海の見えるこの町で、夏樹との出会い(2)
あれから一週間が経った頃、私はどうしても気になって、また葛城へと足を向けていました。
「黒には止められましたけど、やっぱり気になりますからね……」
葛城の前に着くと、私は来たは良いけれど、どうやって彼の様子を確認しようかと、何も考えずに来てしまった自分に呆れていました。
「取り敢えず、また裏口の方を覗いてみますかね」
私は、前回不穏な会話がされていた裏口へと足を向けました。そうしたのは特に理由はなく、しいて言えば直感のようなものでした。
結果として、その直感は正しかったわけで。物陰に隠れて覗いたそこには、腕や、顔にガーゼで処置がされている夏樹さんが居ました。
彼はどうやら休憩中のようで、ぼぅっとしながら空を見上げていました。その姿が、どこか傷ついた鳥のようで、私は気がついたら彼に話しかけていました。
「えっと、こんにちは。夏樹さん」
「ん? あっ。えっと、こんにちは? あー……」
「あぁ、そう言えばまだ名乗っていませんでしたね。春日井日向と申します。喫茶店のマスターをさせていただいてます。先日は美味しいご飯をありがとうございました」
「あ、はい。春日井さん? いえいえ、先日は俺の料理は出てませんから、お礼は大将に」
そう言った彼は、苦笑すると、目線を空に向けて、私に問いかけました。
「春日井さん、まだお若いですよね? えっと、その若さで、自分の店を持つってどんな感じなんですか?」
「あら。女性に年齢の話しをするのは駄目ですよ? なんて。そうですね、私はマスターにはなりましたけど、まだ開店も出来てませんから」
私がそう言うと、彼は少し慌てて、「すいません」なんて言っていました。
私は、聞くべきではないと分かっていながらも、彼の怪我について、聞かずにはいられませんでした。
「ところで夏樹さん、その傷は?」
私がそう言うと、彼はとっさに頬のガーゼに手を当てましたが、無駄だと思ったのか、なんでもないことのように話しました。
「なんでもありませんよ。気にしないでください」
私は、彼のその言葉になんでもないことはないでしょう。と思いました。
触れるべきではない、今までそれで何度も失敗してきた。そう思っても、私は我慢が出来なくて、彼に指摘してしまいました。
「なんでもないことはないでしょう。それ、ここの人にやられたんじゃないですか?」
「あはは、そんなことないですよ。ちょっと転んだだけです」
「嘘です。転んだだけでそんな傷がつくわけがないでしょう。それに、私は貴方の先輩達が、貴方に危害を加えようとしている会話を聞いているんですよっ」
私がそう言うと、彼は先程までのどこかとぼけたような笑みを引っ込めると、奥歯を噛み締めて私に睨むような視線を投げかけました。
「あんたに、何が分かるんだ。俺はこんなところで立ち止まるわけにはいかないんだ。放っておいてくれ」
そう言った彼からは、仄かな赤とオレンジが視えて。
私は、彼は微かな怒りを覚えているのと同時に、感謝を感じているのが分かりました。
「他にないなら、俺は戻るぞ。あんたも他人の心配なんかしてないで、自分の店の心配をしたらどうだ」
彼は何も言えない私にそれだけ言い残すと、お店の中へと戻っていきました。
私は、そんな彼をただ見送ることしか出来ず、悔しさと、情けなさで胸が押しつぶされそうでした。
そんな浮かない気持ちを抱えたまま、私は自分の働く喫茶店へと戻りました。
「ただいまー」
私が喫茶店に戻ると、ミントちゃんと、タイムくんが出迎えてくれました。
「主ー、おかえりなさーい!」
「おかえり。主」
「ただいま。黒は?」
私がそう尋ねると、二人は首をふって答えました。
「お師匠はお出かけ中だ」
「ですねー」
「あぁ……。仕方ありませんね。テレパシーを使いましょうか」
頭の中で黒に呼びかけると、すぐに応答がありました。
(ん~? ヒナ? どうしたの~?)
(ごめん、黒。私結局葛城に行っちゃったんだけど、夏樹くん。怪我してたんだけど、なんとか助けてあげられないかな?)
私がそう言うと、黒は少しの間黙ってから、私に答えました。
(ん~。駄目だよって言ったのに~。今はまだ、ヒナに……。ううん。私たちに出来ることはないよ。それに、下手に干渉しても、こじれるだけだから、あまり首を突っ込んじゃ駄目)
(でも……)
(ヒナ)
私は、いつものようにどこかふざけた調子ではなく、真面目に話す黒に言い返すことは出来ませんでした。
確かに黒の言うように、私がここでなにかしてもこじれてしまう可能性はあるし、そもそも私にできることなんて、思いつきませんでした。
「あんたに何が分かるんだ。かぁ……」
私はため息をひとつ零して、カウンターの席にに座りました。
「でも、夏樹くん、感謝の色も視えてってことは、やっぱり心のどこかでは救われたいと思ってるんじゃないかなぁ」
私が、そんな独り言をつぶやいていると、後ろからひょっこりと、ミントちゃんが顔をのぞかせて、私にいいました。
「主ー? 私には何が正解かは分かりませんけど、きっと、後悔しない選択をした方がいいですよ。私たちと違って、人間の一生は短いですから」
そう言ったミントちゃんの顔は、どこか寂しそうで、考えたことも無かったけれど、そうか、猫神達は今までずっと、見守って、見送ってきたんだな、と思いました。
私は、ミントちゃんの言葉に頷くと、自分に言い聞かせるように、言いました。
「そうだよね。後悔しないためにも、今できることからなんだってやっていかなくちゃ……。もう今までみたいに、諦めたくない」
ミントちゃんは微笑んでうなずいてくれました。
その後ろでは、タイムくんも微かに口角をあげていて、私は自分に出来ることから始めてみようと思いました。
「まずは、もう一度葛城に行って、大将さんにも相談してみますかね。それに、運が良ければ、また夏樹くんにも会えるかも知れませんし」
私はそう決めると、明日に備えて二階の自室で横になりました。
更新遅れてすいません……。
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