退魔(物理)師 ブレイブ ワン!12
「ごめんなさい!ごめんなさい!解きますから許してください。
殺さないでください、私死にたくないんです。お願いします、お願いします。」
まるで人が変わったように怯えた声で涙を流して懇願する。
「私もこんな風になりたかったわけじゃないんです。
気がついたらこうなっていて自分じゃどうしようもなく、私の中のこの感情をどうしようもないんです。何でもします。だから命だけは、お願いします。お願いします」
「……本当だろうな。」
「先輩そこまでですよ。彼女自身が悪いわけじゃない、彼女もまた呪われた犠牲者ですよ。
血の染めの守り、それは普通のお守りじゃない。
その持ち主がお守りの身代わりなんです。呪いのお守りの話はきららちゃんから聞きました、伝説が本当なら、お守りの核にいらっしゃるのは白蛇様。
水の神です。その神様が人の憎しみで怪我され、染まってしまった。
赤く染まったそのお守り、清流は血で染まった。
水が穢され、その後泉も、公共工事で潰され、還る場所も失われた。
そうなれば白蛇様自身どうする事もできない。
白蛇様が受け入れた夫婦の憎悪は救う事が出来ずに、白蛇様の性質も変えた。
憎悪が憎悪を呼び既にそれは人に仇なす神となり、尽きる事のない人の憎悪を晴らし続ける。だけど、血で血を洗っても決して落ちる事はないんだ。
彼女が手にしたお守りがそうであるなら、彼女の中の憎悪はどうしようもないんだ。
初めは小さな嫉妬羨望。そうなんだよね。」
姫瑠は涙目でうなずく、流石にその表情に嘘はないと判断したのか、烈火も麗華も力を収め、まずは初めにきららの呪いを解いてもらうために、麗華の部下に電話し、姫瑠の近くの建築予定の空き地の合流地点にきららを連れてくるように依頼する。
「信じるんですか?」
合流地点に向かう途中、前方では不安に押しつぶされそうになる姫瑠を専門家とプロの立場から灯りと麗華が言葉をかけている中、勇騎は骨の折れた勇騎は胸を抑えながらレッカに小さく尋ねる。
既に姫瑠に対する疑念はない、あるのは彼女を救おうとする心だけだ。
「君は本当に疑り深いな、あの涙は本物だ、灯も言っていただろう彼女も犠牲者だって信じてあげるべきだ。それに今の彼女に何ができる。」
「そういう子じゃないと思うんですけどね。あの子はあんなにあっさり負けを認めたりしない。そういう子ですよ。誰も信じず自分だけを信じている。
白蛇どうこうは関係ありません。彼女は自分よりも優れているただそれだけで、いつまでも恨み続ける人です。いや、恨んでですらいない。当然の事として自分よりも優れたものがってはならないと、これは罰だと。」
「そこまでにしておけよ。いいかあの子がせっかく前向きに立ち直ろうとしている時にそうやって傷つけるな、お前は本当にかわいそうな男だな。
ずっと一人で、誰も信じず、それが当然で、何でも自分基準で考えるな。
お前の様に人の感情をおもちゃにして、人を疑い、追い込むことで、人の本質を見たような気になる。俺からすれば彼女よりお前の方が化物だ。
そんなにお前のやり方が通用しなかったのが気に入らないのか?」
「……警告はしましたよ。問題がなければ、それでいいですけど。」
「それじゃ、聞くが彼女が何をする。そしてそれに俺たちがかなわないとでも?
俺に触れられただけで骨が折れるやわなガキが何を言ってんだ?あ、」
「烈火、激しく燃える様、名前に偽りなし、ですね。ほんと、」
空き地につくと、先に到着していたきららが心配そうな顔で烈火たちを迎える。
歩くのもきついはずなのに、それより先にこっちの心配を、必要以上に感情的になっている烈火は、姫瑠を急かし、きららの解呪を迫る。
姫瑠は泣きながらきららに謝ると、首筋に触れ、傷跡を消していく。
「きらら大丈夫か」
「……うん、たぶん大丈夫。ありがとう。」
「よかった、本当によかった。」
安心したのか、烈火はきららのそばで崩れ落ちる。
「ありがとう、本当によかった。」
「烈火、ごめんね心配かけて。」
「いいよ、良くなってさえくれればそれで。」
「ありがとう、私からもお礼を言うわ。」
「いいえ、私がしたことですし、」
「力を手にした人は往々にして狂うものよ。よく呪いの力に憎悪に負けずに正しい判断をしてくれたわ。大丈夫、その強さがあればあなたは負けない。」
「そうさ、私たちが必ず君を救って見せる。」
「ありがとうございます。……」
「どうかしたの?」
「いいですね。あぁいうの、私にはないから、あぁやって思ってくれる人が。」
「姫瑠さん。」
「小学校の時に初めて友達ができて、その子の家に遊びに行った時、
お父さんとお母さんが私の知っているお父さんとお母さんとは違っていたんです。
普通の親子、当たり前の家庭、私にはカルチャーショックでした。
私にとって両親は私に命令する人たちで、私のすることは両親の求めたものに結果で返す事。家族に関心がないみたいで、父は月に1回帰ってくればいい方で、最近では1年に1回も帰ってきません。風の噂では別の所に新しい家族があると
母はいつも父の課した命令を実行するために私を監視するだけ、
そんな私が両親の期待にはずれて、私は両親を失望させました。
期待された結果を出せない。父からは『だから女は嫌なんだ、我がままばかりで感情的で弱くてこの程度の事もできはしない。でもいいな、妥協が許されるんだから』と見放され、
母からは、自分の非ではなく、私の落ち度だと日々愚痴を言われる日々。」
「そんなクズ、今すぐ社会的にも生物的にも抹殺する。」
「隊長お落ち着いてください。」
麗華が同調し、電話をかけそうになるところを勇騎が遠巻きに留める。
「両親の愛情なんて感じる事はなかった。それに学校でも私には私に与えられた役割がある。私のやりたいことも、なりたい自分も殺して、いつだって他人の為にそれが当たり前になっていた。いくら周りからは信頼されているように見えても誰も私を理解なんてしてくれない。そんな中で私は意を決して一歩自分の道を進んでみようと思った。
それが例のオーディション。話し聞こえていましたよね。
歌手になれば今の自分を変えられる。私を見てくれる、認めてくれる。
今いる場所から、自分の居場所を手に入れられるって、
恋だってしてみたいし、誰かに愛されたい。
だけど私には才能がなかった。確かに凜の事を利用しました。
私一人では不安だったから、私だって努力をしたのに、どうして凜だけが、そう思うと悔しくて。その頃からです私がおかしくなったのは、眠れなくて、毎日不安で、
でも皆には愛されたいからそんな自分を殺して学校では皆の望む姿を演じ続けました。
そして、段々と、私は壊れていきました。」
「自分で壊れているって、理解している時点でサイコパスでしょ。いや自分に酔って、しょうもないことを大仰に語り悲劇のヒロインを演じる、ファッションメンヘラですか」
「黙ってろ、サイコパス。」
「そしてこの力を手に入れて、どうしようもなくなってしまった。
私が私じゃないみたいでどうしようもない、お願いです。助けてください」