子供の世界8
翌日放課後 図書室にて
「ね、ねぇ知っている。呪いの守り、あれが今、あの生意気な転校生が持ってるってみんなの噂だよ。誰が入れたのか周りに聞きまわっているって、私の所にも来たけど、馬鹿だよね。教えるわけないでしょ。そんなの誰も、」
「呪いのお守り?本当に紅葉はそういうの好きだね。前も誰が持っているとか言ってたね」
「でも、実際に生徒が死んだって話もあるし、気にならない普段善人ヅラしてる奴らが、何喰わない顔で他人を不幸にするお守りを渡し続けるって」
「気にならない。……それより、早く課題終わらせよ。今日中でしょ。
紅葉ちゃん、これ以上目を付けられたら、留年だよ」
「あ、ありがとう。……生徒会の仕事いいの?」
「友達が、困っているのに放っておけないでしょ。」
「……私を気持ち悪がらずに、話してくれるの姫瑠ちゃんくらい。いつもありがとう。」
「何言ってるの友達でしょ。」
「私は、頭も悪いし、見かけもこんなんで。皆からバカにされて親からも、姫瑠ちゃんと凛ちゃんだけだよ。私の味方は、そういえば凛ちゃんから聞いた?」
「え、何を?」
「凛ちゃん来月メジャーデビューするんだって。
アイドルとしてじゃなくてソロで歌手としてだよ、凄いよね!」
「……そうね。凄いわね、凜は」
「凛ちゃんは別格としても姫瑠ちゃんもどんどん遠くなっていくのに私だけ。」
「あ、ごめん。芯折れちゃった。それで」
「私は二人とは違う。私にできる事なんか」
「こうして呪いのお守りを作ってはまわして、陰に隠れて楽しむ事だけですか?」
唐突に現れた勇騎は紅葉の前に呪いのお守りをばらまく
「このまま14日経つまで。僕が死ななければ大変だ。この噂が嘘だと皆にばれてしまう。
全部で13個。呪いのバーゲンセールだ。
このまま14日待て、俺に渡ったものが偽物だって噂を流すところまで待てればよかったんですが、残念ながら諸事情でそれもできない。
犯人逮捕どころか、それでは俺が噂の箔を付けることになってしまう。
なので直接話に来ました。これを作ったのはあなたですね。照葉紅葉さん」
勇騎の視線にビビり、紅葉は姫瑠の影に隠れる。勇騎はその眼光を姫瑠に向けるが姫瑠はその眼光に引かずに、紅葉を庇うように勇騎に対峙する。
「また、この間のように決めつけて問い詰める様に絡むつもり」
「あれは失礼しました。心当たりがあれば動揺するかと思ったんですが、」
「で、どうだった、」
「残念ながらあなたには、でも、」
「紅葉ちゃんは違うとでも?」
姫瑠は二人に座るように勧めると、動揺する紅葉を落ち着かせ、自分の横に座らせる。
「……あなたのやり方は自分の手の内を全部晒して、相手に選ばせている可能に見せて、言葉で選択しを奪っていく。すべてはあなたの思い描いた通りに話を進めていく。
相手が何を考えているのかわかっている以上、手の内を見せることに不都合はない。自分の石で自分に向ける銃を選ばせ、自分自身で引き金を引かせる。」
「過大な評価ですね、」
「あなたと話して持ったことを口にしただけよ。でもそれも、全てはあなたが相手の事をすべて見透かしていると思い、相手の人格思考を決めつけている、高圧的な態度と僅かばかりの洞察力に支えられた儚いもの」
「つまりは、俺以上にそれを理解している、あなたのような相手には通用しないと」
「それもあるけど、言いたいことはそうじゃない。あなたのそういうやり方は内気で優しい紅葉のような子には毒だと言っているの。まるで不良警官の訊問のようなやり方。
あなたのような人が冤罪を生み出す。そう言っているの」
「たいそうなものいいですね。俺そんなに嫌われることをしましたっけ。」
「あなたの事は聞いているわよ。上級生に高圧的な態度、それに暴力の数々、聞いているわよ、弐頃君たちの休学もあなたが原因だって、」
「……その事を知る事が出来て、あいつらが何かをしていたのかを知らないわけがないでしょ。俺にはそんな事を言っておいて、あなたは放っておいたんですか」
「できる事はしています。学生として、徒会長として、
あなたみたいに暴力を肯定して、力でねじ伏せて、それで解決したつもりですか?
あなたと弐頃君、何が違うんですか、私からすれば同じです。
そして今も、あなたが恨みを買った事を紅葉ちゃんのせいにしようと。」
勇騎は紅葉が顔を上げるまで沈黙を続け、目があった一瞬を見逃さず会話を始めた。
「人を呪うってどういう気持ちですか。俺には理解できません。俺はいつだって自分頼みでこうして面と向かってはっきりと言ってやります、願いを口にするんじゃない。
拳で、言葉で、意志を伝えます。」
「いや、勇騎この状況で拳を肯定しちゃダメでしょ、あなたやっぱりバカね。」
「な、何か、しょ、証拠があっていってるの!犯人が私だって。」
そういうと勇騎は机に髪の毛を置く、話を聞いていなかったきららは思わず引いてしまう。
「これ君の髪でしょ。お守りの中に入っていた、そして髪で包まれた中に入っていた。」
「なにこれ?まさか発信機、」
「そう定期的に、電波を発信する、電波が弱いから5m以内に近寄らないし、電池も2週間しか持たない。」
「普通お守りの中は覗かない、それに覗いて髪の毛が入っていたら気持ち悪くてそれをさらにみようとは思わない。考えたわね。」
「それでも見失うたびに、新しく作っていたんだろ、学校限定の噂の理由もそういう事、学校の中じゃないと追えない。単純な電波だからね。簡単にキャッチはできる。
この学校は防犯上、玄関の外と校門、体育館への通用路なんか人の出入りするところには防犯カメラが備え付けられている、それは普段誰も気にかけない。
でもそれを見れる生徒がいる。それが放送部の君だ。
センサーのようなもので、発信器の時間を記録しておけば、所有者が特定できる。」
「全部、憶測。それでなんで私が犯人になるの」
「あなたに話しかけたのはかなり初期だ。それから、こうして来るまで、なんで時間がかかったと思う。DNA鑑定していたからだよ。あなたは髪が長いからサンプルを取るのは簡単でしたよ。警察にお願いして大変でしたよ」
「!」
「あなたに選択肢はない、理解できますか、この卑怯者」
「卑怯者、行ってくれるわね。不良が、いつの間にそんな事を、逃げられないっていう訳。でもDNA鑑定だなんて、やっぱり自分の髪を使うべきじゃなかったわ、最初は警戒して拾ったものを使ってたけど、よくわかったわね、そこに目を付けるなんて。」
今まで怯えていたのが嘘のように彼女は攻撃的に喋り出す。
「へー、違う髪も交じってたんですね。それは気づかなかった。」
「!DNA鑑定したんじゃ」
「仮にも高校生ですよ。そんなことできるわけないでしょ。まぁあえて言えば、
シャンプーの匂いとキューティクルがないことくらいは一致してると。」
「ちょっと勇騎、その言い方マジでキモイ。」
「嘘だったの、私を嵌めたのホントムカつく、少しは信じなさいよ、怯えなさいよ。」
「こんな数出てくれば信じられるものも信じられなくなります。見失うたびに数が増える。
そこまでして人を呪いたいのですが、人を困ら得たいんですか?俺には理解できません。」
「でしょうね、あなたは他人に興味がない。目を見れば分かる。私は他人がうらやましい、だから私はそいつらが不幸になる顔が見たい。そいつらの醜い本性が見たい。」
「それでこんな事を、幸い死者は出てないけど、怪我した人がいるのよ!悩んだ人がいるのよ。それを何とも思わないの!」
きららは、紅葉に詰め寄る。
彼女は罪の意識がない。その事がきららの事を奮い立たせる。
「思わないわ、それがそいつの本性だってだけでしょ。それなのに綺麗ぶって」
「あなたはどうしてそうなの、自分がしたこと分かってるの!」
「何キレてんのあんたには関係ないでしょ。私はただお守りを作って落としただけ、それだけの事でしょ。後は勝手に周りが盛り上がってそういう事になっただけでしょ。
ちょっとした冗談それだけよ。」
「そうです。それで、紅葉が何かの罪に問われるの?警察が相手にするとでも」
「罪には問われない。でも、皆に迷惑をかけて、皆を不安にさせた。」
「そうよ。傷つける方がいつだってそう!そんな軽い気持ちで、」
「感情の話をしているわけじゃありません。それに、紅葉にそうさせたのは紅葉だけの責任じゃない。私も含め周りの皆が、」
「違う!姫瑠ちゃんは関係ない。姫瑠ちゃんだけがただ一人私の味方だった。お父さんもお母さんも、先生もみんな私の事を見下して、馬鹿にするに姫瑠ちゃんだけが私の味方だった。」
「紅葉、」
「身の上の不幸話は済みましたか、同情しないわけではありませんが、あなたは自分のしたことの事の重さを理解すべきです。その為にもその罪は償ってもらいます。
生徒会長さん、それには異論ありませんね。」
「償わせるって何をするつもり。」
「俺はただの生徒ですよ。それに俺は何をするにしてもやりすぎます。
個人的にはこの事を録音し、学校内に広めて生徒の皆に裁かせることもできますが、それじゃ、きっときららさんがが後々心に傷を残す。だから後は先生に任せます。
そうする理由もそこで話してください。あなたの心の重みもね。きららさん。いいですね。」
そういうと勇騎は最後にそのガンを飛ばし、興奮した紅葉に釘を刺すと、それで手打ちと言わんばかりに、急に気を抜いた。
「それでいいの。こんなんで終わりなの。」
「始まった事を終わらせる。それだけです。まぁ、それなりに楽しめましたしね。」
「……やっぱりあんたって嫌い。」
「そうでしょうね。」
まだ話したいことがあると、きららに紅葉の森川への引き渡しを任せた。