子供の世界6
「きららがあんなに落ち込んでいるのに、事の当事者は知らん顔?」
話があるという二人を残し、麗華の取り巻きの送迎の元、きららは家路についた
「あぁいう時、なんていえばいいか分かりません。」
「意外にセンチメンタルね。」
「俺が何を言っても、彼女の心には届かないという意味です。正解がない、つまりは沈黙が答えです。」
「冷たいわね。無駄だと分かっていれば努力すらしない。彼女に好意があったんじゃないの?だとすれば0だと信じていてもなにかいうべきじゃないの?」
「好意?」
「あのリビング、監視カメラがついているの、あなたのちょっかいも映ってるわ。」
「ずっと覗いていたんですか?」
「そうしていれば、こうなる前に烈火がいなくなった時点であなたの身柄を確保するわ。
事ここに至りて、ということ。」
「手際のいい事で、どうしたら俺は信じてもらえるんですかね。」
「監視カメラは別にあなた様じゃないわ。烈火のことはそれなりには信用している。
でも、もしか何かあればそれは私の怠慢。私に信頼という名の逃げ道はないわ。」
「厳しいことですね。」
「で、あなたは終わったにも拘らず、そんな紙を見て何をしているの?
きららが絞り込んだ犯人に対して不満でも?」
麗華は勇騎から紙を奪い取るとパイプ椅子に斜めに座る。
「いいえ、残念ながら今はまだ素人の俺がどうこう言うところではありません。」
「あの10人以外に、有力だと思う犯人がいると?」
そういうと勇騎は携帯の画像を麗華に見せる。
「証拠は何も、目も、言葉も、何もかも矛盾も不自然もない。
でも、俺が突然話しかけて警戒しない方がどうかしています。
あえて言えば、の違和感は、俺の事を知っているかのようでした。
そして俺との会話を楽しんでいるかのようでした。すべてを知ったうえでゲームのように」
「……つまりは同類だと」
「距離という点では、ですか」
「どういう意味?」
「俺と烈火さんは違います、それは思考回路もタイプも、」
「当たり前でしょ」
「烈火さん、本気になると口数が多くなるし、頭に血が上って、熱血漢になるでしょ。
それに誰か守るものがあるときに強くなるタイプでしょ。」
「それが烈火の最大の欠点よ」
「言うなれば文字通り火のような人です。でも俺は逆、本気になる程に冷たく、思考から感情を排除する。それは全ての思考を目的の為に回しているから、余裕をなくして只々、目の前の問題を解決する方法を追及する。
その為に多少の犠牲を伴わない所も同じだと思います。
俺にとっては目的達成が至上の命題だから、烈火さんにとってはそれだけの覚悟があるから。似ていて違う。でも共通しているのは思考や行動が、常識から外れているという事。
それが距離感です。人の平均値、共通の価値観。感性の重心点。そこから遠いという事においては、僕も烈火さんも、そしてこの人も同じだという事です。」
「勘とは経験に基づく無意識の思考よ。いいでしょう。こちらで調べるわ。」
「……あ、ありがとうございます。」
「私が協力することが意外?そうね、理由を言えば、今回の件に関係なくても、あなたのいう距離感が同じ人間なら、注意すべき対象。それにもしかしたらあなたたちと同じ、裏世界にゆかりのある人間とも限らない。
期待しているわよ、自称人間観察が趣味な、自己陶酔男の当てにならない勘を、」
「そんなこと俺言ってないでしょ」
「小学校の卒業アルバム、調べてないとでも思った?」
「本人も忘れているようなことを」
「黒歴史って言うの、そういうのを、」
「見ました、シャイニングフィンガーが出てました。素晴らしいです。」
「?何それ、さ、行くわよ。」
「浅いって知識って、嫌ですね。ちなみに行くってどこに?」
「送るに決まってるでしょ。あなたまだ家に入れないんですってね。
よっぽど嫌われてるのね。まぁ、当然は当然ね」
麗華は部屋の隅においていたヘルメットのバイザー部分を足にかけると器用に蹴り上げ手に取る。
「ヘルメット、という事はバイクですか」
「なにバイク好きなの?」
「女の人に合法的に抱き着けます。いいですね。一回やってみたかったんです。それもこんな美人さんの後ろに乗れるなんて、最高です!」
いつもよりもふざけ度が低いように感じる勇騎の発言。本当にそうしたいように聞こえる。
「そうそれはよかった。」