【70】
二人の女のバトルは引き分けみたい。互いに肩を大きく上下させて息を整えている。実力は同じくらいだろう。
そこへ未来のイケメン騎士ライトいや期待の新人ラファエルが通りかかった。長身で手足も長く鍛えられた肉体美。茶髪に銀色の瞳は正に老若男女が振り返る美しさ。洋子の瞳には後光が射したように見えた。
>>気のせいかな?
「二人共ヘトヘトだけど大丈夫かい?」
立場上、ラズベリーは体裁に入った。
「この二人は実技試合と称して喧嘩してたの。貴方がパーティのリーダーよね?ヤルなら内輪で行って下さい。他の方々にご迷惑です」
前髪をサラッとかき上げて、
「ラズベリー、この度は誠に申し訳ない。大変失礼致しました」
喧嘩していた二人はうっとり仰ぎ見ている。
「僕に免じてお許し下さい。おや?貴女は…」
『ただの通りすがりです』
………!!!
洋子はラズベリーに結界を施した。
「やはり貴女は並みの方ではない。何故?」
二人には結界を描けなかった事を指しているのだ。
『この二人は貴方の式だからよ?ラファエル、貴方は何者?』
「黙って僕について来て欲しい」
『何処へ?訳を聞かない内はお断りよ?』
「それでは明晩までに天界までお越し下さい。ミカエルが死にます」
ラファエルは忽然と姿を消した。
空を見上げると、日の光を浴びて白銀に輝くシヴァが滑降してくる。
[ミカエルとは天界の王だ]
シヴァの言葉に考え込む洋子。
>>もし天界が荒れているなら、空は翳り雲で覆われるはず。
《紫雲、天界での不穏な空気はある?》
[何も聞かぬ。では天界に行こうか?]
《ええっ!?安易過ぎるわ》
[洋子なら大丈夫だろう]
と、シヴァが左肩に乗った。
トイと合流してから、魔力を浪費せず異空間に渡れるので、秘鏡の池から天界へ行った。
到着したのは綺麗な泉の中だった。
周りは泡立ちの良いボディソープの泡のような雲がふわりふわりと浮いている。青空が鮮やかなリボンの切れ端みたいに見えた。
泉の淵で一人の男性が跪いた。
「五色を纏う黒魔女洋子様、お待ちしておりました。ミカエル様の使者マルコシアスと申します」
神殿へ向かい歩いていると、出迎える人達は皆、平伏すような一礼をする。背中には小さな翼が生えていた。
見事な細工を施した門をくぐると、触れる前に自動ドアのように扉が開いていく。
奥の扉の前にいるのはラファエルだ。
「ようこそお越し下さいました」
『貴方は…』
「ミカエル様をどうぞお助け下さい。私共が声をかけても届かないのです。明晩までに起きられないとお亡くなりになってしまいますっ!どうか…」
両手を組み、震える声で懇願するラファエルは、地上とは別人のようだった。




