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私らしく居られる場所

 失敗して、産まれた街から逃げるようにこの町に来てから色々なことがあった。ずっと悩まされていた変わった力を必要としてくれる人が居て、私が嫌いだった私を必要としてくれた。初めて、誰かの役に立てるんだって思わせてくれた。私は、そんな出会をくれたこの町を、短い時間でとても愛おしく想っている。ここでなら、きっと私は私のことを好きになっていける。そんな気がする。

 正直、今でも不安はずっと残っていて、ちゃんと笑えているか、変に思われていないか、そんな心配は尽きない。けれど、私がそう思うたびに、周りを見渡せば本気で生きている人たちがいて、そんな人たちが私を受け入れてくれていて、ここに居てもいいんだって思わせてくれる。それでも、心配なことはまだまだあるけれど、きっとこの人たちと一緒に乗り越えていける、そう信じている。


「は~、今日も一日終わりですねー」


 夕食を済ませた後、みんながそれぞれの自室に戻っていくのを見送ってからホットミルクを片手に私も自室へと戻って日課にしている日記を書く。誰にも見られない安心感からか、日記の中では素直な自分で居られる気がして、幼い頃から一日の終わりには書くようにしていた。

 今日も変わらず飾らない言葉を綴ってから、少しぬるくなったホットミルクを片手に、窓を開けると視界に白いものがちらついた。


「あぁ、肌寒いと思ったら雪が降ってたんですね……」


 寒いと思いながらもなんとなくその窓をすぐに閉めることはせずに、ホットミルクを飲みながらその景色をぼうっと眺める。ひとくち飲んでは吐き出す息が、白い雪をさらに白く塗りつぶした。眼下に目をやると、どうやら積もりそうには無かった。私が産まれた街はあまり雪が積もることがないのでもしかしたら、なんて思ったけど少しだけ残念だ。


「あ、そうだ!」


 ふと閃いて私は一階に降りると、ごそごそと仕込をしてから翌朝を楽しみにして眠りに就いた。


「おはよー!」


 翌朝、いつも私よりも早く起きているミントちゃんとタイムくんに挨拶をすると二人も「「おはようございまーす」」と返してくれた。挨拶をしてそれが返ってくるそんな当たり前が私にとってはとても特別で、心地いい。

 少し遅れて黒が起きてきた。


「ふあよ~」


 黒は寝起きに弱いので今朝も、もにゃもにゃと言葉にならない音を挨拶として出している。それからまもなく遥がお店に来て、朝食の準備をしてくれるのだが、今日は私も「手伝いますよー」なんて言って一緒に厨房に入る。


「日向が自分から手伝うなんてなんか気持ち悪いな……」


 なんて失礼なことを言っていますが、このあと天誅を与えるので今は笑っておいてあげましょう。


「すまん、卵取ってくれるか?」


「良いですよー」


 ここだ! 私は昨夜仕込んだそれを取り出すチャンスにうきうきしながら冷蔵庫を開けると、こっそりと遥の背後に回り込む。


「はいどうぞー、卵ですよっ!」


 私は言い切るのと同時に遥の服の裾から背中に手を突っ込んで手に握っていた雪玉を食らわせてやりました。


「冷てえ!!!」


 びくんっ! と飛び上がりながら慌てて振り向きながら大声を出す遥に私はケラケラ笑い過ぎて涙が浮かびました。


「さっきのお返しですよー!」


「さっきのってなんだよ!?」


 遥の大声に反応してなんだなんだと待っていたみんなも覗きに来て急に厨房が狭くなった気がする。けれどその狭さはなんだか悪くない。


「ったく。そんなに楽しそう笑われたら怒るに怒れんから質が悪いなお前……」


「え? そんなに楽しそうでしたか?」


「めちゃめちゃ楽しそうですけど!?」


「朝から元気だねぇ~。どうしたの~?」


「あっ、聞いて下さいよ黒さん! 日向の奴が……」


 むにり、と自分の頬に手を押し付けてみる。遥が黒に何かを言っている気がしたけれど、そんな声が気にならないくらいに頬が熱くて、雪玉を持って冷えた手の温度がぐんぐん上がって、溶けてしまいそうだった。


「あ~、はいはいごちそうさまぁ~。早く僕たちのご飯も作ってね~」


「俺たちもまだ食べてませんよ!?」


「ヒナ、良かったねぇ」


 戸惑う私に黒はそう言うとぽんぽんと頭を叩いて行った。


今回もここまで読んでくださりありがとうございました!

そろそろ一区切り……!

ではでは、また次回に~。


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