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子供の世界3

土曜日早朝、

きららは床に就く前に、水分補給をしようとリビングに降りてくると、朝早くから、不協和音が響き渡る。

「漫画を読みながら、ゲームをしながら映画を1.5倍速で再生する。

あんたは聖徳太子かっての、何飲んでるの?またカルピス」

「愛のスコール」

「……いいわね、暇で、こっちは徹夜で犯人探しをしてるってのに、」

「それはそれでやります。ただそれは月曜日からです。

休みの日は趣味の日です。時間を有効活用しないととてもじゃないけど追いつきません。」

「それで将来ためになるのとは言わないけれど」

「ためになりますよ。古典じゃないエンターテイメントくだらないと思っている人は最初から何も得る事はできません。が僕はそうじゃありません。

漫画はこの国で最も多くの人を共感させ、心を動かす書籍です。

映画はこの世で最も多くの人が協力した、現代の技術によって成立した夢の表現方法です。

ゲームは最も進んだ感性で作られた追体験できる貴重な媒体です。

いずれもその目新しさから、それを知らない人たちには嫌厭されていますがそれは愚かなことです、自分が幼少期に触れたものが最も優れていると、それより新しいものを受け入れられないのではそれ以上成長はありません。」

「ご高説ね、眠気に拍車がかかって来たわ。」

「ゲームに関しては20年前から子供の優秀なベビーシッターであるとともに母親の体のいい悪い役でした。今もなお、それは変わっていないというのは面白いですね。

いずれもこれらの大衆娯楽メディアは感性の最前線であり、現代の芸術作品です。

俺の価値観思考をアップデートするのにこれほど最適なものはありません。

より多くの人に、より安価に、最高の物を、それらを思考に置いた、文化、芸術です。

今が見ているこの映画何人の人間がかかわっていると思いますか、いくらお金がかかっていると思いますか、個ではなし得ない領域の芸術です。

一流の感性を持った一流の脚本家が最高のシナリオを何度も書き直し、一流のスタッフが各々の最高技術とプライド以て作った。

これらのメディアは決して立ち止まらない、いずれも20年前よりも確かに面白くなっている、これほど最適なものはないでしょう。」

スイッチの入った勇騎の自己の価値観の陶酔に飽きたきららは、お茶を飲むと、目線も合わせず話し続ける勇騎を無視し自分の部屋に戻っていった。


「さてっと、起きるのは夕方、それまでに戻ってきますか」

8時を過ぎたころ、機械に悪いという知識のない勇騎は各々の電源を落とすのではなく、居間のブレイカーを落とし、身支度を整え、家を出て、行く当てもなく記憶の根拠となる物を捜し、かつての記憶にある範囲を歩き回る。

予想以上に変わらない町並みで記憶ははっきりしているだが、目的は昔の記憶を頼りに街並みを見て回り郷愁に誘われる事ではなく、なぜ今自分が『今』にいるかを思い出す事。

そこの記憶だけが抜け落ちている。だから、それを思い出せるものでもあれば、と歩き続けるがほとんど記憶にない住宅街にまで足を運んだ頃、日は傾き始めた。

「さてと、」

今日も何も思い出せなかった。帰ろう、そう思い振り返り、夕焼けに照らされる十字路、そこで手を繋ぐ母親と娘を見た瞬間、それは聞こえた。

『勝って嬉しいはないちもんめ 負けて悔しいはないちもんめ あの子が欲しい あの子じゃわからん 相談しましょ そうしましょ。』

声なき声、頭に響くその童謡、それは記憶の声。勇騎はそのすれ違う親子に声をかけようとした瞬間、視界が歪み、めまいに襲われる。勇騎は思わずその場に座り込む。

体が動かない。吐きそうになり、体がいう事を聞かず、ただただふさぎ込む事しかできない。歪んだ視界で黒い何かが自分にまとわりつくのを感じる、夕焼けが歪み、太陽が下に伸び、黒く変わった太陽が黒い雫を垂らし、勇騎の所まで流れてくる。黒いの液は地面を崩し、勇騎を飲み視界を奪う、そこで、勇騎は意識を取り戻し、振り返るが辺りは夕闇に包まれ、先ほどの親子は既にいない。

勇騎は恐怖から息を荒らげ、呼吸を整えながら頭を整理する。

体の自由は効く、何も異変はない。夕闇の中、消えていった親子の後を追おうとも考えるが、あの親子が実際に見たとも限らない。

「俺はあの子を知っている、違う、すれ違う時に俺を見た、あの人は俺を知っている。それに俺が知っているのはあの子の母親だ。

夕焼け、十字路、童謡、女の子。

断片的な記憶、というより感覚だ。あの時強い怒りを感じ俺は何かを選んだ。

何か恐ろしいものに啖呵を切って……」

ダメだ確信がない。記憶と憶測が混じりそうになる。

勇騎は暫く辺りをうろつくが、当然家を覗きまわるわけにはいかず、早々に諦め帰路につき、家に一番近い公衆電話からきららに電話をかける。

「あ、もしもし、きらら起きてます。そのすみませんけど、迎えに来てもらえますか。……どこにいるってそりゃもちろん家の前に……は、なんで警察署に、」



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