退魔(物理)師 ブレイブ ワン!7
「……確証はなくとも確かめるしかなさそうですね。
しかし『持っていることを他人に知られてはいけない。知られれば、静かに不幸が訪れる』
のルール。まさか、所有者が移った後も有効だなんてね。」
「その動画を公開したのはおそらく、その子ね。いいでしょうまずはそこからうちの方で調べましょう、2日もあれば、」
「麗華さん、何を言ってるんですか、今すぐに決まっているでしょ。」
「証拠もないのにどうするの、それにその動画を公開したのはその子だとしても、その呪いのお守りは、」
「お守り自体は全部俺が家を出るときにゴミとして出してしまっています。既にお守りはないはず。」
「君の所に来たお守りは偽物で本物がまだ別にあるなんて可能性はどう」
「0ではありませんが、元々偽物だらけで、きららさんの所に来たのが本物。
偽物を作ったのが紅葉さんで、その本物だけは姫瑠さんが紛れ込ませた。
本物はまだ生きている。と、」
「君も呪われれば、その真偽が分かったんだけどね。何も効かないとなるとね。
何でも捨てちゃうかな。」
「持っていても仕方がないって思ったんですよ。」
「今重要なのは、本物があるとして、それが意図したものなのか、気づかずにやった無意識の事なのか。」
「どういう意味ですか?」
「終わりを迎えた呪いのお守り騒ぎ、その子は最初から、人を見下して楽しんでいたんでしょ。人の心の闇を見て自分は違うっていう優越感に浸って、他人を馬鹿にしていた。
他人の感情なんてわからない。そんな子があなたに自分のおもちゃを奪われた。
だから、動画を公開して最後に大きく遊ぼうと思った一種のアジテーターね。
騒がしくすることだけが目的だった。なのに、そこに本物が紛れ込んでいた。
無自覚に、その呪いは起こった。そうだとすればその子が問題じゃなくなる。
時間かかるわよ、そうなると、仮に君が呪いのお守りを捨てたとしても君には呪いは効かない。そうじゃないとしても今どこにあるのかわからないお守りしか手がかりはない。」
それまできららを含め、被害者が耐えられるわけがない。
「きららちゃん。とりあえずこれ、肌身は出さず持っていて。」
そういうと灯はお守りを渡す。
「……少し楽になったかも、」
「先輩、麗華。私は被害者を回ります。少なくとも私のお守りでその呪いを阻害し、侵攻を遅らせる事はできる。」
灯はきららに触れ、そして何かを感じ取ったかのように首筋をじっと見つめる。
「白蛇を見た。そういったね。首筋の痕、かまれたように見えるそれが呪いの原因。
徐々に体に広がっています。白蛇様の呪いに似ている。だったら、対抗する手段はあります。とりあえず、まずは被害の拡大の遅延。そして、打開策の検討。」
「任せていいか?」
「私を誰だと思っているんですかこれでもプロですよ。私たち一族はいつだって未知と戦ってきているんです。士条1300年の叡智を甘く見ないでください。
熱血に燃える先輩に免じて、今回ばかりは無料奉仕とならざるえないですね。」
灯はごちそうさまと言い残すと、きららから分かっている限りの被害者のリストをメールで受け取りファミレスからいなくなった。
残された、烈火は自分の膝にきららを寝かせ、麗華とどうするかを話し合う。
というより、頭に血の上った烈火を、麗華が制止しようとしている不毛な会話だ。
そんな中、机に置かれたきららの携帯で、勇騎は動画の再生を続けていた。
そしてすべての動画を確認し終わると、横になったきららに声をかける。
「……きららさん、電話させてもらっていいですか?」
勇騎は電話を借りると店外に出ていった
そして20分後
「長電話だったわね、誰にかけてたの?」
「うちの学校の先生です。あと、或葉さん。」
「或葉!何を言ったの!」
「ちょっとした調べものですよ。或葉さんが一番正確で速いですから、そんな大げさな」
「どうなっても知らないわよ!」
「だ、大丈夫です。帰ってくる時にアイス買ってくることで手を打ちましたから。」
「……マジかよ。」
「麗華さんらしくない言葉遣いですね。」
「それよりも、何の用事だったの?」
「もちろん、この呪いに関して調べてたんですよ。」
「何をだ?犯人の証拠か」
今すぐにでも物理的になんとかしたい烈火はそうする理由を求めていた。
「アップロードされた映像、2週間ルールと噂の発生時期、仮に呪いのお守りの本物が一つだけだとしても、この映像の対象者は少なすぎます。
呪いの対象者、森川先生に確認しました。
分かっている限りですが、この映像以外で、卒業生を含めて具合が悪くなっている人はいません。逆に卒業生で一名、この映像に含まれている人は体調を崩している。
呪いのお守りの所有者全員じゃない。呪いを受けているのはこの映像に映っている限りです。つまりは動画の公開者が認識している限りにおいてだけです。
そして動画の一番最後の人は俺に渡すところだと思います。
その対象者が少なくとも2人います。つまり唯一無二の本物なんかない。」
「つまりは、」
その時きららに返した電話が鳴る。
「はい、はい、え、あ、はい……勇騎にだって、」
「或葉さんですね。はい、代わりました。……はい、……分かりました。
あのついでに、……はいそうです。助かります流石です。……なるほど、その考えはありませんでした。はい助かります。……はい、はい。分かりました、人工的な甘さの物ですね。ちなみにラクトアイスとソフトクリームでは、」
「何の話をしている。」
勇騎は最後のドリンクバーを注ぎに行き電話を続け、戻ってくるときららに電話を返した。
「で、結果は?」
「呪いのお守り、その所有者に、きららさんと同じように首筋に痣があるそうです。
そして、呪いのお守りを手にしていないのに同様の痣があり、一番最初にこの症状を発病した部外者が一人。」