望んだもの ――勇者と魔王と死にかけの姫――
私は姫だ。
死にかけの。
私の体がここで朽ち果てたとしても、魂は永遠に生き、目の前の男を呪うだろう。
私の腹を貫いたこの男を。
かつて愛したこの男を。
「貴様……誰に、何をしたか分かっ……ているのか?」
手に握られている大剣は、かつて私が授けた物だ。
「姫様には死んでいただきます。」
かつて優しい笑顔を見せていた顔には何も写さず、目や口がそこに存在するのみ。
かつて白かったこのドレスも、今や真紅に染まる。
「姫は死なん。」
隣からは私の醜い心を洗うような、心地よい声。
「貴様に今ここで殺され命を失おうと、俺に助けられ天寿を全うしようと、姫の魂は生き続ける。」
こいつ、助けてくれるのか?
「黙れ!!悪魔!」
消えた表情に強い憎しみが現れた。
「悪魔ではない。魔王だ、勇者よ。」
そうだ、こいつは私から姫という日常をさらい、心を奪った魔王だ。
こいつも憎むべき相手だろうが、今は力無くこいつの体にすがってしまっている。
「直すなら……直せ、悪魔。」
ふと笑った表情が、私の心に火を灯す。
「姫!そのような者を信用しないで下さい!!奴の手に落ちるなら、他人に奪われるくらいなら、オレは!!」
まだあいつには私への思いがあったようだな。
もう私には必要ないが。
「第一、国の平和はどうなるんです?貴女の望んだ平和を貴女が壊してどうするんですか!?」
「私は、初めから……国の平和など望まぬ。ただただ己の平和を……望んでいた、愚か者だ。」
「そんな……姫様は……」
突然姫になれと言われ、そこまで心が育つはずもない。
「だが、そこまで言うのなら……人と魔人の……架け橋にならんことも無い。」
ドレスが染まる。
もう手遅れかもな。
目がかすむ。
きっと、私の朽ち果てそうな姿を楽しんでいるに違いない。
この悪魔は。
「姫は勇者を捨て魔王を選んだ。哀れな勇者よ、俺は姫を貰う。」
口から魔力が注がれる。
優しく、暖かく、私の中をかけ巡り、裂けた腹にたどり着くと急激に熱くなる。
癒されているのが分かる。
「俺が平和を与えよう。」
私は意識を手放した。
ありがとうございました。
暗いですねー。
暗い物が増えてきましたねー。
明るい物は短編にするのは難しいし、連載を書くのは時間が無いです。
悔しいです。
学生のみなさん!
就職したら時間がないですよ!
なんて叫んでみました。
では、またいつか。