、この遥に? いやぁ、ないない。
「もにゃもにゃ、んみゃい!」
「ほら、黒。そんなに急いで食べると喉につまらせますよ?」
「う、ぐっ」
「言わんこっちゃない……」
忠告したそばから喉にサンドイッチを詰まらせる黒に呆れながら飲み物を渡そうとしたら既に遥が差し出していて背中まで擦っていた。こいつ……この気遣いをなんで黒以外には出来ないんだろう。熟練の執事ですみたいな顔に妙に腹がたった。
「うげほっ、げほっ。ぶはー! 危うく召されるかと思ったよね~」
「すみません、俺が至らないばっかりに!」
「良いよ良いよ! 次からは気をつけ給えよ~?」
なんだろう。ツッコみが不在だとこのやり取りは終わらないのでは? ため息を吐きながら仕方なく流れを変える。
「それで、呼び出しの内容はなんだったんですか? なんだか妙にテンションが高いのが気になるんですけど良いことでもあったんですか?」
「ふっ、それを聞いてくれるのかい? ヒナ。……何も良いことないよ~! もう最悪の気分だよ~!」
「遥……もしかして、さっき渡しのお酒ですか? それともマタタビ?」
「いや、普通の牛乳」
「人を酔っ払いみたいに言わないでくれるかな!?」
更新少し遅れました!ごめんなさい!
今更ながらにARKに嵌ってしまってつい……。Islandでプレイしているのですがドラゴンが倒せなくて行き詰まってしまった(´・ω・`) 有識者の方良かったら倒した時のこととか教えて下さい!
ではでは、また次回の更新で~、と普段なら締めるところなんですが、次回で遂に十万字に届く!(予定)のでお楽しみにお待ち下さい!




