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マスターとしての、私の在り方(3)


 私がお客さんに何を贈りたいのかは分かっても、その方法が分からないことには現状を変えることも出来ないわけで。そもそも、誰かの心を暖めるってどうしたら良いんだろう……? 私自身が心暖まると感じる瞬間は喫茶店の仕事終わりに皆でご飯を食べたり、一緒にコーヒーを飲んでいる時や、物語を読んでその人物たちに心惹かれ、共感し、成長の喜びを分かち合えた時だ。それを誰かにも感じてもらうとなると……。


「……記憶の原野で演劇をするとか?」


「ぶふっ!」


 うんうん唸りながらぽつりと零れた言葉に黒が吹き出しやがりました! これは許せない、許せませんよ!


「黒!? 笑ってないで教えてくれてもいいんじゃないですか!? 真面目に考えているのにからかうなら今日のご飯作らずにふて寝しますよ私!」


「くふっ、ははっ! ごめんごめんヒナ、そんなに怒らないで~。でもまさか演劇をしようなんて言い出すとは思わなくて思わずさ、ね? ぷぷ」


「また笑ってるじゃないですか! まったく……。それで? 笑うくらいなんですから黒には何か案があるんですよね? むしろそうじゃなかったら許しません」


 私が呻るようにそう言うと黒はまぁまぁ、と手付きで示して。


「ヒナが演劇をするなんて発想になるのも分からなくもないよ、多分自分が心暖まる瞬間を思い出してそれを相手にも届けようとしたんじゃない? まぁでも、それだとマスターがわざわざ記憶の原野から想い出を掬い上げる~なんてことにはなっていないでしょう? じゃあどうするか、だけれど多分ヒナがやりたいコンセプトは霞のそれと似ていると思うんだ」


「霞さんのですか? 霞さんのってことは心に寄り添うってことですよね」


「うん。そうだよ。霞は誰かの心に寄り添うためにっていってこの記憶の原野でお客さんの想い出を自分の心の中に取り込んで、自分もその想い出を追体験していたんだ。辛いことと、嬉しかったことの両方をね。それで霞は誰かの悩みに寄り添ってその人に最も適した想い出に自分の頑張れって気持ちを込めて掬い上げていたんだ。だから、きっとヒナがやりたがってることもこの方法で出来ると思うんだ~」


「私の中にお客さんの想い出を取り込む、ですか……」


「そう、ただ気をつけなくちゃいけないのは、その想い出に飲み込まれちゃいけないってことかな。ヒナがその想い出に触れることでヒナまで傷ついちゃったら癒やすどころじゃないからね。だから、ヒナは想い出に触れる中で自分が自分であるってことを忘れちゃだめ」


「なるほど……」


 私が私であるってことなんて普段意識したこともないですし、改めてそう言われると難しい気がします。けれど、きっと何があっても、私は自分が帰る場所がどこなのか、自分の居場所がどこなのかはきっと忘れないと思うから。


「きっと、大丈夫です」


 そんなやり取りのあと、いつものように私が選んだ想い出に手をかざして、黒に指定されたとおりにいつもとは違ってかけらを手の中ではなく、自分の中に薄く広げるようにイメージします。じわりじわりとかけらを自分の心の中に溶かし込んでいくように。目を閉じてイメージをより強くしていくと次第に私の心とお客さんの想い出の境界が曖昧になってきて。

 気がつけば私は見知らぬ場所に立っていました。


今回も読んでくださりありがとうございました!

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