子供の世界1
8日後 放課後
呪いのお守りを手にし、8日。
初めてこの事態は進展した、というよりもボロが出たというべきか、
より頻度良く、より過激に勇騎の所有物に襲い掛かる呪いの効力。
などではなく、呪いにかこつけた嫌がらせの現場を勇騎は行動の偽装により意図も容易く抑える事が出来た。
過激になる程警戒心は薄くなり、二日目であれば手を出すはずのない撒き餌に、彼らは勇騎の警戒心のなさを馬鹿にしながら、その針にあっさりとかかってしまった。
教室では高らかに笑い声をあげ、勇騎の教科書に火を付け笑いながら投げながら、
本当に忘れていた財布からお金を抜き取っている。
罪悪感を失った他への加害行動による愉悦の表情を見せる彼らの前に突然、その対象者である勇騎が現れたのだ。教室にいた4人は一瞬で凍り付いた。
「もし、俺の持ち物に何かがあれば俺はお前を疑う。
でも、もし、呪いの噂があれば俺はお前よりも呪いを疑う。
本当にそう思ったのか?馬鹿にも限度があるだろう、」
そういうと勇騎は武士を睨みつけるその瞳は前回とは異質の殺意が含まれ、その経験の経験のない状況に、思わず、武士は手にしたタバコを床に落とした。
「その上で、自分自身では手を下さない。なのにお前はこの場にいる。
仲間を信用していなからな。自分の目で確かめないといけない、それに自分のその小さな支配力を再確認するためにも、大変だな弱者は、お前の父親にそっくりだな。」
「てめぇ!なめっ」
言葉を最後まで発する前に勇騎の手の平が顔面をとらえそのまま武士は後ろの壁のロッカーまで吹き飛ばされる。それが拳であれば間違いなく、骨が砕かれていた。
いつだって安全圏にいた武士にとって、この殺意も、この状況も初めての経験だ。
今までの人生、動物園の柵の外から石を投げ、動物同士をけしかけ、安全な高みの檻の外から、見下すようにして生きていた。
何をしても許される、俺は有能で特別だ。誰も俺には逆らえない。
それに俺には才能がある、見た目もいいし、喧嘩も強い、警察だって学校だって俺が何かをしても俺だけは助かる。それが社会の当り前で、当然の事このクズどもとは違う。
この間の出来事は一種の事故のようなものだ、と。
だが、本気の勇騎の怒りに触れ、武士は体で前回の事が事故ではないと理解した。
檻を外され、この獣の前に突き落とされたかのような感覚。
アウトオブルール、こいつには通用しない、今までの全てが、武器を、盾を、それらを失い、自らが井の中の蛙だと理解させられた。
「お前のおやじ鼻、曲がってるだろ、俺をやったのが俺だ。お前の親父の肩壊れているだろ、あれも俺だ。お前の親父は俺のカバンを捨てた。だからその罰だ。
お前も大変だな、ずっとそんな親父の背中ばかり見てきた、お前のおやじはなそうなるようになったんじゃない、そうなるしかなかったんだ、弱者としてそうするしかなかった。」
「何の話だ。なんでお前が父さんを知ってるんだよ!ふざけんな、こんなことしてタダで済むと思ってんのか?おい、こっちは今の取ってんだよ、これでお前は退学だ。」
「お前らのやったことは揉み消す、か
人の教科書を、この間は体操服、その前は靴。20年前のいじめそのものだな。
その上今度は人の財布にまで迷いなく手を付けるとは、
いいか、俺は俺に直接喧嘩を吹っかけてくるなら、多人数だろうが武器を使おうが問題ない。だが人の金で買ったものに手を出すとはどういう了見だ。あ?」
勇騎は髪を掴み、問答無用で武士を立ち上がらせ、ガンを飛ばす。
なんて力だ、ただ髪を掴まれているだけなのに、伝わるその力が今までに経験がない。
ただなす術なく、勇騎の行動に従わされるしかない。
そして、その勇騎も今日は死なないようと言う程度にしか加減も遠慮無する気はない。
靴やかばんは、烈火に勝手もらったものだ。もちろんそれも申し訳ない気持ちはある、
が、教科書は健侍とゆかりが、出させてくれと買ってくれたものだ、それに手を出した。
もちろん、そんなものを釣りに使う事にも問題があるが、ここまでの事態は想定していなかった。その自分自身の怒りも加わり、殺意は武士への仕置きの域を超えた。
武士と同様、今まで思うが儘に振る舞ってきた勇騎の、怖いものをしらない『ガキ』の、今後のことなど天秤にかける事も、損得を勘定することもしない行動。
勇騎は完璧ではない。大人でもない。それを理解し、それを改善しようともせず受け入れた自制のない感情の行動は、最悪は生み出せど、最善の結末などありえない。
勇騎は、武士を投げ捨てると、最短ルートで友達の携帯を奪うと、力の限りを込めてへし曲げ壊した。曲がるはずのないスマートフォンの金属製のフレームを素手でへし曲げ、した。完全に化物だ。そして続けざまに次々に全員の携帯を奪い。
教室の鍵を閉め、悠然と一か所以外のカーテンも閉め切った。
カーテンを閉めている間、時間は十分あった。だが奪われた携帯の事もあり誰も教室から逃げられなかった。
「訴えるなら訴えろよ。弱者はそうやって身を守る。法を盾に権力を盾に、ほら、咥えろ、顔に傷がつく前に写真撮るから、いたぶられるの好きだろ、はいを傷つけるのが趣味なマゾ野郎だからな」
そう言いながら、動けない武士の胸ポケットからライターを奪うと、制服を脱がせ、奪ったライターのオイルを垂らし、集めた携帯を包むと制服に火を付け、唯一開けられた窓から外に放り投げた。
「まぁバラせば本気でボコる、お前の親父の比じゃねえぞ。歯は何本残してほしいその分肋骨をへし折る。ろっ骨を蔑ろにするなよ、呼吸の時に痛いぞ。
ただ、歯よりは目立たないし、俺個人としてはお勧めだな。」
勇騎は手を伸ばし、奪ったタバコに火を付け、咥えさせ、きららに借りた、SIMの入っていない携帯で撮影する。そして数枚の写真を撮ると、
『ごめんなさい、』と懇願するまで殴り続け、勇騎の恐ろしさを心の髄にまで刻まれた。
「親父に言いつけろよ。ちゃんとな、そうすれば俺は遠慮なく、家に火を付けられる。」
そう言い残すと勇騎はカメラで武士の学生証を写真にとる。
「逃げられると思うなよ。救われる道は一つだけ。二度と俺に関わらず、俺の目の前で、このおしゃぶりを加えないことだ。これが最後の警告だ。いいか、殺すぞ。」
殺す、その言葉の重さを彼らは理解した。
こいつなら本当にやる、イカれている。自分たちとは何もかもが違う。
現代社会、人は良くも悪くも法に縛られ、常識に従い生きる。
だが、目の前にいる「ソレ」は、そういう価値観では生きていない。
例え何を盾に使用が、何を掲げようが、目の前にいるこいつだけは腕力で殺せる。
自分はその一線を越えた暴力を携えていることを理解している。
人を殺せば捕まる、人生が終わる、そんな事は分かっている、だが事実として殺せる。
その事実を理解し、それを平然とやってのけられるのだ。
何を講じようが関係ない、警察に言おうが教師に言いつけようが、事を受け止め、集団で抑え込むよりも前に行動に移せる。それどころか、数人であればその制止も振りほどき苦なく殺すという事を実行し完結できる。
そういう化物だ。
関わったことを後悔しながら、『はい』と強制された返答をすると、
それまでの事はなかったかのように冷たい笑顔で、体の怪我を気にする、勇騎にただただ従うしかなった、本当の暴力。それを刻まれた。
「あぁ、それから教科書、変えてもらうから8冊だから一人2冊ずつ、安いものだろ、皆金持ちの子供なんだからさ、」




