【69】
「恵土の月」は実りの月だ。洋子は作物の収穫や冬に耐え得る食料備蓄を主に毎日を過ごしている。
トイは時々、ウェンディ国のギルドで個人講師を務めている。対象者は初めて遠征する人達かと思いきや、BやCランクの人達の剣の相手だという。剣を手加減して抑えられる講師は稀らしい。
トイのランクはSSだが、実力はSSSだと囁かれているのを耳にした事がある。国から強制されない限り昇格試験は受けないという。
以前、受付嬢のラズベリーは高ランクで時間に余裕がある人材は大半が依頼受注中だと嘆いていた。ギルドは報酬額が高く出せない事情もあり、講師確保に必死だと教えてくれた。
「あらぁ〜ヨーコ!久しぶりねぇ」
ヒマワリ美容院のサザンさんだ。左肩にはチョコンと座った有羽がいる。
「ヨーコの和菓子が食べたいわぁ!今から家に寄ってね?」
歩きながら食材を購入していくサザンさんの素早さには完敗だった。
「ヨーコ!昇格試験合格おめでとう!」
自宅で待ち構えていたモーザさんがプレゼントを手渡してくれた。小さな花が描かれた白い瓶だった。
「匂いに敏感な旦那様に退屈させない美肌効果バッチリのボディローションよ。サッパリしっとりスッキリの3種類よ」
横からサザンさんの解説付きだった。瓶を開けると違う種類の花の匂いがした。柑橘系薔薇系菫系と判りやすい。
『ありがとうございます。使わせて頂きますね。モーザさんはどうして薬師を推薦して下さったのですか?』
モーザさんはニヤリと笑って、
「ヨーコの知識は素人じゃない」
洋子は元の世界で薬剤師になる勉強をしていた。離婚を機に勉強は挫折したが、医師の父や看護師の母を助けたい気持ちと、産後や年を重ねていっても継続可能な仕事だと思っていたから。
「ヨーコは治療師より薬師向きだと思ってな?野生ではなく畑で育てられる奴はいない。人の手で育つ植物は少ないんだ」
『そういえば、ウチで育てた薬草もお渡ししていましたね』
「薬師の端くれとしては、良質の薬草だっただけに流せなくてな?」
冒険者以外の職種は経験3年以上か推薦者がいないと、例え実力はあっても職種として選択出来ない。万が一の保障だとモーザさんは笑った。
サザンさんが淹れてくれた緑茶で出来立ての大福を食べた。中に苺みたいな果実を入れたフルーツ大福は大好評だった。
「後ね、私からコレあ、げ、るっ!」
サザンさんが押し付けるように手渡してくれたのは妖しげな色をしたお香だった。紙で包み密封されている。紐に湿気乾燥防止魔法がかけてある厳重さとサザンさんの微笑みがコワい。
「トイと楽しんでね?寝室の足元に置くとムフフフ」
………絶対、置かないし、そんなヘビーな含み笑いするお香は焚かない。
トイを迎えにギルドへ行くとラズベリーが手招きした。
「ヨーコ、観て?あの二人が実技試合と称して喧嘩してるの」
『ふーん。何が原因?』
ラズベリーは女子特有の笑顔で洋子を見た。
「ふっふっふっ。聞きたい?」
『止めとく』
「ヨーコちゃんってば!ノリが悪いわぁ。期待の新人ラファエルを、どちらが堕とすかみたいよ?」
『戦ってどうにかなるのかしらね?』
「冷静過ぎるわっ」




