子供の世界7
警察署 駐輪場
「で何ですかこれは、」
カチンと爆弾の首輪と首の間のわずかな隙間にステンレスの鎖を繋ぐと、
もう片方をバイクに引っ掛け、麗華はバイクに跨ろうする。
「残念だけど私が載せるのは女の子だけ。野郎は乗せられない。」
「嘘でしょ、ね、流石に冗談ですよね。」
「ここから4キロ、この時間ならほとんど人通りもない。走りやすいから、自慢の筋肉見せてみなさい、ちなみに無理やり外そうとするとその首輪爆発するから。
爆発しそうなったら、両手でガードしなさい。汚い血が私のバイクにつきでもしたら大変だから、」
「ちょっと、あの麗華さん」
麗華は勇騎の声をかき消すようにエンジンをふかす、フルスロットルにする気満々だ。
「あの、すみません、麗華様、これはマジでシャレになりませんって!」
勇騎のいう事を聞かずに、本当に麗華は走り出した。
「お帰り、で、どうしたの人食い虎にでも襲われたの」
「よく分かったわね。亡者喰らいの白虎の妖に襲われましたわ。」
「あの虎、前も退治してなかったけ、それにしても今回はひどいやられ様、」
「それとこの怪我は関係ないわ、この馬鹿が馬鹿力で引っ張るものだから私の愛馬が傷ついて私もこの様よ。」
「残念ですけど、謝りませんから、やっていいことと悪いことがあります。いくら何でもやりすぎです。もう一回、その感情的な性格をへし折るように、説教してほしいですか」
勇騎は頭から血を流し、服はボロボロだ。だが、目は冷酷で声も落ち着いている。
「麗華、」
「違いますわ!頭のあれは虎にかまれたんですわ。私のせいじゃありません!」
「つまりはそれ以外は麗華のせいだと、それにしても遅かったね。」
「説教していましたら1時間ほど、麗華さんの男性に対する差別意識がいかに不合理で、あなたをそうさせた人間と同じことをしているという事、そして、それに縛られ生み出された感情的なその性格がいかに歪んでいるかをね。」
「で、納得した?するわけないでしょ。」
「少なくとも、感情以外、何も反論できなくはしてあげました。
最後は俺に感情でものを言っても通用しないという事も納得してもらいました。」
「……それはお見事、麗華に勝つなんて」
「私は負けては、」
「まだ言いますか、いいですよ。俺は夜が明けるまでとは言わず、明日の日が沈むまで、もう一度文明人らしく、話し合いをしましょう。俺は本気ですよ。
まずは自己を受け入れていただきます。あなたが受けた傷に向き合うのはそれからです。
救ってあげますよ。嫌味でも何でもなく、俺はあなたにも幸せになっていただきたい。今の俺に関わった以上その義務があります。そなたの憎悪も怒りも全部俺が引き受けます。」
瞬きせずに、麗華をまっすぐ見つめるその姿に本気で言っていることは理解できた。
その勇騎の圧に麗華は押され、おびえる様に捨て台詞を言って家からいなくなった。
「麗華さん、目赤くて、顔晴れてたけど、泣かせたの」
「直接本人に手を出さなかっただけマシだと思ってください。」
「まぁやりすぎなのは分かるけど、麗華は、極度の男嫌いになるだけの理由があるの」
「だからって性別だけで何をしていいという事にはならないでしょ。
人を傷つけても何とも思わない、歪んでいます。あの人いつか人を殺しますよ」
「……」
ふらつきながら歩く、勇騎に、きららは肩を貸し、座らせる。
「とりあえず、お疲れ様。嫌でしょうけど、大人しくしてて、」
そういうと、きららは手際よく救急箱を持ってくる。自分でするという勇騎を押し切り、きららは綺麗に傷口を消毒し、絆創膏を貼っていく。
「ズボン切るね。動かないで、」
勇騎は恥ずかしそうにしながら、きららに目を合わせず話しかける。
「慣れてるんですね。」
「烈火もよく怪我はするから、嫌でもね。
烈火もあなたと同じ、素直に治療させてくれない。
かすり傷だ、大したことないって北風と太陽。やらせてほしいってお願いすると素直に聞く。でしょ」
「……すみません。」
「それにしても、普段やたらからんでくるのにこういう時は大人しい、シチュエーション的にはこういう時にこそ、口説く物じゃないの?
弱みを見せない男になんか普通惚れないわよ。それは頼りになるかもしれないけど、必要とされてないってことでしょ。可愛げのないことで、」
「……俺もまだまだですね。敵いません。今日のきららさんは凄く大人に見えます。」
「勇騎には言いたいこともいっぱいあったし、好きじゃない所もたくさんあるけど、そうじゃない所もある。結果はどうあれ、こうして話すもの今日が最後でしょ。そう思うとすっとイライラも消えたっていうか、これでよし」
きららは最後にペチンとおでこを叩き、笑った。それがなによりの薬だ、
「明日の登校が最後、いいわね。」
「結果は決まっています。俺ときららさんの共同作業ですよ。」
「……私はこれでもトケンのメンバー。烈火や灯がいなくてこれぐらい解決できるわ。」
「早々解決した暁には膝枕という約束も、」
「してないから」
「……ですね。」
「私じゃ、麗華を説得できない。でも、烈火が戻ってきたら、麗華を説得してもらう。」
「SCP保管管理センター。どこかの島にあるらしいけど、烈火さんでも場所も知らない、でしょ。何でも色んな化け物がいるとか」
「それでも何とかする。だから諦めちゃダメ。」
「ありがとうございます。」