子供の世界9
紅葉に心配をする姫瑠の『お見送り』が終わるまで勇騎はただ黙って待っていた。
「彼女はあなたの事を親友と言い、あなたの事を姫瑠ちゃんと呼ぶのに、あなたは紅葉と呼び捨てだし、ただ一人の親友という訳でもない。
俺には親友はいません。俺は他人と深く関わらないから、だって面倒でしょ。特に俺みたいな人間はお互いに、でも、親友という立場は特別です。言うなれば最前列の特等席で見る事が出来る。距離感をコントロールできる人は当事者にはならない。
安全な場所で、普通だったら見れない表情と心を動きを見て取れる。」
「その言葉だけでもあなたに友達がいないことは理解できるわ。悲しいわね。
達観した気になって、確かに紅葉のしたことは褒められたことではないけれど、あなたがその呪いのお守りにかかわるようになった理由はあなた自身の粗暴な行いだとは思わない?あなたが恨まれている事実は変わらない。」
親友が連れ去られたのに、彼女は少しも慌てず、冷静に語り掛ける。
「そうですね。」
「自覚があるのなら、家に帰って悔い改めなさい。私は紅葉を。」
図書室の入り口に向かう彼女が扉に手を賭けようとした時。勇騎は言葉を続ける
「……これで事件は解決。もうお守りは発生しない。でも、それですべてが終わりとはとはいかない。これを作ったのは彼女だ、でも、そうさせたのはあなたですね。」
彼女は伸ばした手を引っ込め、もといた席に戻っていく。
「彼女の更新する呪いのお守りの掲示板にはコメントも残さず、IDも持たず、ただ閲覧しているだけの履歴がある。それは一番最初にその掲示板を見た人だ。
その人は今日の今日まで欠かさずにチェックをまめにしている。同じ携帯電話からね。
それ程までにこの噂に興味があったのか、あるいは全てを知っていたのか」
「それが私で、紅葉がそうやって人を呪うのを見て楽しんでいたといいたいの」
「あなたには才能がある、人を操る才能が、そしてそうする事で快楽を得る。
決してあなたは表には出ない。
あなたにとって今日は何でもない日だ。ただそういう観察対象が一つ終わっただけ。
呪いのお守りはこれで終わり、でも、根本的には何も終わっていない。
何も解決していない、あなたは何事もなかったかのようにそうやって生きていく、明日からも、これからもずっと、そうしてあなた自身はいつも間近で人を見下しながら、幸せになる。彼女のことなど気を留めず、ただ自分の完璧な生活を重ねていく。」
「すべてはあなたの憶測、ひどいものいいね。」
「このお守りの犠牲者はいないわけじゃない、呪いの怯えながら、誰かに押し付け、心を病んで止めていった。そして自殺未遂。そういう事を想像できない彼女はまだこれからいくらでも修正が効く、そして相手の気持ちを本当に分かるようになった時、彼女は自分のしたことの罪の重さを自覚する。耐えられないほど重い罪の意識。
だから彼女には支えが必要になる。でもそれは決してあなたじゃない。」
「……いいでしょう。そこまで言うのなら私も据えかねるところがあります。まずはあなたの妄想話を聞きましょう。そこまで言うのなら、あなたが私を『邪悪』だと決めつける根拠を教えていただけますか?」
「あなたに感じる違和感それは、あなたに違和感がないことです。」
「矛盾した話ね、」
「あなたと話すのはこれで2度目ですが、あなたの言葉、しぐさ、声、全てに違和感がない。あなたは完璧に隙のない人を演じた。それが違和感です。」
「それは演じたのではなく、私が本当の事しか言っていないからじゃないのかしら
私は、心から紅葉を心配している。」
「こういう話を聞いたことがあるますか、ある街で一人の女の子があたりを見回し、不安な表情を見せている。すると大人たちは我先にと女の子の力になろうと、彼女に優しく声をかける。そこは善意に満たされた世界だ。
でも、同じ状況でも肌の違う、身なり汚れた女の子が同じように不安な表情を見せても誰も声をかけようとはしない。言葉が通じるか分からない、簡単に解決できる問題じゃないかもしれない、子供の泥棒かもしれない。
美人で、身なりの良い子は誰でも助ける。小さなことでも、自分で解決出来る問題であっても、勝手に救いの手を差し伸べてくれるそれが当たり前に生きてく。でもそうじゃないことは助けれるない。全くとは言わないまでもそこには明確な差があるそれは事実だ。そういう子は少なからず期待をしなくなる。そして増々誰も助けない。見向きもしない。」
「その恵まれた子が私だと、」
「……そういう話をするつもりはなかったのですが、そういう認識なんですね。」
思わぬ言葉に勇騎は虚を突かれてしまう。
「……話を続けなさい。」
これには姫瑠も予想外で少し顔を赤くさせ、怒るようにせっついた。