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トケン出張所!2

「……」

麗華が瞼越しに感じ取る光に刺激され、目を開け、体を起こす。

底が医務室であることは、ベットの感触と独特の匂いですぐに気付けた。

「おはようございます。」

うとうとしていた勇騎は布団のすれる音に反応し、麗華に挨拶をする。

「今何時?」

「えっと、待ってくださいね。」

「17時よ。気を失って30分もたってないわ。」

仕切りのカーテンの後ろからサングラスをかけた女性が、

「あなた!どうしてここに!」

その姿が誰か言うまでもなかった姫瑠だ。

あの時、水神の呪いを勇騎が受け、解放されたかと思われた姫瑠であったが、

勇騎と共にいなくなっていた。それがどうして、

姫瑠はおもむろにサングラスを取る。そして彼女の置かれた状況を理解した。

蛇の目にその周りに鱗の残滓、目の周りだけではない、ファンデーションで隠しているが、長い手袋を外すとそこにも鱗の痕跡が残っている。菱形の鱗、間違いなく蛇の鱗だ。

その異形の姿に、思わず麗華は恐怖を感じる。

「大丈夫ですよ。姫瑠さんは敵じゃありません。」

「でもその姿、」

「私には適性があった。血染めのお守りとの間に、だから短時間であれだけの力を手にした。

水神の受けた人の憎悪は勇騎君が引き受けてくれた。

でもそれとは別に私自身が既に血染めのお守りの事象そのものとなっていた。」

「裏世界の住民になったの?」

「あなたの言う所のそうでしょうね。だからあの時、あなたたちは裏世界に行ってしまった私を見つけられなかった。

私の行った世界はあなたたちが踏み込めない、ずっと暗くて深い世界。

凰綬様が助けてくれなければ私は戻ってこれなかった。」

「凰綬さま」

麗華はその言葉で理解した。

「そう、私の命の恩人にして、私が使えるべき人。あの人、私のこの目を見て綺麗だと言ってくれた。全てを失った私をご寵愛いただいた。救いの神よ。

完璧な美しさ、完璧な強さ、全てにおいて私の上を行く、神そのものよ。」

裏世界に取り込まれた人間は人の記憶からも完全に消されてしまう。

姫瑠の親も彼女の事を覚えておらず、彼女の事を記す記録もすべて誰も彼女の事を認識できない。霊感という魂を感じる才能のあるものはそこにいる彼女を写真に写った彼女をそこはかとなく感じる事が出来ても彼女を認識できるわけではない。

麗華たちであれば難なくこちらの世界に戻ってきた彼女を認識できるが、

勇騎は或葉にもらった、伊達眼鏡がなければ彼女を認識できない。

「凰綬さ、凰綬があなたを助けた?」

「素直に様を付けなさい。あなたのような存在が凰綬様を呼び捨てなんて、許される事ではないわ。呪うわよ。」

「姫瑠さん。冗談になっていませんから、それより、凰綬さん達に伝えてきてください。

麗華隊長は異常なく目を覚ましましたって。」

「えぇ、分かったわ。」

凰綬の役に立てる。些末なことではあるがその事が彼女を笑顔にした。

「見ての通り、害はありません。凰綬さんが麗華隊長たちに仇なさない限り、彼女は味方ですよ。

……いい笑顔でしょ。彼女にとって凰綬さんは初めての特別なんです。

俺命張ったんだけどな。」

「……なに、彼女の事好きだったの?」

「好きかどうかで言えば好きですよ。美人ですし、何よりスリリングですし、きららさんや麗華隊長とは別の魅力があります。」

「……あなた好みのタイプとかない訳?」

「俺を好きになってくれるならどんな女性でもウエルカムですよ。

まぁ、俺が持てたことないんですけどね。隊長どうです、俺、」

「馬鹿言ってんじゃないの、……本当に勇騎みたいね。」

「まぁ、そうでしょう。2週間経ってるみたいですけど、僕は水神様の呪いを受けた直後としか認識できていませんし、あまり事の重大さを理解していません。」

「……いいわ。無事で何より、最も、あの程度死ぬなんて思っていなかったけど。」

「過大な評価痛み入ります。」

「ところで、どうしてあそこに?」

「凰綬さんの所にですか?いや、気が付いたらあそこに一人で立ってて、状況が分からない訳でしょ。とりあえず、烈火さんの所に向かったんですけど、ね、」

「……まぁ、今はわね。私もあまり責められないから、あなたもそれを感じ取るくらいに気は使えるんですね。」

「いや、初めての恋人と新婚を一緒にしたような雰囲気って、たぶんあぁいうのを言うんでしょうね。弟宅並みに居心地悪かったですから、やっぱりあれですか、姫瑠さんに見せられた悪夢。」

「まぁ、でしょうね。」

「ちなみに、あの烈火さんのネックレスとか、髪型とかどう思います?」

「……頑張ってるとは思うわよ。きららの趣味ではあるみたいだからいいんじゃないの。烈火もあなたにそこらへんのセンスで四の五の言われたくないと思うわ。」

「それはそうでしょうけど、まぁ、そんなわけで、あそこにはいられなくて、麗華さん頼ってここに来たのはいいんですけど、麗華さんいなかったし、或葉さんにはアイス買ってくって約束したので、」

「状況は理解できたわ。とりあえず、おかえりなさい。」

「……ありがとうございます。」

「なに、私が心配しちゃ悪い?」

「いえ、そんな、意外だっただけです。好きになっちゃいますよ、いいですね。大人の女性のデレは。」

「部下への気遣いも仕事よ。何よりあなたは私の剣、……これからどうするつもり?」

「もちろん、俺は麗華さんの剣ですよ。そもそも選択権ありませんし。

ただもし、自由が許されるならそれ以外の時間でこっちもやってみたいんですが。」

そう言って勇騎は携帯を見せる。

「それ、きららの予備携帯?」

「はい、しばらくトケンはお休みだそうです。カレンダーには来週から温泉旅行って書いてましたし、しばらく二人ともまともに仕事する気はなさそうですし。

という事でトケン出張所開業、したいな。なんて」

「何のために?」

「人助け?ですか、まぁ、個人的にこっちの世界に興味があるといえばありますし、自分が何者なのか把握するためにも、その機会は多い方がとも思っています。」

「まぁ、いいでしょう。本質的にはこっちもそっちもやってることは変わらない訳だし、

あなたがやりたいなら許可しましょう。でも、だからと言って私は手伝えないわよ。

他にもやることはあるし、まさか、あいつらを頼りにしているとか?」

「凰綬さんたちの事ですか?してませんよ。少しは理解しています被害の方が大きくなるというのは。」

「だったら一人でやるつもり?」

「実は彼女も、」

「彼女?」

「姫瑠さんです。凰綬さんに世間場話程度に話したら、手伝ってやれって。」

「本人が了承したの?」

「行くところはないですし、それ以前に凰綬さんがやれって言った以上は、彼女は少しも嫌がりませんから。」

「……いいわ。それで、でも何かあたら連絡しなさい。その携帯に入っているから」

「了解しました。ありがとうござます。ところで、麗華隊長としての俺の仕事は?」

「今のところはないわ。まぁ。こういう仕事だし、いつ入るか分からないけどで、

とりあえず、私は帰るわ。職員にあなたたちの部屋を用意する様に伝えとくわ。

あぁ、それと後からメールで送るけど、資料読んどきなさい。」

「資料?何のですか」

「今から20年前、ここら辺の学生たちの間だけで噂になっていた階段がある。

夕闇時に現れる十字路のピエロ。ある世代だけで爆発的に広まったその噂は、

突然ぱたりと止んで、誰もその噂を思い出すことはなかった。

でも最近。その世代が大人になり同時多発的にその噂を思い出し、世間話の一つとして曖昧な記憶を頼りにSNSをにぎわしている。

中にはそのピエロを見たって証言も」

十字路のピエロ。確かに知っている。

俺は会った事があるそのピエロに

「その噂が途絶えた時期と、再開した時期。ある少年の失踪と発見タイミングと合致する。

言いた意味は分かるわね。」

「ありがとうございます。楽しそうじゃないですか、まさしく都市伝説にふさわしい。」

そう言って勇騎は笑った。


時代が変わろうと、世界が変わったんじゃない。

変わったのは俺だ。

一歩前に踏み出す覚悟、良くも悪くも変わる事を選んだ。

ただそれだけの事で世界はこんなにも美しく楽しいものだと、感じられる。


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