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子供の世界12

同日20時、トケン、玄関先

「それじゃ、明日の朝には迎えに来るから」

事が終わり、麗華は事務的に連絡を伝える。

「分かりました。ちなみにSCP保管管理センターってどういう場所なんですか」

「人に過ぎたる厄災の遺物を管理補完する。不条理・不合理・理解不能。全ての規範の外。」

「つまりは僕向きだと」

「覚悟しないさい。あなたが何者なのか答えを出せてはいないけれど、あそこはあなた以上の規範外の化け物ばかりを管理している。世界を何度滅ぼせるか分からない。そういうものを管理している場所よ。」

「それを人が管理している、コントロールできていると」

「数多の犠牲と数多の血を代償にね。それに誰も人だけが管理しているとは言っていないわ、そういう遺物の中にいるのよ、コレクターが。まぁ、楽しみにしているといいわ。あなたの事は既に申請、承認済。どういう場所か、あなたでも壊れるかもしれないけど。」

最後に笑い、麗華がいなくなると勇騎は人のことは言えないまでも、彼女の性格の悪さに感心する。

ここで泊まるのも最後かと思いながら扉を開けるが、僅かの感慨すら湧いてこない。

別に後悔もあるわけじゃない。ただ俺が何者か、まだ答えを出せていない

この状況でこの場所を離れるのは少し名残惜しい気もする。

この時代に来れて楽しい思いをした、これから送られる場所がどういう場所か分からないが、刑務所のような場所であるなら。それはきっと昔と同じところに戻ってしまう。

だが、自分がそうされるだけの理由がある存在だという事も理解している。

だからこれは仕方がない、

「お疲れ様、」

いつもの様に無言で扉を開けると、きららがはにかみながら迎えてくれる。

「た、ただいま、です。」

思いがけない光景、烈火がいる時以外で、初めて見るちゃんとした格好。それに何より自分に対して警戒心が薄い。同情してくれているのか

「ご飯は?」

「事務所で麗華さんに、」

そこまで言ったところで勇騎は部屋に充満する匂いに気が付く。

「でも、正直量が足りなくて、何か作りましょうか、きららさんも、」

「そ、そう、ちょうどよかった。実は今日暇だったらご飯作ったの。余った仕方ないし、あの、よかったら、食べる?」

「えぇ、ぜひ、」

「あ、でも、味は」

「きららさんが作ったものですよ。おいしくなくてもおいしいっていうに決まってるじゃないですか、」

「そういう気の使い方はいらないから。さ、座って。」

「俺も手伝いますよ。」

「いいから、今日は座ってて、余計なことはしない。」

人に何かをしてもらう。例えそれが親であっても気に入らず、何かと揉め事を起こしていた勇騎ではあったが、この義務なき善意にはさすがに抵抗する理由も術もない。

できる事と言えば

「……ありがとう、ございます。」

ただ本当に心から善意を伝えるだけだ。

ただそれは勇騎にとっては経験のないことで何もより難しいこと、

それでも勇気を出して、口にした。

「……」

「どうかしましたか?」

「いや、ちゃんとお礼が言えるんだなって。」

「お、お礼なら今までも何度も言ってるじゃないですか。」

慣れないことはするものじゃない、顔を真っ赤にして勇騎は冷静を取り繕う。

そんな勇騎を見て、きららは心の中で笑う。間違っても顔にも口にも出したりしない。

「そうね、」

ただそう言って、きららは台所に向かう、二人一緒の食事は今日が初めてだ。

いつもは勇騎が作り、きららの部屋に持っていく。きららがそれを望んでいるから、

そして勇騎も一人の方が効率的だと、それでも今日は二人とも違っていた。

何を話していいのか、普通ならそう考えてしまうところだが、きららは自然に話しかけてきてくれた他愛のない話ばかりだが、勇騎は少しも嫌な顔をしなかった。

嫌な顔などしようもない、それは自分が得たものだという充実感があった。

この時間は自分が手に入れた時間だ、自分が築いたものなんだ、と。

そして食事が終わりに差し掛かった頃、一足先に食事を終えた勇騎が、口にしづらかった話題を切り出す。

「明日から、俺がいなくても学校行ってくださいよ。」

「……本当にこれでいいと思ってるの?自分がどうなるか分かってるの」

「少なくともそれなりの説明は受けています。それに俺がここにいる事で迷惑がかかる。」

「なによ、迷惑がかかるって今までだって色んな人に迷惑かけっぱなしでしょうに。」

「痛いところをつきますね。でもま。これでいいんだと思います。」

「これでいいって何よ!」

「っと、最後の日に喧嘩はしたくありませんから、この話はこれで終わりです。

きららさん、色々ありがとうございました。あなたは僕の恩人です。」

「……待ってなさい。今は無理でも、どれだけ時間がかかっても、私あなたを助け出すから、それまで死んじゃダメだからね。」

「俺が死ぬと思いますか?」

その言葉にきららは思わず笑みがこぼれる。

食後、食器洗いを終え、いつもの様にソファーでそのまま眠りぬつこうかと思い横になった勇騎に、部屋に戻ったはずのきららがすっと横に座る。

突然の事に勇騎は立ち上がろうとした瞬間、頭を掴まれ、きららは腰を動かす。

「あ、あのきららさん。」

「や、約束したでしょ。膝枕って、」

「だってあれは嫌だって。」

「さ、先に行っておくけど、これ以上ないから、期待しても私には烈火がいるから駄目だから、これは浮気とかそんなんじゃないから、あと、こっち向いたり、上向いたりしたら殺すから。」

「はい、」

勇騎はこそばゆい感覚を感じながら少し頭を浮かせきららに荷重がかからないようにする。それでも、きららの感触と、匂いに、かつて経験のない緊張感と、感覚。

どうしていいか分からないと戸惑うものの、そこは勇騎、自分をコントロールし始める。

そして無言か続く中、何気に、勇騎の頭を撫でる様になっていたきららが口を開く。

「ねぇ、昔弟さんの奥さんに告白したんでしょ。」

「……フラれましたけど、」

「好きだったの?」

「……どうでしょうか、好きになろうとはしてた、とは思います。」

「努力するものじゃないでしょ。」

「そういうきららさんはどうして烈火さんの事が好きなんですか?」

「烈火はね。私の命の恩人なお、ううん、命だけじゃない。私に生きる希望をくれた人。私の為に怒ってくれた人。詳しくは話さないよ。私と烈火だけの特別な思い出だから。」

「……そうですか。」

「いつか本当に好きな人ができれば、あなたにも分かるわよ。人が好きになるっていいなって、頭じゃなく、心で感じるようになる、そうすれば、こうしてる時間もお互いに特別になるって。一緒にいるだけで楽しい、私は烈火と居る時間全てが思い出なの」

「僕はきららさんの事好きなんですけどね。嫉妬してしまいますね。」

「それじゃ、私が、あなたの思いに応えて、あなたの事を愛するっていえば、あなたは逃げずに向け止めてくれる?烈火を敵に回しても、私を奪おうとする?」

「……」

「好きになるっていう事はそういう事が冷静に判断できなくなること、そこまで必死で懸命になれるもの。あなたにとってそんな特別なものってあるの?」

「喧嘩とか、ゲームとか」

「悪いとは言わないけどね。人に興味は持てないの。悪意以外で」

「……昔から、僕は興味を持つとバラしたくなるんです。どういう構造か理解したい。理解することで納得する、納得することで僕の心は満たされる。理解がほしいんです。

初めはおもちゃ、洋服の糸を解いたことも、時計をばらしたこともあります。

実はもらったスマートフォンやパソコンをばらそうとしたこともありますが、これはバラしても理解できないと理解しました。だから実は怖いんですよね。

よく分からないものを使うというのは、」

「……変わってるわね。」

「一種の性癖ですね。だからもし、人に興味をもって、バラしたくなったら大変でしょ。」

あまりに当然の事のように勇騎は真顔でそれを口にした。

「あっそ、」

「……」

「でも、もし、いつか本当にこういう事をしてほしいってここらから思える人が出来たらどうするの、バラさないといけないでしょ、

でもバラせば、あなたはあなたを許せない。自分の心が壊れる事が出来ないのに、壊さないといけない義務感にかられる。そうなった時あなたはどうするの」

「……さてどうしましょうか、それよりどうしましょうきららさんマズいですよ。」

「何が、」

「そんなに僕の事を理解してくれる人に会ったことがありません。俺、きららさんの事本当に好きになりそうです。」

「そう、それは残念。」

きららは勇騎の頭をどかせるとすっと立ち上がる。

「それじゃ、私を奪いに来たらいいわ。あなたは明日で終わりじゃないでしょ。」

彼女の魅力に勇騎は魅了された、なんて素敵な笑顔なんだ。理解される喜び、正しく理解してくれる人の存在。あぁ、人を好きになるってこういう事なんだ。

だからこれ以上迷惑をかけちゃいけない。

俺は不幸であるべきだ、世界中の誰より、孤独で、嫌われる。

それではじめて俺は俺でいられる。

翌日、勇騎は予定よりも早く、日の上る前、きららが起きてくる前にトケンからいなくなった。

まるで彼がいた事が幻であったかのように、一切の痕跡も残さず、ただ消えていた。


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