私のお墓に花束を
─── リュゼリーナ・アルス・セレイン享年10歳 ───
うらぶれた共同墓地の隅っこにその子供のお墓は、あった。
彼女の母親の墓の隣だ。
伯爵家の霊廟には、入れてもらえない。
何故なら彼女の母親は、メイドだったから……
よくある話で、主人が、メイドに手を出して。奥方の怒りを買い屋敷から追い出されメイドは、下町でひっそりと生きてきた。伯爵家の血を引く娘と共に……
私は、その小さな墓の前に母と私の好きな花を置いた。
「お母さんの墓の隣に眠っているのね」
リュゼリーナは、しばらくすると立ち上がりフードを深く被った。
「また来るね。お母さんと私……」
カーン カーンと教会の金が、鳴る。
夕暮れの墓地の門が、閉まる前に彼女は、立ち去った。
***** ***** ***** *****
「リュゼリーナ・アルス・セレイン‼貴様との婚約を破棄する‼そして私は、ミッシエル・アルス・セレインと婚約者する」
私の婚約者ディアス第二王子様は、学園の卒業パーティーで高らかに宣言した。
ディアス王子様の隣には、美しい私の姉が、いる。ざわざわと周りが、ざわめく。
「賜りました」
私は、淑女の礼をする。
王子様に頭を下げるとさっさとパーティー会場を後にした。
「ちょっと待て‼リュゼリーナ‼」
「リュゼ‼まだこの後に断罪イベントが‼」
王子様と姉が、何か喚いていたが、知った事じゃない。
無駄な時間は、無いのだ。
私は、部屋に帰るとドレスを脱ぎ捨てた。
そのままにしておこうかと思ったが、何だか捨てられたドレスが、私みたいで哀れに思えてクローゼットにしまう。
元は、平民。貧乏性だ。いや、勿体無い精神は、大事よね。
また平民になるんだから。
似合わないゴテゴテしたドレスの代わりに水色のストラップのワンピースとマントを着てキャロットを被る。
ケバケバしい化粧を落とすと、何処にでもいる町娘の出来上がりだ。
私の名前は、リュゼリーナ・アルス・セレイン18歳。伯爵令嬢だ。
今は、家名を捨てただのリュゼだ。
そうだ‼良い人(笑)良い婚約者(笑)
ふん‼都合のいい子の間違いだろう!!
私は、私を取り戻す!!
私は、身の回りの品と日記とお金の入った鞄を持って寮を出た。
蔦の絡まった壁にあいている穴から外に抜け出した。
そして森に隠している魔方陣に向かった。
ちゃんと魔方陣が、ある。私は、辺りを見回した。
うん。誰もいない。
この世界には、ギフトと呼ばれる神から贈られた才能が、ある。
私のギフトは、一度しか使えない。
異世界に転移するギフトだ。
私は、魔方陣の中に立ち。魔方陣を発動した。
気が付くと私は、森の中で倒れていた。
魔方陣は、無い。
太陽は、頭の真上にある。
異世界転移に成功したのだろうか?
異世界は、時間帯が、少しずれているんだろうか?
それとも魔力欠乏性で気を失ってた?だるさもないし。体に異常は、無いようだ。
よっしや~!!鞄もある。
私は、鞄を持つとテクテクと歩いて森から出ると、町に向かった。
学園から近い街は、転移前と変わらない用だ。もっとも些細な所は、違うのかも知れない。
私は、花屋のおばさんから花を買った。
「おや。見かけない顔だね」
いつも花を買うおばさんが、そう答える。
「今日、街に着いたの」
顔見知りから知らない人だと言われるのは、奇妙な感じだが、転移が、成功した証拠だ。
そして母が、眠る墓地に向かった。
予想どおり母の墓の横に私の墓が、あった。
私は、私が、死んでいる世界に転移したのだ。
私は、母と自分の墓参りをすますと宿に向かった。
取り合えず明日から仕事を探そう。
住み込みの仕事が、見つかると良いんだが。
三日後、ホテルの受付の仕事が、見つかった。
街から少し離れた落ち着いた雰囲気のホテルだ。
ホテルのオーナーは、50代ぐらいの白銀の髪に青い瞳のナイスミドルだ。制服は、深緑でホテルの雰囲気にあっている。
良かったわ。三ケ国語話せるからな~あの勉強も役にたった。
小さな部屋が、与えられ。食事付きだし。食事も美味しい。
まあ…受付ばかりじゃなく皿洗いや部屋の掃除にお客様のクレーム処理や相談。ホテルマネージャー悪く言えば、雑用係だ。
***** ***** ***** *****
順調な私の平民生活にいきなり影が、さした‼
なんで彼が、居るんだ‼‼
私は、非常に焦っています‼
それを表に出さないように必死で笑顔を張り付ける。
あっちの世界の元婚約者のディアス様が、カウンターの向こうで驚いた顔をしている。
焦る気持ちを無理矢理押し潰しニッコリ笑う。
「キャス・キッドソン様(偽名笑)ですね。個室でのご予約賜っております」
彼の後ろには、フードを被った3・4人の男達。
うわあぁぁぁ~怪し過ぎる~
彼もフードを被っているが、背の低い私からだとまるわかりだ。
ちらりと後ろのメンバーを見ると。あのガッシリしたのは、王族護衛騎士のハング・モノグル様?
魔導師騎士団期待の新鋭スプリングド・コート様?
レースのハンカチをヒラヒラさせているのは、神殿長見習いのゴリア・サスペンス様?
大富豪のご子息ケニー・アルタイル様?
なんか凄いメンバーですね。濃い~
取り合えず私は、何でもない風を装いホテルの支配人と共に彼らを個室に案内する。
私は、直ぐに厨房に行き。料理の手配をしている時。
「君‼」
私は、ビックとして振り返る。何時の間にかディアス様が、私の後ろに立っていた。
心臓に悪いから気配消して近付かないでほしい。
「な…なんでしょう」
「すまないが、後で時間をくれないか?」
「は……はい。夕方休憩時間になります。その時でよろしいでしょうか?」
「ああ。それでいい。じゃ後で……」
何なんでしょう?
私が、リュゼリーナだと分かった?
いやいやこっちのリュゼリーナは、死んでいるよね~
まあ…いいか。
私は、受付にもどろうとしたその時。いきなり喫茶室のソファーから女性が、立ち上がりツカツカと私の側に来ると。
「リュゼリーナ‼お前生きていたのね‼」
パン‼‼
いきなり叩かれた。痛い。
叩いたオバサンを見ると…げっ‼随分と老けているが、姉の母親だ‼
ガシッと肩を掴むとガクガクと揺さぶられた。
「何故お前が、生きているの‼お前だけが、死ねば、良かったのよ‼私の可愛い娘の代わりに‼」
「叔母上お止めください‼」
彼女を止めてくれたのは、従兄弟のセドリックだった。
父の弟夫婦と従兄弟は、まともだ。
騒ぎを聞き付けて椅子に座って談笑していた人達が、振り向く。
「リュゼリーナは、死んだんですよ‼遺体もちゃんと確認したし。葬式も出したしお墓もあります‼」
「マリアンナ何の騒ぎだ‼」
ぐおぉぉ~‼今度は、父親か―‼
どうやら椅子に座って談笑していたのは、父に叔父様に従兄弟だったらしい。
元婚約者に姉の母に従兄弟に父親‼今日は、厄日か‼
叩かれた頬っぺたが、まじ痛い~‼これは、腫れるな~‼
後で冷やさないと。
「あ…あの私リュゼリーナ様の友達でリュゼって言います」
私は、しおらしく答える。
「はっ?リュゼ?」
「はい。私達まるで双子の様に似ていたのでお友達になったんです」
私は、嘘半分本当半分を喋る。
「私は、行商人の娘で街でリュゼリーナ様が、伯爵家に行く前からの友人です。姿も名前も似ていて仲良しでした。でもリュゼリーナ様は、馬車の事故で亡くなられて私も父さんと行商に行った村が、スタンピードに襲われてお父さんや村人は、亡くなり。私は、たまたま村に帰ってきた冒険者に拾われ育てられましたが、その方も亡くなり。街に働きにきました」
うん。商人の娘リュゼは、本当に私に似ていて仲良しだったが、スタンピードに巻き込まれ父親や村人と一緒に向こうの世界では、亡くなっている。
「この世には、似た人が、三人いるって言うよ。彼女は、ただの他人のそら似だよ。すまないね。君、頬っぺたが、ずいぶん腫れている」
セドリックは、痛ましげに私を見つめる。
セドリックは、昔からまともだった。
父や姉の母親や姉が、酷すぎただけかも知れないが…
父は、黙ったままだ。
昔からそうだったが、この人は、姉の母が、ヒステリーを起こすと無視をしてその場を去る。
後に修羅場を残して。こっちの世界の父も似たようなものか?
「リュゼ何の騒ぎ?」
受付の交代のマドレーヌさんが、来てくれた。私は、手短に話した。
「お客様申し訳ございません。この子が、お騒がせしました。リュセ、まだ早いけど交代するわ。厨房で氷もらって冷やしなさい」
流石大御所貫禄あるな~
「お騒がせしました」私は、そう言って立ち去ろうとした。
「お待ちなさい!!」
「いい加減にしないか!!済まない。セドリック、遊覧船に乗るつもりだったが、取りやめる」
「でも……貴方……」
「あの子達は、死んだんだ‼」吐き出す様に父が、言う。
流石に見っともないので姉の母を屋敷に連れて帰るようだ。
他のお客様も見てる。
舟遊びをする為にこのホテルで待ち合わせをしていたのか~
大きな川が、あるからな、遊覧船が、出るまで時間を潰していたんだな。
私は、お言葉に甘えて休憩室に引っ込んだ。
「あ……ディアス様と約束してた」
はーこんな腫れた顔で会いたくないな~
***** ***** ***** *****
個室で五人は、食事を終えた。
「所で支配人。受付のリュゼの事で聞きたいことが、ある」
「新人の娘ですね。彼女は、行商人の娘で、あちこち色んな土地を行ったことが、あるらしく。語学も堪能なので雇い入れました。今は、マネージャーの見習いをやらせています」
「身元は、確かめたのか?」
「いえ…スタンピードで滅びた町の出身だそうで。母は、4歳の時に父親は、13歳の時に亡くなり育ててくれた元冒険者も亡くなられているそうです。身元の確認は、難航しています」
「珍しいね。君が、興味を持つなんて」
ハンカチをひらひらさせてゴリアが、笑う。神殿の神官服が、よく似合う。
「ああ…7年前に亡くなった俺の婚約者に似ているんだ」
「確か、お前の誕生日パーティーに行く途中で盗賊に襲われて逃げる途中で馬車が、崖から墜ちたんだろ」
「ああ…首の骨を折って即死だった」
「痛ましいな」
「彼女の姉も一緒に乗って居てね。伯爵家は、二人も子供を亡くす事になった。」
「何で子供たちだけで?」
「親の馬車の車輪が、外れてね。待ちきれないって先に行かせたんだよ。メイドも護衛も死んだ」
「ラッシュ伯爵家の跡取り問題は?」
「弟の息子を跡取りにする事は、決まっていたんだよ。」
「まあ。この世には、自分に似た奴が、三人は、いるからな~」
ケニーが、答える。
「たぶん…彼女が、生きているって事じゃないんだろうが…」
「しかしそっくりなんだ…」
リュゼリーナが、死ぬ前に贈った青いリボンのついた栞の事をふと思い出した。
婚約したのは、彼女が、十歳俺が、十三歳だ。
彼女が、亡くなったのは、一年後だった。わずか一年だけの婚約者。
すっかり忘れていた。
なのに受付にいるリュゼを見てた瞬間色んなことを思い出した。
彼女は、本好きだったから庭に咲いている忘れな草で栞を作った。
俺の瞳と同じリボンを付けて…
── 本ばかり夢中になって俺の事を忘れるな ──
そんな思いと共に栞を渡した。
「懺悔は、したか?」
「いえ。これからです」
「じゃ。俺が、懺悔をしよう」
「めずらしな~キャスが、やるなんて」
クスクスと4人の男達が、嗤う。
***** ***** ***** *****
──貴方の事は、忘れない。貴方が、私を忘れても──
リュゼは、日記に青いリボンのついた栞を挟むとパタンと日記を閉じた。
栞のリボンは、色褪せ時が、過ぎた事を告げる。
姉に心がわりした婚約者。
私の不貞をでっち上げ皆の前で断罪しょうとした男。
彼の取りまきを色仕掛けで侍らせようとした?
そんな色気が、私の何処にある?
外見だけの王子様。
胸か?
ペッタンの私より暴乳の姉を取ったのか?
でもね。王子様は、直ぐに棄てられるのよ。
姉は、皇太子を狙っていたから。
下手すれば、あの女の取りまきに殺されて…そこを皇太子が、慰めて二人は、恋仲に成りました。
って言う腹ずもりかもね。
姉には、部屋のベランダで独り言を言う可笑しな癖が、あった。
「悪役令嬢が~」とか「断罪イベントが~」とか。
「やっぱり第二王子妃より王妃よね~」とか「あの子は、売春宿で死ぬのが、お似合いよ~」
とブツブツ呟いていた。私の部屋は、姉の部屋の下にあり。半地下の物置にベッドと机が、ある。勉強する時だけ勉強部屋に行って家庭教師と勉強する。上っ面の体裁を拘る。姉の母だからな。私を引き取ったんだって体裁を気にしてだ。金持ちのひひじじいの愛人にする腹積もりだったが、王子様の婚約者に選ばれて腸煮えくり返っていた事だろう。
さいさい王子との仲を邪魔してたからな。
姉の妄想によると私が、姉に意地悪をしてそれを第二王子様が、断罪して婚約者になりしかし第二王子様は、何者かに殺され。悲しむ姉を慰めている内に恋仲になり二人は、結ばれる。めでたし。めでたし。
と言う事になるらしい。馬鹿馬鹿しい。
私は、馬鹿馬鹿しい世界から多元世界に逃れる事にした。
そして一杯ある世界なら私が、死んでいる世界が、一つくらいあるだろう。
私は、魔方陣にそれを組み込みまんまと逃れたが。
私は、何処で間違えたのか?
平民の暮らしで貴族が、関わる事は、無いはずなんだけど……
母さん 私は、何処で間違えたの?
***** ***** ***** *****
おっと!!いけない!!
ディアス様との約束の時間だ。
私は、部屋から出ると受付カウンターに向かった。
その途中でディアス様に声をかけられた。
「ちょうど良かった。支配人が、気を利かせて個室を準備してくれたんだ。来てくれ」
まるで彼は、よく知っていると言う風に私の前を歩く。
「はい」
私は、ディアス様の後を歩く。奥の部屋だ。私は、入る事を許されていない。
カチャリとカップが、リュセの前にお茶会が、置かれた。
凄く慣れている。
「勝手知ったるなんとやらさ」
「あ~お客様にお茶をいれて頂くのは……」
「ああ気にしないでくれ。たまにお茶ぐらい淹れないと腕が、鈍る」
「はあ…」
私は、お茶を飲む。
「あら…美味しい」
「お茶は、侍女に鍛え上げられたからね」
「あ……れ……?」
おかし……
リュセの瞳から光が、無くなる。でも意識は、ある。
「リュゼお茶のカップを置いて」
ディアスの言葉どうりリュゼは、カップを置く。
ディアスは、リュゼの目の前で手をふる。
リュゼは、何の反応もしない。まるで人形の様に動かない。
「リュゼ君の本当の名を教えてくれ」
「私の名前は、リュゼリーナ・アルス・セレイン」
口が、勝手に動く。
「君の父上の名前は?」
「ダルシアン・アルス・セレイン」
「母親の名前は?」
「ミリー」
「君は、7年前強盗に襲われたけど助かったんだね」
「いいえ。この世界のリュゼリーナは、死んでいるわ」
「この世界?」
「私は、別の世界のリュゼリーナよ。私のギフトは、異世界転移。その力を使ってリュゼリーナが、死んでいる世界に転移してきたの」
「へー面白い。君は、違う世界のリュゼリーナなんだ。」
魔導師のゴリア様が、いつの間にか部屋に入って来ていた。
「こっちの世界は、精霊の力を借りるんだが…」
「どうして自分が、死んでいる世界に来たんだい」ショタが、聞く。
いつの間にか他の連中も居る。
「この世界の身内に関わりたく無いからよ。私の家族は、死んだお母さんだけよ」
「君は、あっちの世界でも俺の婚約者なのか?」
「卒業パーティーの時、婚約破棄されたわ。貴方は、姉と婚約したわ」
「あり得ない‼いくらなんでもあんな我儘娘は、御免だ‼」
「あら。巨乳が、好きなんじゃ無いの?」
「ぷっ」「クスクス」「ヘラヘラ」「きしし」
後で皆が、ボソボソ喋っている。
図星らしい。
「あっちの世界の俺は、どんな奴だ?」
「歳を取るごとにアホになった乳好きー男」
「ハング・モノグルは?」
「脳筋野郎。男なら拳で語れタイプ」
「ゴリア・サスペンスは?」
「ハンカチ貴公子。男なら信仰力で語れってタイプ」
「ケニー・アルタイルは?」
「ショタ。男なら札束で語れってタイプ」
「……」「……」「……」「……」
「なるほど君が、その世界を捨てたくなるわけだ」
うん。アホばっかりだもんま~
「はっ!!……あ…な…なに?私薬盛られたの!!」
やっと薬が、切れた。
腹黒第二王子は、ニヤリと笑った。
「ようこそ。裏ホテルへ。懺悔したきみは、僕らの仲間さ」
「僕達は、国の暗部さ。」
「良かったよ。女性は、少ないし。歓迎する」
「そんなにペッタンなら男装もバッチリだね♪」
ショタが、聞き捨てならぬ事を抜かしやがった‼
「面倒ごとに引きずり込まれた‼私の平凡な平民ライフが!!」
私の悲鳴が、部屋に響く。
~ Fin ~
★リュゼリーナ・アルス・セレイン
主人公。異世界転移のギフト持ち。庶民育ち。第二王子に婚約破棄される。
★ディアス・グレイド・フォン・ラタト
ラタト国の第二王子。巨乳好き。リュゼと婚約破棄する。
★ミッシエル・アルス・セレイン
リュゼの腹違いの姉。独り言が、ヤバイ奴。巨乳。
★セドリック
リュゼとミッシエルの従兄弟
★ハング・モノグル
王族護衛騎士。男なら拳で語れ。
★スプリングド・コート
男なら魔法で語れ。寡黙な男。
あれ?こいつほとんど喋ってない!!まあいいか~
★ゴリア・サスペンス
ハンカチ貴公子。男なら精霊で語れ。
★ケニー、アルタイル
富豪の長男。男なら札束で語れ。




