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境界線の向こう側  作者: 柚子
7/74

【7】

洋子は街中を歩いている。今まではギルドとヤドリギ周辺の露店しか知らないので行ったことがないし依頼の行き先は大抵森や川ばかりだ。

これでは時間に追われる以前と変わらないと気がついた。


最近薬のことを調べていたが薬の材料や作り方は一切書いていない。悪用されないためだろうか?

唯一書いてあったのは効果ある植物だけで、内容も毒消、火傷、虫さされ、打撲ぐらいだった。


以前貰った回復薬はHPやMPは回復させるが、病気や傷そのものを完治はしないとわかったからだ。


【カイル治療院】

初依頼で“露草集め“を発注していたのがここだ。有名な治療師カイルさんが不在にできないため絶えず治療薬の材料をギルドへ依頼しているという。


洋子は治療院の扉を開けた。

『こんにちはー!』

奥のカーテンからは人の気配がする。

「如何なさいました?」

ガウンを着た女性が出てきた。


『薬を調合する道具が欲しいのですが』

「誠に申し訳ございませんが治療師の方以外にはお売りできかねます」

>>ぅわぁー!門前払いだよ。

『わかりました。薬を購入したいのですが?』

>>作れないなら買うしかない。


薬を見せて貰うとショボい。湿布や消毒、包帯や当て布など怪我に対応するものばかり。

『鎮痛剤や風邪薬や抗菌剤はないのですか?』

「カジェ?コーキン?」


奥のカーテンが揺れた。私の前に一人の男性が出てきた。銀髪を一つに結わえており、額に緑色の魔石をはめた装飾品を着けている。

「いらっしゃいませ。リャン、奥で休んでおいで。在庫切れなんだが急ぎかい?」

『いえ。失礼ですがカイルさんですか?私はヨウコ・サトウです』


洋子の名を聞くと目を見開いて、

「依頼受注をいつもありがとう!私がカイルだ。時々顔を出して頂けると依頼前に採取をお願いできるんだが?」


カイルさんは仕事が早く的確だ。

ギルドへ提出するために、カイルさんと私が個人契約を結び証明するため書類を予め用意してあった。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



ギルド“鳳凰の翼”所属

甲:カイル・ホワイ

乙:ヨウコ・サトウ


甲は乙に植物採取や魔石等を個人依頼を発注する


発注回数は各月15回以上である


発注場所は甲の勤務先【カイル治療院】にて行う

乙は依頼品を納付する場所は【カイル治療院】である


報酬は採取難易度によって松竹梅別の金額設定とする

松=1回5000ギル

竹=1回3000ギル

梅=1回2000ギル

別=報酬金額を受注時に決める


依頼で使用する採取袋や瓶等は甲が用意する


甲と乙の契約が有効である証明致します

水流の月 ギルド“鳳凰の翼”

ギルド長 アレックス・メア



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「ヨーコが丁寧に採取していること、乱獲しないこと、知識を得て身につけようとする姿勢。私は気に入っている。よろしく頼む」

『ありがとうございます。勉強させて下さい。よろしくお願いします』


契約書類には不正防止の魔法陣が施されてあった。お互い魔力を流し込み手続きは完了した。



採取時に使用する袋を何種類か貰ったので帰ろうと思った。

ふと本棚に目を向けると数冊ある本は、全て医学書に近いものだとわかる。

洋子が惹かれたのは一番上の段に表紙が見えるよう飾られている黒い本だ。


『カイルさん、あの本を読ませて頂けませんか?』

カイルさんは驚愕した顔を洋子に向けた。

「ヨーコ、あの本がわかるのか?」

>>微かに声が震えている。触れてはいけない本なのかな?

『いえ、呼ばれている気がするんです。無理ですか?』

「いや、構わんさ。ただし自分で取って貰えるかな?」

『ありがとうございます』


洋子は踏み台を借りて手を伸ばした。近づくほど“何か”を感じる。双龍の出会いと似ている。



漆黒の魔法書を手に取った瞬間、表紙が金色に光り鮮明な線を描いて魔法陣が浮き彫りになると、再び銀色に光り、違う魔法陣を重ねてゆく…



『こ、これは?』

戸惑う洋子にカイルさんは真剣な目で、

「Weatherを持つ者が使う魔法陣の本だ。協力な結界により持ち主以外は弾かれるんだ」


洋子は本から顔を上げた。

『私はWeatherを持つ者です。ぜひこの本を譲って下さいませんか?』

「ヨーコが手に取った時からヨーコのものだ。本来の持ち主に戻るだけさ、なぁ?」

『ありがとう』

本を抱きしめたまま深く一礼した。



カイルは一人、帰ってゆく洋子の後ろ姿を見つつ、

「噂の黒髪娘は只者ではないな。この世界には風邪薬だなんて代物、有りはしないのに。まさか五色を纏う黒魔女?」


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