狂と凶と興と今日2
勇騎は距離を置き蛇の見える様に、草むらを避け、カバンから雑誌を取り出し腕に巻き、
バールをその手に持ち臨戦態勢を整える
「烈火さん、彼女の与太話を信じているんですか?
あんな話は嘘ですよ。実際、さっきも彼女の母親は俺に会わせなくなかったから警戒していたし、彼女は雨の日には車で送ってこられるし、遅くなり日は迎えに来る。
心配してるんですよ。少なくとも人の親として十分なくらいは、」
「つまりはさっきのは作り話。」
「そういう事です、彼女は愛されている。でもしかしそれもそんな事もどうでもいい。
問題なのは自分よりも幸せな人間がいる事が我慢ならない。自分より優れている人間がいる事が許せない。つまりはむちゃくちゃにしたいんですよ彼女は、何かになりたいわけじゃない。何がしたいわけじゃない。ただ、他人を不幸にしたいそれだけなんですよ。」
「そういう事、そろそろ頃合いかしら、見せてよ。その強気な顔が絶望に染まる様を、
あなたにとって大切な者は誰?それを失った時、あなたはその顔でいられるかしら、」
プツンと糸が切れたように、目の光が消え、烈火をはじめ、皆その場に倒れこむ。
「何をした?」
「夢を見ているのよ、素敵な素敵な愛の夢。ただ大切な人を失う続ける悲劇だけど。」
「全くだから行ったんですよ。信じるという席に放棄は誰にでもできます。
重要なのは新任の判断に足る理由を積み上げる事です。」
勇騎はとりあえず、彼らに被害が及ばないよう、反対方向に移動する。
「血染めのお守り、あなたはこの力を疑ったわね。偽物だと、でも、確かにこの子たちには意志がある憎悪がある。人に対する憎しみ、大切な人を奪われる怒り。
そして孤独と喪失による絶望。私ならこの子たちを理解してあげられる。
そして癒してあげられる。これはこの子たちの意志よ。私はそれを叶えてあげているだけ、」
数えきれないほどの白蛇が一斉にすっくと胴をお越し勇騎を見つめる。
うわぁと流石にこれはと勇騎はたじろいでしまう。
「あなたには呪いが効かない。いや大切な者がいないのかしら」
「それに抗う力があると言っておきましょうか、俺は絶望に沈みはしない。それを楽しめる余裕があるからです。今の状況、不謹慎ですが楽しんでいますよ。」
「何それ、馬鹿じゃないの、ただ単にそういう特異体質なだけでしょう」
「祖父からもらった名前と誇りがあれば、俺はどこでもどんな状況でも生きていける。」「何それ?」
「俺の真実です。そして俺の人生の半分は冗談でできています。どんな状況でも絶望に沈むのはもったいない。どうせならとことん自分の意志を貫くのみです。
俺はあなたに似ているでもあなたとは違う。世界の恨むより、自分を極める事が出来る人間だ。そこで諦めたりはしない。君が止まって歪んだその壁を、俺は軽々と越えていく。」
「それで私の上に立ったつもり?」
「事実立っているから仕方がない。君は所詮、他者と比べなければ自分の存在を認識できない。他者がいて初めてあなたはあなたとして存在できる。あなたを頼り愛する存在が必要だ。だからこそ他人の絶望を望む。自分の居場所を確認するために、
さて、気持ち悪いですが、その蛇にかまれたところで俺は止められない。あなたが思うほど、俺は烈火さんたちにも固執していない。できる限りの事はしますがそれで死んでしまったのなら仕方がない。丁重に弔いましょう。」
烈火はバールを器用に回しあたりの蛇を蹴散らしていく、数こそ多いが、凰綬の術式の力が宿った武器の前にこの程度の力では相手にならない。
「さぁ、どうしますか!さぁ、」
骨折の痛みを忘れさせる狂気。僅かの恐れも抱いていない勇騎に
姫瑠は改めて、認識する。自分の一番の敵はこの男だと。
「戦う方法はいくらでもある、でも私が手を下す必要もない。
お願い助けて武丸。あの人が私を殺そうとする。」
その言葉に反応し、白蛇はまるではじけ飛ぶようにはらわたをぶちまけ、飛び散る赤い血が形を作っていく。それは人であろうが人にならざる者の姿だ。
「憲兵?教科書の奴。」
「ハクアヲ、キズツケル。ユルサナイ!コロス!コロス!」
それが血染めのお守りを手にした夫であることは理解できた、しかし、その姿は正しく修羅そのものだ。
「そうよ、殺して、私を傷つけたそいつを殺して、お願い。」
赤いその化物の手にした日本刀で、躊躇いなく、勇騎の心臓を狙い突き刺してくる。
交わしきれないと判断した勇騎は手に巻いた雑誌で刃をはじき、懐に入り込み、全体重をかけて相手を倒れこませる。
戦える、烈火程の化け物じみた力はない。だが、どうする。頭をつぶすか。
先手必勝!と烈火は全力を込めてバールのくぎ抜き部分を化物の脳天めがけて突き刺す。
噴水のように血が噴き出すが、その血を浴びながらも勇騎は顔を避けながらさらにねじ込む。腕に感じる不快な感情、確かに伝わるその感触に常人であれば、その手を緩めるであろう。だが、目の前位いるそれを化物、油断できない相手だと割り切り行動できる勇騎だからこそ、さらにためらわずバールをひねり、全体重をかけていく。
そして相手の行動が止まるのを確認すると、間髪入れず、姫瑠に向かっていく、が、姫瑠に鉄塊が及ぶ前に再び集まった赤い霧は勇騎を弾き飛ばす。
「早いな、守りは万全、ですか」
あまりの躊躇いのなさに姫瑠は恐怖を覚えるが、自らを守る赤い化物の力を実感する。
「……」
再生と同時に、勇騎は再び、赤い化物の刀の間合いの内側に入り、行動可能の再生が行われる前に、バールのL字部分を相手の足に滑り込ませ、素早く両手で引っ張り、転ばせると、日本刀を持った腕を踏みつけ、再び、頭に鉄塊を突き立てる。先ほどから学習し、最小限の力、最短の時間で仕留めると、バールを抜き取り、距離を置く。
「な、何をしているの?」
「……」
そしてしばらく後、勝ち上がろうとした瞬間、再びバールを突き立て、今度は日本刀を奪い取り、頭部に当たる部分を跳ねる。
すると刀と胴体は霧と消え、頭に再び集まり始める。
そして勇騎は、その瞬間、姫瑠がわずかに眩暈のような挙動を取ったのを見逃さなかった。
「な、何なの!向かってきなさいよ。」
「あなたに近づけば自動で瞬時に再生する。だが、そうでなければ再生に20秒、っと、今度は25秒、っと」
再び勇騎は同じ挙動を繰り返し、まるでボールのように頭部を蹴る。
「再生までの時間差は、再生のコアになる頭部への移動時間による増減するが、この自動再生には最低でも約20秒かかかる。そして再生が完了するまでは、動くことができない。
その理由は最後に頭部を再生するのか、完治が条件なのかは分かりませんが、リスクが高いので現行の頭部をつぶす方法を取らせてもらいましょうか。」
「く、狂っている。なんでこんなことを平気でできるの!」
「……簡単なことです。そうしないと殺されるから、こうしている限りにおいて。俺は負けない。事態は急を要しますが、これ以上に悪化を食い止める事が出来る。」
勇騎は作業を繰り返しながら、頭部から目を離さず、淡々と姫瑠に語り掛ける。