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きっとこれは風邪のせい

 頬の熱が冷めないまま朝食を食べるけれど、どこか上の空で味もよくわからない。まさか私が遥を?


「いやぁ、ないですねー」


 自分の心を推し量って見ても、まだそういう感じはしなかった。けれど、それならこの頬の熱さは一体なんなんだろうか。うんうんと考え込んでいると、なんだか顔全体が熱くなってきた気がする。もしかして……?


「風邪だねぇ~」


「あぁ、やっぱり……」


 もしかして、と思ったことがやっぱり当たっていたようで。ランチタイムの慌ただしさが決め手になって私はバックヤードに座り込んでしまいまった。黒がすぐに気がついてくれて熱を測ったら案の定そこそこの熱があった。飲食店なので、発熱している状態で仕事を続けるわけにもいかず、おとなしく自室に戻り、ベッドで横になる。途中、ミントちゃんが部屋にやってきて氷枕と冷やしたタオルを持ってきてくれた。


「ごめんねー、ありがと」


「いいえー。主、体調が悪いときはちゃんと言わないと駄目ですよ?」


「うん。気をつける」


 珍しくミントちゃんに真面目に注意を受けてしまった。けれど、その注意もどこか優しく感じるのはきっとミントちゃんの性格によるものなんだろう。


「それじゃあ、私は戻りますねー」


「ありがとー」


 ぱたぱたと階段を降りていく足音がなんか少し寂しく感じた。んだけれど、直後にどすどすと怒気を纏った足音が階段を登ってきて、一気に気が重くなった。うん、狸寝入りをしよう。そうしよう。

 そう決めて間もなくノックの音が部屋に転がり込む。流石に女性の部屋に入るときにノックするくらいのデリカシーは持っているらしい。


「おい、日向入るぞ」


 返事を待たずに入ってくるのは如何な物かと思いますけどね!?


「すー、すー……」


 わざと寝息を演出して退室を促してみる。


「ミントに起きてるって聞いてるから無理だぞ」


「ぐぬぬ……!」


 一瞬でバレました。事前に確認をしてくるとはなんて用意周到なんでしょう。


「まぁどうせ説教が怖くて狸寝入りでもしてるだろうと思ったら案の定だったな」


 思考を読まれている……? もしかして遥も特別な力が? なんて馬鹿なことを考えていても仕方ないので、ベッドの中でもぞりと動いて顔を遥の方に向ける。


「バレてしまっては仕方ないので甘んじてお説教を受けてあげましょう」


「なんで受ける側が偉そうなんだよ……。でもまぁなんだ、別に説教をしに来たわけじゃねえよ」


「?」


 遥がこの状況で私に説教以外の何をしに来たんだろうか。はっ、もしかして愛想をつかして辞表を出しに?


「なんでそんな絶望した顔になってんだよ、そんなに説教してほしいのか?」


「違いますよ!?」


 思わずツッコミを入れたら自分の声で頭がズキリと傷んだ。


「痛てて


「風邪なのに叫ぶからだろ」


 呆れた顔をしてるけど遥のせいですからね!? というツッコミはかろうじて飲み込んだ。


「あー、なんだ。これは俺が昔大将に言われたことなんだが、『自分の価値を正しく認識しろ。体調が悪いなら休め。自分の体調は自分でちゃんと把握しろ』言われたときは単純に体調管理を怠って注意されたんだと思ったんだが、多分違う。これは、『自分にしか出来ないことがあることをちゃんと理解して、自分をもっと大切いしろ』ってことだったんだと思う。ただの一般人の俺ですら、俺にしか出来ないことがある。なんなら誰にだってある。そいつじゃなくても良いことなんてひとつもない。お前なんて特にそうだ。だからなんだ、もっと自分を大切にしろ」


 真面目にそう話す遥の顔がなんだか頼もしいというか、不覚にもちょっとかっこよくて。


「良い顔で言ってくれてるところ申し訳ないんですけど、それは説教では?」


 なんて無粋なことをわざと言ってしまう。


「いや、違う、くないのか? なんか急に痛いやつみたいになってきた……。まぁなんだ、それが言いたかっただけだ、うん。それとりんご持ってきたけど食えるか?」


「若さの暴走ってやつですかねー。あ、食べます」


「はぁ。剥いてやるから待ってろ」


 そう言って普段より少しだけ赤らんだ顔でりんごを剥いてくれる。多分自分が言ったことを思い返して恥ずかしさに震えているんだろう。でも、その恥ずかしい言葉がどれだけの人の心を救う力があるかを考えて欲しい。現に私はちょっと泣きそうだ。体調不良で滅入っている時の優しい言葉ってどうしてこんなにも心の奥深くまで滑り込んできてしまうんだろうか。きっと鏡を見たら、私の顔もさっきまでより赤くなってしまっている気がする。けど、今は風邪のせいにしておこう。


「ほれ、剥けたから置いてくぞ。じゃあ俺は店に戻るから食ったら寝とけよ」


「……食べさせてくれないんですか?」


「ばっ! はぁ……。あんまりからかうなよ」


「ちぇー、わかりましたよ。ありがとうございます」


「おう」


 遥が退室して、ドアを締めた途端に、胸が痛くなるくらい鼓動が激しくなっていたけれど、きっとこれも風邪のせいでしょう。そういうことにしておこう。


今回もここまで読んでくださりありがとうございました!

誤字脱字報告や感想なんかもお待ちしておりますのでよろしければお願いしますー!

ではでは、また次回に~。

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