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誓いの3P  作者: 三日坊主・吉之介
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気炎万丈

気炎万丈きえんばんじょう

 盛んに意気を大いにあげること

 少年の放ったシュートはリングに当たらずに決まった。

完璧なフォーム。見る者を圧倒するそのシュートは観客に瞬きを許さない。相手さえ、コートに縛り付けられたかのように動けなかった。

 会心かいしんの一撃。


「しゃあぁぁぁ!」


 シュートを決めた少年は掲げていた拳を振り下ろす。


 彼のいる位置はハーフライン近く。彼のプレイスタイルはこれまでとの違いを外へと知らし召す。その姿は嘗ての彼の恩師の若き姿に似ていた。


 夢中になって努力したこれまでが報われた一瞬だった。少年は誓いを立てたあの時に思いを馳せる。





◆◆◆◆◆





 隣の公園にあるバスケットコートが一望いちぼう出来る病室の窓側で、少年たちは静かに涙を流す。

 監督がーーー恩師がーーー静かに睡っている光景こうけいが信じられなかった。自分たちの知っている監督はどんなときでも強かった。弱みなど一切見せず、ただそこにいるだけで安心できた。

 監督が病気を患っていることを知っていたのはごく僅かで、少なくとも少年たちは知らなかった。

 監督の手がぴくりと動き、目を覚ます。


「そこにいるのは隼か。ああ、ここは病室か。そうか。ついに倒れたか」


 ポツリと、呟いた。


「っ、監督ーーー」


 監督が少年の頭に手を置いた。


「どうやら俺はここまでのようだ。悪いな後1年指導してやれなくてーーー」


 少年たちは唇を噛み締め、俯く。


「自分のことは自分が一番よく分かっている。俺の最期さいごはもう近い。だから、よく聞け我が教え子」


 己の最期を決意したとき、彼の心境しんきょうを知れる者はいなかった。


「お前らは強い。これまで教えてきた教え子の中でも上位に入るぐらいには。だから自信を持て。そして、俺の孫に目にもの見せてやれ。誇示こじしろ。一人一人が負けていても、お前らなら、チームなら勝てることを証明しろ。俺の教え子はこんなに強いんだってーーー」


 少年たちたちは泣き崩れた。


「たっく。いつまで経っても、何代変わっても何ら変化のねえ奴らだ」


 監督は順に少年たちの頭を撫でる。


「監督。俺、監督の後を踏襲します。今まで他に誰も出来なかった監督の後をーーー。だから、その姿を見ていてくれますか?」


「ああ。もちろんだ」


 その約束から数時間後、監督は家族に看取られながら臨終りんじゅうに笑顔を見せて他界した。


その日は幸いにも雨で、病院横のバスケットコートにいた少年の涙を誰かが目撃することはなかった。






◆◆◆◆◆





 彼が回想かいそうしていたのは僅かな間だった。偉大いだいな恩師の背中は遠く、監督の数ある偉業いぎょうの一つにやっと手が届いたということだ。

 少年は、相手のエースを指差す。彼こそが監督の孫であり、少年たちのライバル。去年、大敗を喫した相手である。白石しらいしじん。去年のIHインハイ、新人戦ともに優勝。どちらとも1年生にして大会MVPに選ばれた天才で監督の英才教育を受けた怪物。最近では大学生と練習試合をしていると聞く。


 試合は続く。

 片や監督の孫を抱える現最強。片や監督の教え子による元最強。

 両者が両者、負けられない理由がある。






◆◆◆◆◆






 都心に林立りんりつする強豪校。その一つに少年はいた。2年前に全国を優勝し、監督は20年間変わることなく結果を出し続けていた。しかし、そんな監督も既に歳で後何年残るか分からない状況だった。この監督の指導を受けるため少年は幾多の推薦を蹴って一般入試でこの学校に入ってきた。


いちじくしゅんです。ーー中出身。優弥ゆうや監督の指導を受けるために来ました。よろしくお願いします」


 隼は元気よく自己紹介をする。その後も自己紹介は続き、それが終わると各自希望するポジションに別れてテストが行われた。


 最初はフリースロー。この学校固有の風習でフリースローは時間一杯使って決める。ボールを受け取ってワンテンポ置いた後5秒ギリギリにシュートを撃つ。チーム全体でこれが徹底されているのだ。理由は明かされてなく、卒業生でも知らない。理由を知っているのは監督だけだと目されている。監督は深遠しんえんな考えを持っている。


 次にランニング。ビブスを渡され先輩の後をただ只管走るだけ。


「あの、先輩、後何周走るんですか?」


 隼は少しペースを上げて先輩の横を走る。


「ん?そうだな・・・。とりあえず50は走るかな?まあいいや。1年、喋れる元気な奴らがいるからペースを上げるぞ!」


 そう言うと、それまでの2倍のペースで走り出した。


「ちょっ!?」


 1年生は慌ててついていくが、ペース変化に対応仕切れず半数以上が3周以内に遅れ、10周以上ついて行けたのは全体で3人だけだった。50周に近づいたときには誰もついて行けてなかった。


 予め、途中リタイアが許されていたため、心に余裕を持ってリタイア出来ていた。だからか、隼が休憩場所に戻ったとき1年生の中には笑顔があった。必死な顔で休んでいるのは僅かしかいなかった。


「8番、10番、23番、46番ーーー」


 先輩がビブスの番号を呼んで別の場所に連れて行く。その顔ぶれは必死に走っていたかどうかだろう。

 ここは強豪校だ。やる気のない奴から消えていく。特にここは世界一と呼ばれる監督がいるのだ。入学してくる生徒の1割がバスケ部。代わりなど、いくらでもいる。


「君、初心者だろ?」


 先輩が隼の横を歩いていた少年に話しかける。


「はい」


「じゃあ、止めた方が良い。ここは他とは違う。中学でいくら名を馳せていても先輩相手には太刀打ちできない。時間の差はそれだけ巨大だ。ここからリスタートじゃ遅すぎるんだ」


「っ!」


 少年は唇を噛んで俯く。覚悟はしていたのだろう。初心者が強豪校に入るんだ言われないわけが無い。


「先輩。それじゃあ、中学で才能を開花出来なかった奴らは皆止めろって言ってるようなものですよ?」


 隼は少年と先輩の間に入る。


「九1年、本当に才能のある奴は中学で開花させているんだ。現に今年のスタメンを見ろ。ベンチまで全員が中学で注目されていた選手だ。俺は、監督が何故部員をあそこまで残すのか疑問でしょうがない。半分以上は使えないのに」


 隼の目から見て下で甘んじている者たちは決して弱くない。それこそ他の学校では余裕でレギュラーを取れる選手もごろごろいる。しかし、ここは優勝常連だ。他とは一線を引いている。ここで生き残るには何らかの才能が必要なのは確かだ。


 それでも、それでも隼は先輩の言葉を認めれなかった。


「ここには優弥監督がいます。あの人の指導なら初心者でも全国区に成れるはずです」


 隼は目を逸らさない。先輩をじっと見つめる。


「ああ。監督なら初心者だろうが関係なく育て上げるだろう。でもよ、監督の指導を受けるのは何もそいつだけではない。全員が受けるんだ。そしたら必ず伸び悩む。初心者は心が折れるさ。だって決意して入ってきていない。無知故の蛮勇。経験者でさえ1年で何人も辞めていくんだ。だったら初めからやらなければ良い」


「あの!僕は君下先輩の3Pを見て憧れたんです。身長が他よりも高い訳じゃない。フィジカルがある訳じゃない。でも、先輩はここで活躍している。確かに年齢の差は大きい。先輩がレギュラーになったのは確かに3年生の先輩が怪我をして出れなかったから。先輩はまだ勝っていない。でも、先輩の活躍は格好良かった。ああなりたいと思った。だから入ったんです。ここが強豪なのは知ってます。分かってます。理解しています。それでも、僕はここにいるんです。例え君下先輩が僕を否定しても、僕は勝ってに先輩を追います」


「ああ、そうかよ」


 驚愕を顔に貼り付けていた先輩はくるりと翻してどこかへ行ってしまった。




◆◆◆◆◆




 春休みが開け、入学式を終えた隼たちは部活届けを出しにバスケ部の下へ急いだ。

 あの後、先輩に啖呵を切った少年、大石おおいしあゆむ君と隼とその場にいた何人かは仲良くなった。隼と歩は同じクラスだったのもあり、一緒にいた。


「おっ!君が九君か。俺は全中を見に行っていないけど話しは聞いてるよ。でも凄いよね、推薦候補に最後まで残ってたことで有名だよ君。まさか一般でここに来るなんてね。頭良いんだね?ああ、俺はくちなし悪兎あくと。2年生だよ。奥でタブレットいじってるのがキャプテンだから。ほら、さっき部活動紹介していたーーー。」


 なんだかよく知らないけど、とにかく口が止まらないおしゃべりな先輩だった。


「あの、僕のもお願いします」


 歩がおずおずと差し出す。


「ああ、ごめんね。はいはい、と・・・」


 悪兎は一通り目を通した後、もう一度目を通し、視点を止めた。


「ああ、確認だけどさ、間違ってたらごめんね。君って本当に初心者?まじで」


「はい」


 歩は俯いてしまう。


「ああ、そう。ときどきいるんだよね。強豪の名を借りようとする奴。君、キャプテンの話聞いてた?初心者はお呼びじゃないわけ。遊びは他でも出来るからここで3年間棒に振る前に他所に移りな。て言うか、君下も何でこんなの残したんだよ。かわいそうじゃね。ああ、もしかして君、春休みのに参加してない?だったらなおさら入れないよ。とにかく、これは返すから」


 そう言って歩の入部届は受理されなかった。

作者はバスケに詳しくないッス。ついこの間トラベリングを知ったぐらいッス。間違いあったら教えて欲しいッス。一応いくつかのマンガは読んでます。

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