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学校へ行こう1

「失礼します。」

やる気のない烈火の声が、静かな朝礼前のミーティングの職員室に響き渡る。

突然訪れた20代前半と思われる見知らぬ来訪者は黒く染めた白衣を纏ったその風貌と共に、教員の目を引いた。

「どの人?」

烈火は自分の影に隠れたきららに、目的の人物が誰かを訪ねる。

「……あそこ、右端のメガネをかけた女の人。」

「あの、何かご用でしょうか?」

烈火を警戒し、一番若い男性教諭が、敵対心むき出しで、烈火に尋ねてくる。

「はい、今日からこの学校に転校させていただきます。二堂勇騎の保護者の二堂烈火です。御挨拶もかねて保護者同伴で参りました。森川先生はいらっしゃいますでしょうか?」


5日前

「学校?ヤンキーが学校に行くの?」

「だから俺ヤンキーじゃないですよ。」

ゲームをしながらマンガを読む勇騎が振り向きもせず地獄耳で台所の会話に割り込む。

「仕方がないだろ、家においていたら一日中ゲームしているか筋トレしているか、いずれにしろそういう事しかしないんだ。」

事態は進展せず、ただ時間だけが流れていた。

静寂を旨とする二人の生活に入り込んだこの異物に対するきららのストレスは日に日に増していた。

「一人で家から出せば戻れないし、監視の意味もない。それに俺は来週から灯と一緒に、しばらく島に出張だ。」

「だったら私もついていく、」

「ネットも携帯も通じない島だぞ、水洗トイレだってない。そこに最低1週間。」

「……我慢する。」

「残念だけど、今回呼ばれているのは俺と灯。余所者を嫌う。美森を連れてはいけない。」

「大丈夫っす。姫様は俺が守ります。」

美森のイライラゲージがどんどん増していく。

「それにそれじゃ、彼を一人にすることになる。今のところ、きららが正しかった。

でも、彼が何者なのかは未だに結論を出すには早計だ。だから、監視をきららに頼みたい。」


よく通る烈火の呼び声に応え奥の席に応え、森川は立ち上がり、この若い保護者に挨拶をする。だが、立ち尽くす男性教諭と同様、森川の興味はすぐに彼から移る。

「ねぇ、もういいでしょ。私先に教室に行くね。」

「あぁ、ありがとう。勇騎の事頼むぞ、」

「美森さん、あなた、」

「美森?」

「美森ってあの」

彼女の名前を聞いて静寂を破り、小波立つ。

「?いつも美森がお世話になっております。美森は私の親戚で、預かっているんですよ。」

「それじゃ、美森さんの保護者もあなたですか?」

「一応がそうなりますね。美森が何か?」

「あの、美森さんの事ですか」

「あのー、さーせん。ひょっとして松井優さんじゃないですか?」

「覚えてませんか?ほら、この高校の1年3組でクラスメイトだった。市井勇騎ですよ。」

話しを中断し、美森への視界を奪うように、勇騎が割り込む。

勇騎を見た途端森川は言葉を失い。それで勇騎は確信を持つ。

「馬鹿、名乗ったら意味ないだろ、」

「この反応ですよ、苗字変えても意味ないですよ。俺の知り合いって、言うか同級生。それでも自分の息子って言った方がよかったですか?こんなイケメン子供でも似すぎでしょ」

「……もういい。」

美森を先に教室に行かせ、応接室に通された二人は、校長と森川に事情の説明をする。

「事情はおおよそわかりました。ですが、」

とても信じられない校長は当の本人に視線を移すが、とてもじゃないが信じられない。

「松井、じゃなかった森川さんは先生なんですね。」

「松井でいいよ。実は1年くらい前に離婚しているの。仕事場ではそのまま名前を使っているだけだから、色々めんどくさいから、」

そう言って勇騎に結婚指輪を見せるが勇騎はその意味を理解できない。

「そっか、でも先生だなんて夢をかなえるってすごいよ。」

「……ありがとう。市井君、見かけ全然変わってないけど、変わったね。前は怖かったけど、今は優しいっていうか。」

「そうかな、全然わかんないな。それに鈴木先生も校長になってるなんて」

信じられないが、疑いようはない。以前のよりも穏和にはなっているが間違いなく、市井勇騎だ。忘れるはずもない、自分の教職人生で、最初で最後の行方不明事件の本人だ。

まだ、色々と信じられない事ばかりでじっくりと話をしたいが、烈火は必要な書類を確認し終わると、勇騎の正体を隠すようにお願いし、その場を後にした。

烈火はこのまま灯と合流し、島に行く。

教室に向かったきららに『頼んだ』とだけ味気ないメッセージを送り学校を後にした。


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