退魔(物理)師 ブレイブ ワン!5
「麗華さん、自分が何をしようとしているのかわかっているのですか?彼もまた彼らにようにするつもりですか?」
「違うわよ。これが彼の本来のあるべき姿よ。それにあの人たちとは違う。この子はコントロールできる、理屈が通り、意志が通る。」
「でもいずれそうでなくなる、化け物にするつもりですか?」
「それも否。彼は最初からそうなのよ。それを理解せず、あなたたちの常識で彼を固めようとする。それ自身が偽り、欺瞞。彼が感じていた違和感。簡単なことよ。
彼自身を解放してあげればいいそれでこの子は自由になる。私はありのままの彼を受け入れる。冗談を言う必要もない、気を使う必要もない、彼にとっての最高の居場所を作ってあげる。勇騎、あなたは私の所にいるのが嫌?私の命令で動くのが嫌?」
「いいえ、俺は麗華さんが命令すればいつだって武器を取ります。あなたは有能です。そして何より、戦場に立つあなたは信頼できる。例えそこで俺が死んでもそれはあなたのせいじゃない。俺の無能が原因です。
、最高の環境、くだらない人間の感情の真似事もいらない、ただただ正義と秩序それだけだの為の暴力、命の輝きがここにある。」
「くだらないって、人の感情がかい?」
「あぁ、すみません、別に否定するつもりはありません、人のそういうの好きですよ。ただ俺には理解はできても感じる事は出来ないだけです。
幸せそうな家族、恋人、そういう人の笑顔の為に俺が戦いと思っていますし、」
「ただ、自分にはそういうものはいらない無用の長物だと」
「ご理解いただいて幸いです。僕には到底遠い感情です。ずっと理解しようと無理をしてきました。でも、結局俺はそういう人間じゃないんです。諦める事で自由になれた。
俺には関係のないものだと、闘争と秩序。狂気こそが僕の日常です。
憎悪、怒り、嫉妬実に心地の良い感情です。実に人間らしい。
理解しがたきものでしょう。あなたたちにはですが、ここにはそれで成り立つものがある。」
「君は人を愛してはいないのかい?弟さんや、他の皆も」
「理解はしています。立場も、そういう感情も、でも、結局感じないんです。
俺には無理なんですよそういうの、ただ単に壊れた人間それだけなんです。」
「無理?君が生まれるまでに何百人も何千年も、誰かを愛して愛されて、命を繋いできた。その奇跡の連続の結晶がなのに、どうして君は愛を理解できないと思うんだい。」
「理解はしています。ただ自分には必要のないものです。お説教ですか」
「必要のないもの、だと、それは臆病なだけだけだよ。」
灯は勇騎の手を握る。
「私は人の愛は尊いものだと思っている。心も体も、繋がりこそ、人と人の間にある者こそが人を人たらしめる根源の物だよ。
人は別々のもので決して一つになることはない、でも理解しあって、お互いの関係性の中で幸せを感じていける、
なのにどうして私の周りにはそれを理解しない。
麗華、今のあなたは分かっているはずだ、愛の価値を尊さをそれを理解しているのに、
どうしてあなたはこの子にその道を示そうとはしないんですか。」
「そ、それは、」
「麗華が私に言ってくれた言葉嘘だったの?あの時感じたぬくもりは嘘だったとでも」
「ちょ、ちょっと、灯そんな大きな声で。」
「私は麗華を愛している。私の好きな麗華は、こんな子を道具のように扱う打算的で下劣な人じゃないそうでしょ。」
「人は考える葦である。人は思考する限り、人であり続ける。自分の存在を正しく理解し、その上で思考をし、畏怖と敬意と持つ限り、人は人足りうる。」
勇騎は灯りの握った手をすっと外し、無意味なジェスチャーで語りだす。
「愛が人の本質であることは理解しますし、とても需要なことだと思います。
動物だって植物だって、子供を仲間を、大切に思い。自分の命以上に他者を守ろうとする。そうする事で一人では到底なりえぬことを成し得てきた。
愛こそ人の本能、いや生物の本能の力であることは理解しています。敬意もあります。
そしてそれが人であるという理屈も。
でも人は言葉を作り、文字を作り、機械を作り、愛がなくとも一人では到底たどり着けないものを生み出してきた、意識の共有を可能にし、真理を求める好奇心によって、理性によって、システムとして発展してきた。
愛というものが、人の本能の定義する人の条件なら、思考は、人の理性が定義する人の真理。今見せていただいている世界はいい。おおよそ見えなかったものが見える、世界の最先端を行く。理解して行っているんです、確実に僕の脳細胞が、ここに真理があると、人の行き付く先が見えると、俺では決してたどり着けない、それでもここにいる事で俺という存在はその心理にたどり着く礎になれるんです。
嗜好の思考は、無数の試行を経て至高となる。
ここには世界の真理があります。魂の存在を定義し、認識し、理解できる、なんと素晴らしいことか、だから俺はここにいます。
俺は凰綬さんたちと同じ道を進みます。例え灯さんから見れば狂気なことであってもね。」
「……」
「……」
「……」
灯の言葉で、少し冷静になった麗華は、勇騎の闘争心に感化され欠如していた感情を呼び覚まされ、自分のした事が正しかったのか疑念が生まれた。
そしてその瞬間、勇騎が自分の手に余るという想像をしてしまった。
「という訳で、俺は今後もここで粉骨砕身、働かせていただきますので。」
「本当にそれでいいのね。それで後悔ないのね。」