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退魔(物理)師 ブレイブ ワン!4

「……事前に回収を依頼し、それを許諾した。でも、数日でそれを撤回。」

「つまり彼らは、この子が何者なのかを正しく理解したとという事。」

「そしてこの場所、あるいはこの国から彼を移送することで双方に損害がでる代物。」

「つまりは土地に依存するもの、そして双方にと言っている時点で、引き取った側も引き取られた側にも問題が生じる。彼自身そのものではなく、彼という存在がキーとなり何かが起こるという事ですね。」

灯は勇騎の目を覗き込むが、勇騎はその真剣なまなざしをふざけて目を背ける。

「結果的に、麗華さんの手駒になった。それが一番有料だと判断した、と」

「私の仕事で一番厄介なのは呪いよ。治らない傷、蝕み続ける魂。私の部隊が消耗品とは言え限界があるその中でこの子がいかに有用か、エクスマキナ、八ヶ森或葉のAI兵器にも期待はしているけれど、それでも今すぐにとはいかない。」

「しかし呪いが効かないって、君の体はどうなっているんだい。」

「さぁ、どうなっているんでしょうね。あれですかリボンを装備しているとか?」

「呪いが効かない。可能性としては、彼が境界世界から何らかの特性を得た存在か、

完全に現実しか見ていないか」

「完全に現実しか見ていないってどういう事ですか?」

「いかに恐れられた土地神であっても行政執行の前にはなす術はない。

外国人に日本の幽霊は対抗できない。

それはそれに関する知識がない、個ではなく、公である、機械やシステム、感情に基づかない、認識の外である。

そういう相手には呪いはなす術がない。ポルターガイストにしてもその対象者が存在しなければ発動できない、被害者を媒介にして力場を形成する。

だから幽霊や怪奇、死後の世界を欠片も信じていない相手には通用しない。

ふつうそんな人間はいない、でも君の場合、前者も後者も可能性がある。

俺たちの領域の状況を理解していない訳ではない、その上でそういうものだと受け入れて、それを人智を超えた未知ではなく、己の無知に起因するものと解し、恐怖を抱いていない。」

「でも、さっき灯さんの呪符は、効きましたよ。」

「あれは少し違うんだよね。私の認識と力で呪符に力を与えている。あの時点で物質に干渉している。うーん、何といえばいいかな、私が呪符に力をエンチャントしているから成立するというか。」

「はぁ、まぁ、詳しくはこんどお兄さんに聞いておきますね。」

「お兄さん?」

「士条凰綬、灯さんのお兄さんですよね。」

「……会話が成立しているのよこの子。禁忌の子、凰綬。エクスマキナ、或葉。常闇の漆真。三狂と一緒にいても正気を保つどころか、一緒に暮らしてる。信じられないことにね。」

「この間、一緒に桃鉄しました、99年プレイで、」

「嘘でしょ、はっ!」

灯はずっと感じていた違和感の原因を察し、勇騎の手にしていたバールと腕に巻いていた雑誌を手にする。

触れた瞬間、今まで感じていなかった圧倒的な霊力が灯を襲い気を失いそうになる。

だが、意識を奪われる前にひょいっと勇騎が取り上げる。

「危ないですよ、勝手に触ると、俺の魂に合わせてカスタマイズしてもらってるらしいので、他人が触ると危険だそうですよ。」

「工具に雑誌を呪符化?もうちょっとよく見せて、……なにこれ、1ページ1ページが巨大な護符になっている、それにこの神経質で頭がおかしいと思わせる病的な術式の組み方。間違いなく、兄ちゃんじゃないとできない、でもよくもまぁこんなものを使えるものだね。少しでも霊感があれば魂まで持っていかれるよ、ホントよかったね無能で、」

「ついでにこのゴーグルも、術式を施してもらいました。俺、裸眼だと霊体の敵は見えないし、攻撃ができないって相談したら作ってもらいました。これのおかげで殴れます。」

「家に嫌われてたし、何、今まで見えてなかったの!」

「これはいよいよ、現実しか見えていない可能性が出てきたな。」

「でも、どうして、兄ちゃんは妹と使用人の顔の違いも見わけもつかない人だよ!それこそ他人の勇騎君の事なんてゴキブリとしか思ってない!」

「だから、有能なゴキブリと説明して理解してもらったんです。」

その言葉で、凰綬と会話が成立している理由を理解した。

灯は士条家で稀に見る天才だ。選ばれた血族の中で、抜きんでいた天才。だからこその許されている自由。だが、最強ではない、彼女の兄、凰綬。人外の力を持つ厄災。

式神を調伏されることなく、その圧倒的な力の恐怖をもって、本来使役することなどできない存在すら従わせる。秩序の破壊者にして触れざる者。

幼いころから灯も兄である前に目の前にいる凰綬に対し、別格の存在であることを感じ、恐れを抱いて生きていた。怒りを買えば殺される、気に食わなければ殺される。

彼という存在には常に死が付きまとう。別に彼が何かをしたわけではない、彼がそこにいるだけで死が満ちるのだ。彼という存在に耐えられないのだ。

だから彼は士条の家を出た。この地に自分がいる事がいかに災いを招くかを理解していた。

この目の前にいる少年は、格こそ違えど同質という事を灯は感じ取った。

「返さないわよ。これは既に私の駒。」

「麗華、それはダメだ!彼を兄ちゃんの近くにおいていちゃいけない」

それは危険なことだ、きっと彼は兄に毒される、その毒に耐えるだけのものを持っている。

「凰綬さん、えらい嫌われようですね。でも凰綬さんはいい人ですよ。」

いい人?誰もが信じられない言葉だ、あれをいい悪いで判断すること自体が信じられない。

「まぁ、口下手で、暗いから誤解されますけど。」

「……麗華さん、俺は彼を弟夫婦から、保田さんから託されました。俺には彼を保護する義務がある。それに彼はトケンの依頼者だ。彼の身に何が起こったのか、まだ何も解決していない。」

「だめよ。これは政府命令。この子は既に私の剣。折れるまで私の元で働いてもらうわ。」

初めて手にした異形の才覚。三狂にこそ及ばないが届きうる可能性を持った存在。

磨けば光るものを持っている。コントロールできる優秀な駒。手放すわけにはいかない。

勇騎をうまく使えば、自らの正義を理想を実現できる可能性がある。外にも内にも、勇騎は優良な剣だ。」

「使っているようで、使われている、その心を蝕まれている。」

「私はまともよ、支配しているから駒なのよ。」

「力に溺れるな、そういったのはあなたですよ。」

「力には責任が伴う、命ある限り世界に義務を果たしなさい、そうも言ったわね。」

「勇騎はそれでいいの?麗華の所で道具のように使われて、」

「自給700円!居候させていただく理由はありません。

それにここは凄く居心地がいいんです。きららさんにも迷惑はかけなくて済む。

今あるここは、僕の望んだ世界です。

全力を出してもかなわない、なりふり構わず、それでようやく歯牙にかかる。

一日、一刻、一瞬でも無駄にはできない。こんなにも先にがあることを見せてくれた。

こんなにも世界は先にある。

ここは煉獄、修羅の道、尊き命も刹那の華。悪鬼羅刹と舞い踊る。

最高じゃないですか。」

勇騎の笑みに一同、ぞくっと背筋が凍り付く。

この笑みを知っている。これは超えてはいけない一線だ。


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