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海の見えるこの町で見つけた私の居場所

 思考の海を息継ぎもせずに泳ぎきり、顔を上げると黒髪の女性が私の瞳を覗き込みながらにこりと笑って。


「やぁ、おかえり。自らの過去に向き合う旅路はどうだった?」


 なにもかもを見透かされる気分というのはこういうものなのだろうかと、不思議と冷静に思った。私が今まで誰かに向けていた眼が、今私に向けられている。私は今までの自分と、この眼と向き合うと決めてこの町に来たんだ。だからこそ、私はその眼をしっかりと見つめて。


「人が絶望から立ち直るためには、暖かい心がそれが宿る思い出が必要だと思います。少なくとも、私はそれが欲しかったし、今でも欲しいと思っています。あ、でもでも私は今は絶望しているとかそういうのではなくて……。えっと……。私、ここに来た理由を自分で分かっているつもりで分かっていませんでした。でも、それが分かった気がします」


「うん、それは良かった。それで、もしも僕の所で働いてもらうことになったら君には人の感情に寄り添う仕事をしてもらうことになると思うけれど、それは平気? もしかしたら、見透かしているようで気味が悪いなんて言われるかも知れない。それでも、君は大丈夫?」


「私は、大丈夫です。私が私であることを嫌っているようじゃ駄目なんだって。だから、私は私を受け入れます。私が寄り添うことで誰かのぬくもりになれるのなら、私はやりとげます」


 言い切った後も、決して私は眼をそらしませんでした。今眼をそらせば、過去の自分から逃げているように感じて。私は、過去の自分のしてきたことを反省はしても、後悔はしたくないとそう思えたから。逃げるのではなく、受け入れていくんだと、今自分に誓ったから。


「うん。いいね、合格だよ日向。ううん、ヒナ。君なら僕のお店の主になるにふさわしい。君の眼はこの仕事で大いに役立つよ。もちろん、君のその優しさもね?」


 そういうと女性は軽くウィンクをして……。ん? ちょっと待ってほしい。


「私この眼のこと今お話しましたか……?」


「ううん、してないよ。でも僕にはわかるんだ。僕はこの町の猫神。これでも神様だからね、そういう神様からの祝福の類は見ればわかるよ~。それに、ヒナのことはこの町に来た時からずっと見てたからさ~」


「待って下さい待って下さい! 情報の整理が追いつかないのでっ。えっと、あなたは本物の神様で私をずっと見ていた……? いや、そもそも本当に神様がいるんですか? それにずっと見ていたって言いますけど私は一度も見かけませんでしたよ?!」


 私が混乱してあれやこれやと言っていると、女性はいたずらっぽく笑ってうなずくとその場でくるりと回って、次の瞬間にはその姿はそこにはなく、白いワンピースだけが残りました。


「て、手品ですよね?」


「んも~違うってば~。おにぎりを一緒に食べた仲だって言うのに酷いなぁ」


 声が聞こえた方に視線を向けると、そこには堤防で見かけた黒い毛玉、もとい黒猫がいて。きょろきょろと店内を見回しても、先程の女性の姿は見えなくて、思わず……。


「本当に神様なんですか?」


「だからそうだって言ってるんだけど~?」


 なんて、間の抜けたやりとりをしてしまいました。




「とまぁ、そんなこんなで私はこのお店のマスターとなったわけです」


「あの時の主は口開けたまま暫く固まってて、面白かった」


「まぁまぁ仕方ないですよー。主は私達に会うまでは神様がいることだって知らなかったんですもん。ね?」


 タイムくんの明日のお昼ごはんはにぼしに格下げとして、ミントちゃんの優しさが身にしみます……。お昼ごはんになにか一品を追加してあげましょう。


「しかし、なんだ、その……」


「遥どうしたんです? もしかして私の過去を知って守ってやらなくちゃとか思っちゃったんですか?」


「いや、まさかそんなにやる気に溢れてた馬鹿の成れの果てがこれか、と……」


「は? なんです? やるっていうんですか? 受けて立ちますけど、こっちはお給料握ってるんですからね? 負けませんよ」


 私が遥に向けてシャドーボクシングをしていると、遥がふと何かに気がついた顔になり。


「あれ? でもそこまでだとこの店の名前とか黒さんの名前とかはどうしたんだ?」


「割とささっと決めましたよ? 黒の名前はですけどね。お店の名前は……。またの機会に話しましょうか。物事には明かすべき時というのがありますし?」


「何ドヤ顔してんだよ。……なんかむかつくなその顔!」


 そこからはぎゃあぎゃあといつもの喧騒が戻ってきて。けれどその中でなにやら含みのある笑顔で私達を眺める黒が印象に残りました。


「随分、賑やかになったね~……。君がこの場にいたらきっと年甲斐もなく一緒にはしゃいでいたんだろうね。……霞」


 いつもどおりの夜の夜の喧騒の中で、黒の呟きに気がついた私はそっとテレパシーで黒に話しかけました。


(黒、もうひとりぼっちじゃないですよ。私も、黒も)


 私がそれだけ言うと黒は一瞬めを丸くしてから、ふにゃりと笑ったのでした。

ここまで読んでくださりありがとうございます~。

ここまでで序章が終わったかな~という区切りの回になります。

区切りと言ってもまだまだ続きますので今後も読んで貰えるような作品になるよう頑張る次第です。

誰かに教えたくなる物語になってほしいと願っているのですがいかがでしょう……?

あ、あと活動報告なるものを初めてみましたので、よろしければ合わせてどうぞ!

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