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私が私として出来ること(5)

 みんなに見送られながら扉をくぐると、二回目でも慣れない浮遊感に包まれる。目を開くと前回と変わらず美しい希望郷が目の前に広がっていた。


「さて、じゃあ行きましょうか」


 隣にいる黒に声をかけると、黒は少しだけ苦々しい顔をしている。


「あ~……。うん。もう来ちゃったしね。うん、行こうか」


「どうしたんですか? そんな口の中いっぱいに渋柿を詰め込んだみたいな顔して」


「そんなこの世の終わりみたいな顔はしてないと思うんだけど……。まぁ気分的には同じくらい気が重いかもね~」


「え、なにか不味い状況なんですか?」 


 冗談で言ったつもりだったのに、同じくらいだって返されてしまったので私も身構えてしまう。私が思っているよりも良くない状況なんだろうか? 不穏な気配に私が不安を感じていると、黒が頭を抱えて。


「不味いよー! ヒナが優秀過ぎて僕以外に粉をかけられるかも知れないなんてホント嫌~!」


「あ、じゃあパパっと行きましょうか」


 くだらなさ過ぎて呆れてしまった。何を言ってるんだこの毛玉娘は。


「あー! 待ってよヒナ~! ヒナは平気なの!?」


「平気も何も私は黒以外と契約したりはしないので。それに、私はあの町が気に入ってるんです。そうそう簡単に離れたりなんてしませんよ」


「ヒナ~~~!」


 腰にしがみついてくる黒を引きずりながら進む。重たいし疲れるので早く自分で歩いて欲しい……。


「ズビッ」


「あっ! ちょっと私の服で鼻をかまないで下さいよ!」


 ぎゃいぎゃいとたった二人で賑やかにしていると程なく猫神の主さんの住まいにたどり着いた。


「やぁ、待ってたよヒナちゃん。まずはおめでとう。もう次の階梯に上がったんだねぇ」


 私達が中に入ると主さんがにこやかに声をかけてくる。


「ありがとうございます、正直まだ何が何やら分かってはないんですけど……」


「まぁまぁ、そのあたりは飲み物でも飲みながら話そうよ。黒も、それでいいね?」


「はい、問題ありません」


 黒は私達と一緒にいる時とそれ以外ではなんだか態度が違う気がする。これが俗にいう猫をかぶるってことなんだろうか? 猫が、猫をかぶる?

 私がそんなことを考えていると、主さんの後ろから霞さんが顔を出した。


「やっほーヒナちゃん! ヒナちゃんは珈琲で良いかしら?」


「あ、はい。すみませんお願いします」


「は~い」


 少し待っていると部屋が珈琲のいい香りに包まれて、気持ちが穏やかになってくる。


「すごい、いい香り……」


 思わず口からこぼれたその言葉に主さんがその大きな体を揺らしながら笑った。


「ふふふ、そうだろう? 霞の淹れるものはなんでも美味しいんだよー」


「私も見習わないとです」


「あら? 二人してそんなに褒めてくれても何も出ないわよ?」


 霞さんが飲み物を持って来てくれたのでみんなでそれをいただく。ここまで黒が口少なくなっているのが少し気になった。


「さて、それじゃあ本題を話そうか。ヒナちゃんさっきも言ったけれどおめでとう。今まででもこんなに早く階梯を上げた子は中々居ない。そこでだ、君には経験の豊富な黒との契約ではなく、まだ経験の浅い子たちと契約して学びを与えてあげて欲しいって相談が今回君をここに呼んだ理由なんだけれど、どうかな?」


 私は先程黒が言っていたことを思い出して、なる程。と思った。


「すみません主さん。私は黒以外と契約する気はないんです。迷っていた私に道を示してくれて、こうして他の方に評価してもらえることになった。その恩もありますし、何より私は黒や、お店のみんなとの時間がなによりも大切なので……」


 私がそう答えると、主さんは少しだけ残念そうにしながら、も「まぁ、断られるとは思っていたよー」と受け入れてくれた。


「そこで、だ。君のお店に研修、というか勉強に他のマスターが行くことを許しては貰えないかな?」


「私は別に構いませんよ。黒はどうですか?」


 私が即答で主さんの誘いを断ったので安心したのか霞さんにじゃれついていた黒に話を振る。


「ん? 僕も問題ないよ。ヒナがしてもいいと思うならそうしたら良いと思う」


 猫は気まぐれなんていいますけれど、それにしたってこの態度の変化は流石に気まぐれで済ませて良いものなんでしょうか……。なにはともあれ。


「とのことですので、私たちに異存はありませんよ」


「そうかい? 助かるよー。それじゃあ近々他のマスターが行くと思うけれど仲良く、ね」


「? はい」


 噛んで含めるように言われた『仲良く』が気にはなりましたが、何事もなく謁見が終わり、お店に帰る道中。


「ヒナは優しいからもしかしたらああやって頼まれたら断れないんじゃないかなって心配だったよ~」


 なんて黒が言って来るので、呆れ混じりにデコピンをしてやりました。


「私は黒たちが思っているよりもわがままですよ? 私だって自分の心地よさが優先なんですから、黒以外と契約なんてするわけないじゃないですか。むしろするかもなんて思われていたほうが私としては怒りポイントですよ?」


「へへ~、ごめんね~」


「と、言うわけで明日の黒のおやつはなしです」


「そんにゃぁ……」


 表情をころころと変える黒がしょぼくれて隣を歩くのを横目に、私は自分以外のマスターが来るということに少しだけわくわくしていました。

先日は大変な雨模様でしたが、皆さんは大丈夫でしたか? 作者の住んでいる地域は土砂崩れやらでわちゃわちゃしてました。季節の変わり目でもありますし風邪などをひかれないよ、ご自愛下さいね。

今回もここまで読んでくださりありがとうございました!

ではまた次回に!

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