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私と、先代と、マスターのお仕事(5)

 ひとしきり黒と霞さんをもみくちゃに抱きしめたあと、霞さんが「こほん」と咳払いをしてこれから私達がしなくてはいけないことを説明してくれました。


「あなたたちには猫神の主に会うために猫神の世界に来てもらいます。その世界に入るためには先程黒が渡した鍵が必要で、それが招待状になってます。その鍵をこのお店地下にある扉に使えば入ることが出来るから、準備ができたらいきましょうか」


 私は一応このお店のマスターをしていますが、このお店に地下室があるなんて知りませんでした。黒をちらりと見ると目をそらされたので多分また伝え忘れていたとかそんなところなのでしょう。


「準備ってなにか持っていくものでもあるんですか?」


 手土産でも持っていく必要があるのだろうかと思って霞さんに確認すると。


「いいえ? 特に持っていくものはないわよ。あぁ、ただ今まで集めたかけらだけは持ってきてね。それだけは忘れずに。あとはそうね、明日はお店をお休みにしたほうが良いと思うからその連絡とかかしらね」


「あ、そうか。それもそうですね。遥にも連絡しておかないと。勝手に店を閉めたとかいって怒られそうです」


 私が特に意識もせずに遥の事を口にすると、霞さんはくすくす笑いながら。


「お店のお客さんたちが困るからって意味だったんだけど、そうかぁヒナちゃんは真っ先に遥くんが思い浮かんだのね?」


 なんて言うものだから私は自分でも無意識の内に遥のことを考えていた事実に恥ずかしさやら悔しさやらで否定することもできずに口元をむにむにと動かすことしかできませんでした。

 それから、臨時休業の張り紙を作ったり、遥に連絡をして「は? 急に休みってお前風邪でもひいたのか? おかゆでも作るか?」なんて謎の心配をされて事情を説明したり……というか私のお母さんですか遥は。

 そんなこんなで、私達が居ない間のお店のことはタイムくんとミントちゃんに任せて私達は猫神の国に行くことにしました。


「それじゃあ準備はいい? 黒も主に怒られる覚悟は出来た?」


 霞さんの案内で物置の床下にあった階段を降りた先の地下室の扉の前に来た私達に最終確認をしてくれます。黒が怒られるのはどうやら確定事項のようです。黒はどこか遠いところを眺めながら覚悟を決めているようでした。


「はい、大丈夫です!」


 私は自分の知らない世界を見られる好奇心のほうが強くて、早くこの扉を開けたくて仕方なかった。もしかしたらこの扉の先にはにゃんにゃんパラダイスが広がっているのかもしれないし、もしかしたら黒みたいに人間と変わらない姿で生活している人たちがいるのかもしれない。ただ確かに言えることはそこは私にとって未知の塊だってことだ。興味本位じゃないと言えば嘘になるし、本来の目的はお仕事のためだけれど、それでもわくわくしてしまう。きっと、誰だってそうだと思う。新しい本の一ページ目を開く時はいつだってわくわくするはずだから。


「それじゃ、いくわよー」


 霞さんが扉を開くと扉の向こう側には空が見えた。私はなにがなにやらで混乱していると、ミントちゃんとタイムくんがくいくいと私のすそを引いて。


「主、主。向こうにいったらその辺に生えてる果物とか食べちゃ駄目ですよ。なにか食べる前にお師匠に確認してもらって下さいね」


「水もだぞ、生水とか飲んじゃ駄目だぞ」


 私は二人の忠告にうなずきながら、そう言えば神様の国のものを勝手に口にすると戻ってこれなくなるなんて話があったな、なんてことを思い出していました。


「大丈夫よ、二人共。今回は私も黒も一緒だしちゃあんと帰ってこれるようにしてあげるから」


 霞さんはそう言って私の心配をする二人の頭を撫でてあげて。


「ところで、扉の向こうに空が広がっていることには驚かないのね?」


 なんて私に聞いてきましたが、私は。


「正直驚きよりもワクワクが強くて、早く行ってみたくてしかたないです」


 なんて照れながら伝えました。けれど、それを聞いた黒は先程までのしょぼくれ具合はどこに行ったのかとても真剣な顔になって私に忠告をするのでした。


「ヒナ、好奇心は猫をも殺すっていうからね。ただの旅行に行くんじゃないんだ。絶対に僕から離れないようにね」


 黒のあまりに真剣な声に私は喉を鳴らしながら頷きました。


「さぁ、じゃあ今度こそ行きましょうか」


 霞さんが扉の中に入っていって黒と私もそれに続きました。

 

新しい本の表紙をめくる時ってなんだか無性にわくわくしませんか?

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