海の見えるこの町で一杯の幸せを(1)
くちゃくちゃに泣きはらした顔のまま黒に手を引かれながら来た道を戻り私達は希望郷からスミレに帰ってきました。帰ってきた途端に感じる海の潮の香りがどこかほっとして、自分で思っているよりも私はこの町が好きになっていて、それと同時に私自身の帰ってくる場所、居場所を見つけていたんだなぁなんて。それがなんだかくすぐったくて笑いながらまたちょっぴり泣いてしまいました。黒が私の涙をハンカチで拭ってくれていると、階段の上からぱたぱたと軽い足音が駆けてくる音が聞こえて、黒はくすくす笑いながら視線を地下室の扉に向けました。
「主ー! おかえりなさーい!」
勢いよく開かれた扉から、ミントちゃんが私の胸めがけて飛び込んできました。ちょっぴりびっくりしましたがちゃんと抱きとめてその頭を撫でていると、遅れて扉からはタイムくんが顔を出しました。
「遅い。明日は休みにしているからいいけど、久々に休みなんだからこんなに遅くまで起きていたくない。まぁ、でも無事に帰ってきたなら、良い」
ちょっとだけ照れくさそうにしている姿がなんだか可愛くてミントちゃんと一緒に抱え込んで頭を擦り切れるほど撫でてあげました。その感触を目一杯楽しんでいると黒が「そろそろ離してあげないとはげちゃうよ……」なんて言うので渋々開放してあげました。
「こ、殺されるかと思った……」
タイムくんはフラフラしながら私から距離を取りましたが、ミントちゃんは開放してからも私にもたれ掛かってきたりして、寂しかったのかな? なんて思ったり。
「ほらほら~。今日はもう遅いからみんな寝床に入ってぐっすり寝るよ~」
黒が手をたたきながらそう言うので、各自寝室に戻り眠りにつくのでした。
私は自室に戻ってから、希望郷で見聞きしたことを思い出して自分がしなくちゃいけないこと、したいことをじっくり考えながら気がつけば眠りについていて……。
ふと気がつくと、見慣れた町中に私は居た。なんとなく「あぁ、これは夢の中だな」と、確信に近い感情を抱く。町中にはいつもと同じように色んな人がいるけれど、その人達から人として必要な何かをまったく感じなかったからだ。例えるなら感情が抜け落ちているような……。
「やぁ、日向ちゃん。久しぶりだねぇ。少し見ない内に随分と心の中の整理が出来たようでなにより!」
急にそんなふうに声をかけられて、どこかで聞いた声だと思いながら振り返るとそこにはこの町に来た頃に出会った雑貨屋のお姉さんが居た。あれ? けれど私はあの時自分の名前を言ってなかったような……。
「あぁ、そうだねぇ。まったく、質問ばかりで自己紹介もせずに走っていっちゃうんだものなぁ、お姉さん寂しかったぞ?」
「あの、もしかしてお姉さん私の思考を読み取ってます……?」
私が恐る恐るそう尋ねるとお姉さんは呵々と笑って。
「なんだなんだ、随分こういう現象にも慣れてきたみたいだね? そうだよ、お姉さんは今日向ちゃんの頭の中を覗き視てた」
「まぁ色々私も見てきましたから……。お姉さんも猫神の関係者、マスターなんですか?」
もしかしたらこの質問は悪手なのかもしれないけれど、それでも何もわからないよりはと思いましたがこれもきっと視られているんでしょうね。
「ははは! いいねいいね! お姉さんはそういうの嫌いじゃあないよ。でも残念。私は猫神でもないしマスターでもないよ。私は……」
「あぁ~、なんだかヒナのところに変わった気配があると思ったら君だったんだね~。湊」
お姉さんが答えようとしたタイミングで、この町に来てから最も慣れ親しんだ声が飛び込んできました。慌てて振り向くとそこには黒が立っていて。
「おやおや、猫神じゃないか。随分と早かったね? 相当この子のことが気に入っていると見える」
「それは君も同じなんじゃないかな~? 普段はこんなちょっかいなんて出してこないくせにさ~」
「くははっ、たしかにそれもそうだねぇ。この子が町に来た時になんだか変わった匂いがする子が来たなぁって興味が湧いたんだけれど君のマスターになるなんていうんだものなぁ。気にしないほうが嘘だろうさ?」
「まぁそれもそうだね~。でも、この子はもう僕のところの子だ。君には渡さないよ?」
「あ、あのちょっと待って下さいっ! なんだか当事者の私を置き去りに話が進んでいる気がするのですが?」
あれよあれよと進んでいく二人の会話になんとか割り込みましたが、黒の正体を知っていながら対等に話しているこのお姉さん、湊さんが只者でない事だけは確かで。そんな人? に目をつけられているというのはぞっとしません。
「あぁ、ごめんごめん。そう言えば私もまだ名乗っていなかったね。私の名前は叶湊。この土地の土地神さ」
またも入院してまして投稿が遅れましたことをお詫び申し上げます。どうなってんだこの体(´・ω・`)




