カノジョの独白
痴漢にあった私を助けてくれ彼に私は少なからず、好意を抱いていた。
無口で、いつも斜に構えていて、誰にでも噛み付く反抗期真っ盛りの一匹狼それが彼。
私を助けてくれた時も、ただあのおっさんが俺の正義に反するから、恩に感じると迷惑だ。そう言う捻じ曲がった愛情を見せるタイプ
だけど気になりだしてからは彼のいい面も見えてきた。
口も悪く、暴力的で、攻撃的、相手が何であろうと絶対に信念を曲げない。
周りの迷惑も顧みず、周りの空気も読まず。
だけど、間違っていることは絶対にしない。
彼がいる事で上級生が大人しくなった。彼がいる事で学校のいじめもなくなっていた。
子供や動物にも優しくて、いつも生傷絶えない人。
そんな彼に積極的に関わっていくようになっていた。
周りからは変な目で見られていたと思う。
大人しい内気な優等生が、なんであんなヤンキーに、って
付き合う、だとか、好き、だとか、そういう事を口に出したことはなかったけれど、
彼はだんだんと私のおせっかいを受け入れてくれていた。
ちょうどいい関係、そんな日々が続く中、私はそれを先に進めたいと思った。
言葉が、意志が欲しいと思った。
そんな彼に対する最悪な記憶はバレンタインデーの前日の事だ。
人生初の手作りチョコ、これでいいのか、何日も前から必死に考えていた、
形や包装、なんて言って渡そうって人生で初めて夜も眠れなかった。
でもそんなバレンタインデーの前日の帰り道、コンビニの前で彼はこう言った
『形を変えただけで手作りってどういう心境なんだろうね、って』
私の計画はその瞬間全てがオジャン。バレンタインデーとか嫌い?
と尋ねると、彼はこう言った、いいんじゃないの、物は売れるし、やってる方は楽しいんだろう、貰う方もうれしいんだから、
それで貰ったらうれしい?と聞くと、彼はこう答えた、お返しとかそういうのめんどくさい。迷惑だ、って。
あげる側の気持ちも、貰う側の気持ちも分かっていてのその発言。
その時確信した、痴漢から助けてくれた時の恩に感じると迷惑だ。
その言葉に一切の嘘はなかった。そう思うと私は感情を抑えられなくなった。
どうしてそんな事を言うのと、知らないはずの彼に怒るのは不条理だ。そう思うかもしれない。でも、私の怒りは間違えていなかった。
後から分かった事だが、彼は私が手作りチョコを準備していたことを確信していた。
でもその上で、こういう事を言うと私がどういう反応をするのだろう。
それを想像し、答え合わせをしたくしょうがなくなっていた。
それを確かめるための発言。事実。私は彼の思うままに反応し、思うままの言葉を口にした。それを感じながら顔には出さないが彼は心の中で笑っていた。ほら、想定通り、って
ただ、彼が予想外だったのは、それで私が涙を流し、本気で彼にビンタしたことだった。
終わった、私の人生初のバレンタインデーは、
でも翌日、彼はこう言って現れた。海外ではバレンタインデーで男性から女性に花を贈ると、好きです。僕と付き合ってください。今まで見た事ない大人びた真摯な態度で
どの面下げて現れた。どういう心境で現れた。
予想外の反応をした私に彼は惹かれた。
真面目に殴られた翌日に人前で堂々と告白しにやって来た。
その後も、言われてみたい言葉を繋げて、情熱的に私に迫ってきた。
昨日の事を忘れさせてくれるように、心地よく、心に刺さる言葉を
でも、だから、だからこそ、私は断った。
だってそうする事は私が付き合うという答えは、彼の思惑通りなのだから、
好きになってたまるか、私は、もう一度彼の頬を叩いた。
そして、こう言った。
あんたなんか一生一人でいればいい。
人の気持ちはおもちゃじゃない!
あなたを振ったことを後悔なんてしない。
見てなさい、あんたの何百倍もいい男を見つけてやるんだから。
フラれた彼は『そうか』と笑った。
拍手喝采の教室で、冷やかしとヤジが飛び交う中、私は堂々と教室を後にした。
その日から私は変わった。
私は誰かのための物じゃない、私は私の為に、人生を楽しむ。
灰色だった私の人生は大きく変わった。
それから8年。結婚した
3人の男と付き合い、いい事も悪いことも経験し、私は人生の満足感を得る事が出来た
お互いに尊敬できるパートナー、仕事もプライベートも充実している。
ただ、一つだけ皮肉なことが、その夫が、行方不明になったその彼の弟、だという事。
そして私の夫は自分の兄がそうして私に迫ったことも、私たちの関係も知らない。
そして何より、夫を愛していることは揺るぎない事実だけども、
夫の顔にあの人を感じ、私が今でも彼に惹かれていることも知らない。




