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狂と凶と興と明日

「……だったら俺が代わりに、鬼である俺であれば!」

「さっきメンタルの弱さは確認済みです。それにそんな顔をきららさんを残していくつもりですか?」

烈火同様きららも悪夢を見ていた、大切な人を失う絶望をその身で味わった。

それが夢であるからからこそ、幻であるからこそ、彼女が救われた。

その直後にそれが戻せない現実で起きれば、彼女もまた壊れてしまう。

きららは絶対に離さないという意志をもって、烈火の裾を掴んでいる。

「正気の判断とは思えない、その勝負勝ち目はないよ。」

「神様が相手だからって何ですか、俺が何度世界を救ってきたと思っているんだ。」

「それはゲームの話だろ!」

「それでも俺は真剣で、現実の俺よりいつだって現実でした。

その中で俺は一度だって女の子を見捨てた事はない。

こういう感じですけど、意外に共感力は高いんですよ。

だから、すぐに泣くんですよ。映画でも、漫画でも、ゲームでも、

悲しくて、生き様に惚れて、あまりに美しすぎて、

現実とそうじゃない所に境界線を持てないんです。

だからこそ、安全で代わり映えのしない現実に何の希望も持てなかった。

でも違っていました、こういう非現実が目の前に現れたからじゃないんです。

やっと一歩前に進めた。

だから、それを無駄にしたくない。終わりませんよ、これくらいで、憎悪が何ですか

高々他人の憎しみくらいで俺を殺せるものですか」

『愚かな、人間如きに耐えられるものではない。あの世にも行けぬぞ』

「やってみなくちゃわからないでしょ、それよりちゃんと彼女を返してくださいよ。それに俺は元よりあの世なんて信じていませんよ。そんなものがあれば、色々とおかしくなる。

科学と宗教は相容れないものじゃない。でも科学者であるなら、神様の仕業を神様の領域に預けるわけにはいかない、そこで思考が止まってしまう。

死んだら次がある、続いていく。そんなもの馬鹿げている。

それで救われるならそれもいいでしょうが、俺はそんなの御免被ります。

全ては無に、ただそれだけです。それが死の真理です。

残りのは意志じゃない。遺伝子であったり、言葉であったり、文字であったり、そういう合理的なものです。

『名前と誇りがあればどこでも生きていける』

俺の爺ちゃんの言葉です。

『カネで済むことほど安いものはない』

この二つの爺ちゃんの言葉が俺の中の真理で揺るがぬ価値観。

そして俺の命はカネより安い、

最後まで市井勇騎は市井勇騎であったそれが俺が納得する俺の信念です。」

『狂った人間だ。だが、だからと言って事実は変わらない。お前はこの娘の代わりに憎悪に穢されよ』

次の瞬間、水神の吐き出した黒いヘドロのようなものに勇騎は飲まれていった。

その他移動する憎悪、灯が今まで見た事のないほどの憎悪だ。

近寄ることもできない。できる事と言えば本人の求めぬ祈りだけだ。

その祈りの中で、烈火は勇騎が来たばかりの時の事を思い出していた。

彼が何者なのか、その本質を見極めるために、烈火は彼の親類を訪ねていた。

『兄ちゃんですか、そうですね、どういう人かというと底の知れない人ですね。

退屈だったんだと思いますよ、生きることに。

ゲームくらいしか、兄ちゃんを満たすものはなかった

でも、今の僕を見て自分が時間を超えたって確信を得た時。すごく楽しそうでした。

あぁ、こういう風に笑えるんだって初めて知りましたもん、

家族だとか兄弟だとかそういうのじゃないです兄ちゃんは、

兄ちゃんの記憶で一番最初にあるのは両親と喧嘩してる記憶でした。

何を言っているのかさっぱりわかりませんでしたが、手を出してきた両親に、泣きもせず、ただただ何かを言い返していたそれで、さらに殴られても一歩も引かず、結局、両親が最後に本気で殴ってそれで終わりでした、殴られた兄ちゃんは少しも反省なんかせずに、

最後まで両親に抵抗していましたよ。そこの頃からですかね、うちにいるよりじいちゃんちに預けられるようになったのは、だから実際あんまり一緒にいた記憶ないんですよ。

ただ、今、あの時よりの両親より大人になって分かるんです。

あの時きっと父さんたちは今の僕より子供だったって、余裕がなくて感情的だった。

大人って思うほど大人じゃないって、

だから思うんです、あの時も正しかったのはきっと兄ちゃんなんだろう、ってね』

『勇騎君と付き合わなかった理由、私じゃ釣り合わない。と言うよりむかつくからかな。

勇騎君は、別に好きじゃなかったですよ。でも、私を好きになることはできるんです。

そして一生私は勇騎君の手で踊らされてずっと勇騎君を好きになる

全部が幸せで何一つ不満はない、きっと今みたいな攻撃的な性格も直してくれる、それでやりたいことをさせてもらって、サプライズだって用意してくれる。でもふって思う日が来るはずです。私は勇騎君に何をしてあげられたのだろうって、

20年前、突然いなくなって、勇騎君の事を探す、健侍さんと関わるうちに好きになって、この人の支えになりたいって、一緒に生きていきたいって、だから正直、この前勇騎君が見つかったって聞いた時すごく不安だった。勇騎君はどんな顔で私を見るだろうって、

凄く優しい顔だった、心から祝福してくれた。

あの時確信したわ、あぁ、やっぱりこの人は私にはもったいないって。

ところで、勇騎君のこと聞いてどうするんですか?

私たちに何を聞いても無駄ですよ、結局、そんなの分かるわけないんですから、

心配してくれるのはありがたいんですけど、勇騎君は大丈夫ですよ。』

『そうです。いつだって兄ちゃんは』

『勇騎君は』

『『絶対に誰にも負けない、誰にも引かない世界最強、最悪のヒーローなんです』』

「勇騎、お前はヒーローなんだろ!だったら戻って来い!」

「勇騎!あなたの仕事はまだ終わってないでしょ!あなたは私の剣、ここで勝手に折れる事は許さないわよ!」

「勇騎君、君はここで終わるタマじゃないだろ、兄さんに認められたんだ、その実力見せてくれよ」

「勇騎!帰ってきなさいよ、言いたいこともいくらでもあるんだから!」

『聞こえるか少年、君を求める声だ』

「ガラじゃないんですけどね、そういうの、でどうしたらいいんですかこの気持ち悪いの」

隔絶された世界、神域ともいうべき世界でも、勇騎は変わらず冷静に、

体にまとわりつく形ある憎悪を観察しながら水神に尋ねる。

『どうする必要もない。ただその憎悪に飲まれればいい、聞こえるだろう、憎悪の声が感じるだろう怨嗟のうごめきを』

「何も聞こえないわけじゃないですけど、だから何ですか、この程度で俺がどうなるとでも、どいつもこいつもくだらないことで泣き言を、いいだろう、お前らにその矮小な憎悪がいかに不合理か説いてやろう、ありがたく思え、この俺が言葉を賜ってやる。

その上で、完全に喰らってやるってね。」

『お前、その眼。なるほど、そういう事か、道理で化け物じみていると思っていたが、こうしてこの世界で触れて理解した本物の化け物か』

「はい?」

『偽りとは言え、我が水神の御力を宿した毒が効かぬも道理、』

「呪いが効かない事ですか?」

『効かないのではない、既に満ち満ちている。汝のその身既に憎悪で溢れている怨嗟で満ちている。その上で我が受けた憎悪を受けるという、まさに人の身ではないな。

これだけの憎悪の中にあってその意志を貫く、汝は、』

「何の事だか、それより、あなたはいかなくていいんですか?水神様なら水神様の仕事があるでしょ。これで譲渡完了ってことでいいんですか」

『……さらばだ、雛の巫女よ。汝の意志がまだあるなら、終の刻で会いまみえようぞ』

「巫女って男ですけど、俺、行っちゃった。」

水神がいなくなると清流は消え去り、壁が崩れ、八方がヘドロのように闇に包まれ、勇騎を飲み込んでいく。だが、それでも勇騎は僅かに揺らぐこともなく、自分と闇との境界の見えない、感覚のない中で、自ら自己を認識し、何も見えないその眼を見開く、

「さて、始めようか、楽しいね。なぁ」


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