狂と凶と興と今日1
「姫瑠さん、」
「大丈夫よ。私たちがあなたを救って見せる。」
「そうですね。呪いを解いた後にですね。」
「えぇ、もちろん。でも大丈夫。私は最初から別に誰も殺す気なんてない。」
そう言うと時間をかけて無数の白蛇が彼女の体から溢れだし、が四方八方に広がっていく。
「元々の呪いは数日中で消える物です。今、あの子たちに呪いを解きに行かせました。」
良かったと皆が安堵する中、勇騎がそれを壊す。
「そうですか、そうだとしても、事の重大な五十嵐凛さんは直接呪いを解いてもらいますよ。彼女は特別そうでしょ。面と向かって謝ってしかるべきなんじゃないんですか」
「……」
「勇騎君。それはいくらなんでも酷だよ。」
「勇騎、彼女の状態を考えなさい。今彼女は不安定なの」
「……では、彼女の力の源、呪いのお守りを渡してもらえますか?
お守りのせいでそうなったのでしょうだとしたら、そのお守りはあるはずでしょう。
俺が手にした偽物ではなく本物が、呪いのお守り、手にしたものを不幸にするんじゃない。
その所有者に呪いの力を与える。血染めのお守りを、
状況から見るにそう考えるべきでしょう。彼女は血染めのお守りを手にした。
それを渡してもらえますか?」
「そ、それは、」
「或葉さん、凰綬さんたちとゲームをしてた時それとなく聞いてみたんです。
皆殺しの村に伝わる伝承。誰が伝えたか、そんな伝承が本当にあるのかと、
すると帰って来た答えは簡単そんなものは存在しない。
仮にも明治の世に警察が犯人の大量殺人が起きれば事件になる。
それ以前に、そのような伝承に合致する場所もなければ生贄など続けているわけがないと。
それにその血染めのお守りの伝承など、実際にその事件が起き、因果が認められなければ忘れられるものだと、そしてそうであるなら、俺たちの耳に入ってきてもいいはずだと、
偽りの伝承に根づく、偽りの神。それでも神に類する力を持つ。
偽物であってもそこに集まった憎悪は本物。近年、都市伝説の中で語り継がれ、肉付けされた血染めのお守り。それが偽りの中で本物として顕現し、力を発揮するのなら、
そうなる依代の憎悪は本物だと、」
「そんなひどい。私は、」
「だったら証明して見せてください。血染めのお守りを手放すか、凜さんに謝るか。
出来るわけないですよね。さっきに話は全部嘘なんですから。
手にした力は手放すわけがない、謝るわけがない。あなたは少しも悪いとは思っていない。
通常の相手であれば、形式だけでも謝ることはできるでしょう。
ですが、彼女はそうはできない。それをすればあなたは負けを認めたことになる。」
「……どうやっても彼女を信じられないんだね。君は悲しいね。」
「勇騎自重しなさい。今すべきは彼女を追いつめる事じゃない。彼女を救う事よ。」
「そうよ。それに謝るとかそんな事どうでもいいじゃない。それで何になるの、」
きららのその言葉に姫瑠は反応する。
「そんな事、ですって、そうよね。あなたのような人間にはそうでしょうね。
暴力男に頼って縋って、それで満足している。」
姫瑠が睨んだ直後、きららは苦しみだす。それも今までとは違う、大きな悲鳴を上げで、その場でのたうち回る。
烈火は慌てて、きららの首元を確認する。
そこには消えたはずの傷からまるで小さな蛇が皮膚の下を這いずり回るように何かがうごめている。
「一歩でも動いてみなさい!殺すわよ。」
その言葉が嘘でないことはきららの悲鳴で理解できた。
烈火を含め全員がその場から動かなくなると、きららの痛みは和らいでいく。
「何をした。」
烈火が睨みつけるときららは再び苦痛にあえぎだす。
「学習しなさい。私は殺せるのよ。彼女の呪い解いたと思った?そんなわけないでしょ。
あなた達にはかなわなくても、あなたたちの一番大切な者ならいつでも奪えるんだから。それにね!」
きららは烈火の首を絞める。痛くはないが、きららが悲鳴を上げて抵抗する。
「抵抗しない方がいいわよ。頭痛いでしょ。下手に抵抗すると脳みそ壊れるわよ。
あなた達で言う所の心が壊れるっているのかしら、」
「きらら抵抗するな。俺なら大丈夫だ。だから頼む。」
烈火がそういうときららの力が増す。それはきららの力ではない。脳のリミッターが効かず、全力で絞め殺そうとしている。
「彼女の記憶、見せてもらったわ。あなたたちに暴力で敵わなくても、心は、」
彼女の視線が外れたと判断した途端。麗華は、閃光のごとく、彼女の動きを止めようとする、が、下半身が意志に着いて来ない。足元に目をやるとそこには白蛇が巻き付いている。白蛇は引きちぎる事が出来たが、まるで下半身がマヒしているように、麗華はその場に倒れこむと、草むらに潜んでいた無数の蛇が一気に襲い掛かる。
そしてその直後烈火にも、灯にも、勇騎にも、その蛇は襲い掛かる。
彼女の話に引き込まれ、足元の草むらに小さな蛇が潜んでいることに気づけなかった。
「無駄よ、こうなっちゃえば。」
「な、舐めないでよ!この程度の事!」
麗華は気合で起き上がろうとするが、その瞬間きららの悲鳴が聞こえ、それに呼応するように灯も悲鳴を上げる。
「灯!」
「ご、ごめん。ちょっと油断して、やられたみたいだ。」
灯は自分の首元に落ちていた釘を突き立てている。
「あなたと、あの暴力男は特別なのかしら、ずいぶんと毒の周りが遅いわね。でも、人質としては十分。」
「こんなことしてタダで済むと思っているの?灯やきららを殺してみなさい。その瞬間、あなたを殺してやる!」
「いいわ、その眼、その憎悪、それでこそよ。」
「だから言ったでしょうが!」
呪いの効かない勇騎もまた、この状況で動ける。
ゴーグルをつけ、事態を把握した勇騎は蛇を払いのけ、骨折の痛みをこらえながら、姫瑠に攻撃しよう、彼女の背後に回り、彼女を締め上げる。
「やめろ!」
きららを思い、烈火が勇騎の行動に釘をさす・
「このままじゃじり貧になるだけでしょ。」
「勇騎、やめろ、彼女を殺す前に、俺がお前を殺す!」
「そう、それでいいのよ。大丈夫その子は殺さないわ。」
きららの体の自由が戻り、解放された烈火は姫瑠の言いなりだ。
勇騎も烈火が相手では、かなわない。最後に思いっきり胸をもんで彼女から離れる。
「何してんの!この変態!!」
「どうせ殺されるなら!せめて一回ぐらい触ってみたいでしょうが!」
「変態!痴漢!」
「最低だな」
「ゆ、勇騎君本能に忠実というのも考え物だよ。」
「勇騎!これを乗り切ったら殺す。」
「……この状況でこんなに突っ込みが入るとは思ってなかったですよ。」
「さて、姫瑠会長、この状況です。少なくとも灯さんときららさんの中の蛇はもう少し大人しくしてもらえますか。」
「さて、どうようかしら、」
「や、やめてください。会長、どうしてこんなことするんですか、」
「どうして、説明したところであなたに理解ができる?私を怒らせたあなたが、」
「そんなに羨ましいのか、その歌手の子が、そんなに彼女のようになりたいのか?」
「はぁ?」
「だってそうだろ、その子の事を認める事が出来ない。羨ましいんだろその子の事が、
皆から愛されているその子の事が、」
「違いますね。筋違いもいいところだ。でしょ。」