私と、先代と、マスターのお仕事(3)
「猫神様たちが人間と契約する理由、ですか?」
女性が猫の姿に変わったことの衝撃から立ち直ると、彼女は私に自分たちが人間と契約することには理由があるときりだしました。
「そう、理由~。僕たちはこの世界とは違うところに自分たちの暮らす世界を持っていてね、そこには僕たちの王様『猫神の主』がいるんだけれどね? もうずっと主は病魔に侵されているんだ。病魔と言っても、人間の罹患するようなそれではなくて、どちらかと言えば呪いって言ったほうが近いかも知れない。僕たちはそんな主の呪いを解くために協力者を探しているんだ。それが、マスターだよ」
「ま、待って下さい。急にそんなにたくさん言われても処理が追いつきません!」
私は一度に多くの情報を開示されてそのどれもが、普通に生活していれば触れることもない情報ばかりだったので一体どこから処理していけば良いのか分からず慌てて彼女の話を制止しました。
「あぁ、ごめんごめん~。そうだよね、確かに急に言われても分からないと思う。でも、これは本当に大切なことだからひとつずつでもちゃんと理解して欲しいんだ」
彼女の真剣な表情からはどこか懇願めいたものを感じました。私は、誰かに私のこの眼を疎まれることはあっても、必要とされたことはありませんでした。そんなこの眼が嫌いで、でも自分の個性を嫌ってしまうことも怖くて、ずっと悩んでいました。そんな私を変えるためにこの町に来て、そしてこうやって私のことを必要としてくれているなら、私は応えたい。だから私は、彼女の言葉に頷きひとつずつ説明してもらうことにしました。
「わかりました。私も雇ってもらう身ですし事情は知っておきたいです。なので、ひとつずつ説明して頂けませんか?」
「うん、ありがとう。じゃあ説明していくけれどわからないところがあれば聞いて欲しい。これを分かってもらえないと僕たちは契約が出来ないからね」
そう言って、彼女は自分たちの事情について話してくれました。彼女の話を自分なりに纏めながな手帳にメモしていきます。
曰く、彼女達は神様と呼ばれたり名乗ったりしているけれど、その実は妖精の類であるらしく、海外であればケットシーが知られているためそのままケットシーと名乗っているけれど、日本ではあまり馴染みがないので猫神と名乗っているらしいです。そして彼女たちは出会えば幸せになれると言われている存在であるらしく、それも本当とのこと。ただし、人に幸福を与えるのではなく、その人の幸福だった思い出からその感情を引き出しているだけで、その思い出から感情を引き出す時に、リスクを犯しているとのことでした。
「でも、それだと随分昔からあなた達は活動していることになりませんか? だってケットシーって凄く昔から海外では知られていますよね?」
私がそう聞くと彼女は静かに頷いて。
「うん。僕たちはもうずっと長い間世界のバランスをとってきた。それにマスターと契約して、主の呪いを解こうとしはじめてからも気が遠くなる時間を過ごしているよ」
「あの、そこが少し疑問なんですけど、どうして人間に幸福を運ぶことで猫神の主さんの呪いが解けるんですか?」
「あぁ、そうかそこから話さないといけなかったね。そもそも僕たちはこの世界にとってバランスを司る妖精なんだ。人だけに限らず、生き物は負の感情をどうしても溜めやすい。でも、それが世界に溢れてしまったらあっという間に世界は争いで滅んでしまう。だから僕たちが負の感情を幸福な感情で中和する。そうやって僕たちは過ごしてきたんだよ。けれど、僕たちは負の感情を中和する時に一度僕たちの心の中を通していたせいで負の感情に飲まれてしまう者が出始めたんだ。それが、呪いの正体だよ。そしてその呪いを解くために必要だって言われているのが、思い出の欠片って僕たちが呼んでる物なんだけど、それは人間の負の感情を中和した時にだけ精製されるんだ。そして、人間と契約してマスターになってもらうとその欠片の純度が上がることが分かったんだ」
私はその話を聞いて、ひとつ思ったことがありました。けれど、なんとなく違う気がしてそれを声に出すことはしませんでした。
「なるほど、なんとなくですけど理解しました。私は特にマスターのお仕事に対して嫌だとかはありません。むしろ私の眼が役に立つと言ってくれるなら私はそれだけでやる価値はあると思っていますから」
私がそういうと彼女は先程までの真面目な雰囲気を崩して、ふにゃりとした喋り方に戻ると。
「良かったぁ~。もし断られちゃったらどうしようかと思ったよ~。じゃあ、契約の最後のひとつ。僕とこのお店に名前をつけてほしいんだ」
「名前、ですか?」
私が問いかけると、こくりと頷いて。
「僕たちは名前をつけてもらって、マスターに力を縛ってもらうんだ~。だから、僕に名前をつけて欲しいんだ。お店の方は単純に代替わりしましたよ~っていう意味かな~」
私は力を縛るという言葉に疑問を感じましたが、多分必要になったら教えてくれるでしょうし早速彼女の名前をつけてあげることにしました。
「じゃあ、名前を付けますね? 貴女は今日から黒です。それで大丈夫ですか?」
「ん~、安易に黒猫だからって付けられた気がするけど大丈夫~。じゃああとはお店の名前だけど、どうする?」
「お店の名前……。『スミレ』でどうでしょうか? スミレの花言葉は小さな幸せ、ですから」
私がそういうと黒は小さく吹き出して。
「ヒナ。君案外乙女なんだね?」
なんて、からかって来たので思わず。
「ほっといて下さい!」
赤くなったであろう頬を手で隠しながら叫んだのでした。
今回は黒がたくさん喋る回になりました。喋り過ぎかなと思わないでもなかったのですが、それだけ伝えたかったことなんだろうなぁと筆者自身は納得しましたがいかがでしたでしょうか?
今回もここまで読んでくださりありがとうございました!
面白い、癒やされる等感じて頂けましたら応援して頂けますと筆者も励みになりますので一言でも全然大丈夫なので伝えてもらえると嬉しいです!
では、また次回に!




