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海の見えるこの町で一杯の幸せを(4)

 程なく人数分を超える程の料理が所狭しとカウンターに並べられて私達は夢中で舌鼓をうちました。食後に温かいコーヒーを飲みながら一息ついていると、湊さんがおもむろに真剣な顔になると、私に問いかけてきました。


「さて、日向ちゃん。君にはひとつだけどうしても聞いておきたいことがあるんだけれど、いいかしら?」


「なんでしょう?」


「君は、この町で、どうして行きたい? マスターとして、何がしたい?」


 その問いかけは決して私を威圧するものでも萎縮させるものでもありませんでした。けれど、その答えをすぐに口に出すことはできませんでした。


「私は……」


「いいさ、今日はお店はお休みなんだろう? なら、まだまだ時間はある。ゆっくりでもいい。君の本心が聞きたい」


「……分かりました」


 そう言いながら黒の方をちらりと見ると、先程まで静観していた黒が口を開いて。


「大丈夫。ヒナの思うように答えたらいいよ。どんな風になりたいと思っていても、僕はヒナの味方だよ」


 その言葉に頷くと私は今までのこの町での生活を思い出して――。


 この町に来たばかりの頃行く宛もなかった私にこのお店のことを教えてくれた喫茶店のマスターさん。

 葛城の大将さんや、買い出しに行くたびに話しかけてくれる町の人達。

 お店に来てくれて、笑顔で帰っていくお客さんたち。

 湊さんや、お店で一緒に働いてくれるミントちゃんにタイムくん。そういえば二人に名前をあげた時も楽しかったなぁ。

 それに、遥。意地っ張りだけどなんだかんだ優しくて、可愛い弟かと思えば時々かっこよかったりする。

 そして、黒。私がこの町に来た頃からずっと私を見守っていてくれて、今も私の隣に立ってくれている大切な相棒だ。

 皆、暖かくて、優しくて、甘くて。喧嘩をすることもあるし、意見がいつも合うわけじゃない。それでも、私は今のこの空間が、町が、人が。その営みが。大好きで、大切で、守りたい。そう思わせてくれることが、嬉しくて、幸せで。だから私は、私にできることは――。


「私は、私にできることをしたい。私にしかできないことをしたい。この町に住む人達が大好きだから、もしも悲しい気持ちに埋もれてしまっている人がいるなら助けてあげたい。私には、飲み物を作ってあげることしかできないかもしれない。けれど、ただの飲み物じゃなくて、私は……」


 一息にそこまで言ってから、ゆっくりと息を吸い込んで、自分にも言い聞かせるように、その心に刻み込むように。


「この町で一杯の幸せを、提供していきたいです」


 そう口にした途端に自分の中にもその言葉がすとん、と落ちてくる感じがして、これが私がしたいことなんだと、頭よりも先に心が納得した気がしました。今までにないくらいの充足感で自然と口元がほころんで、ふと周りを見渡すと……。

 ぽかんと口を開けている皆の顔が目に写って。


「な、なんですか?」


 思わず尋ねてしまいました。すると、数拍置いてから黒が。


「い、いやぁ~。なんだか急に大人になった娘をみている気分というか、マスターみたいだなって……?」


 なんて言うものだから、「マスターですけど!?」と思わず食い気味にツッコんでしまった。そのツッコミがきっかけになったのか一気に緊張が緩んで、誰からということもなく笑い声がお店に溢れて、しばらくはその声が静まることはありませんでした。

 そんな笑い声もお腹が痛くなってきたり息が苦しくなってきたりで、全員が呼吸を整えると。


「はは、ふ。いや、まだ笑いそうだ。でもとてもいい答えだったと思うよ日向ちゃん。私はその答えが聞けただけでも今日来たかいがあったってものさね。うん、もうこれ以上とやかくは言わない。好きにやってみるといいさ! なぁに、なにかあったら私がちゃんと止めてあげるさね」


「その止めるっていうのが物理的に私の命を止める意味じゃないことを祈るばかりですが……。ありがとうございます、湊さん。私は私に出来ることをしていきます!」


 私のその答えを聞くと、湊さんは「さぁて、そろそろお暇しようかね」なんて言って帰って行きました。その後、遥からさんざんからかわれたりしましたが、減給を盾にしたら文句を言いながらも明日の仕込みを始めました。ミントちゃんとタイムくんはそんな遥の背中を一度ずつ叩いて励ましてから隣でお皿洗いをしていて。黒は……。


「ヒナ。この町は好きになれた?」


 なんて私の前で嬉しそうに聞いてきたので。


「はい、好きですよ。海の見えるこの町に来たのは間違いじゃありませんでした。最初はただ漠然と海が見えるところに住みたいなー。くらいの気持ちだったんですけどね?」


 そう答えると、黒はくすくすと笑って私の頭を撫でてくれました。この年になって誰かに頭を撫でられてるのはなんだか照れくさい気がしましたけど、決して嫌じゃなくて、むしろその温もりが心地よくて。

 私はこれからも、海の見えるこの町で一杯の幸せを提供していこうと。

 そう思えました。

お待たせして申し訳ありませんでした!

今回はタイトル回収回です~~!なんだかまるで最終回みたいな終わり方してますけど、まだ続きますので、続きますので!

今回もここまで読んでくださりありがとうございました!

ではでは、また次回にお会いしましょう~!

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