【66】
今まで黙って見守っていたトイが、ルシアを突き飛ばすように引き離してジロリ睨んだ。
「洋子、帰るぞ?」
「ククク…黒狗よ、いずれ洋子はオレが貰う」
「けっ!魔族は兄妹でも婚姻出来るからか?俺の洋子に手を出すな」
「今のところはな?お前と別れるまで待ってやってもいいが?」
「ふんっ!待つ間にくたばっちまえよ?譲る気持ちは全く無いしっ!」
意外と仲良しだと安心する洋子は、ルシアの守護獣ゼウスとハデスと話していた。
〈洋子の眼差しは母君そっくりだ〉
〈髪の質感も母君にそっくりだ〉
「こらっ!洋子に触るなっ触れるな!」
『トイ、ムチャ言わないで』
隣でルシアは笑い、守護獣達は軽蔑の視線を投げた。
ーーーーー
魔界の魔鏡からウェンディ国にある秘鏡の池に移動する。この湖と池は亜空間で結ばれていたが、魔族が魔界へ移動したのを最後に表向きは封印されている。ルシアか洋子以外は渡れないだろう。
秘鏡の池は現在聖地の一つとして崇められており、立ち入り禁止区域になっている。森の隠れ家内にあるので他人が踏み入ることはない。
無事、秘鏡の池まで戻ると、トイはギュッと洋子を抱き寄せた。
「洋子、お帰り。向こう側に行かずココにいるって事は、俺の側で生きてくれるからだよな?」
耳元で囁くトイは真剣だったが、洋子は無意識に俯いた。
『トイの側にいる資格はある?私は魔族の娘よ?』
「バカッ!俺はヨウコと出会うために生まれてきたんだ。そんなこと関係無い」
トイは洋子の右手を掴んだまま左膝を地面に付けた。金色の瞳は強い意志が漲っていた。
「佐藤洋子、どうか我、刀威射狗の伴侶となり共に生きて下さい」
………!!!
「ヨウコを愛してる。結婚しよう」
洋子の瞳には歓びの涙が溢れた。トイは唇で伝う涙を掬う。
「ほら早く?ヨウコ、返事は?」
『………はいっ!』
トイの首に抱き着いた。
『トイ、嬉しっ…』
トイは尻尾を洋子の身体に巻きつけるように密着して顔中にキスをした。
額、眉、目尻、瞼、鼻先、頬、顎…
最後に唇を塞いで熱い口づけを交わした。
『ト、トイィッ、く、苦しっ』
尻尾の巻きつく力が強かったので、激しい抱擁に逆上せそうになった。
「誰が離すかボケッ!結婚の誓いを立てる前に一人で池に飛び込むつもりだったろうが?」
『そ、その予定でした』
「ヨウコは俺の番、俺の嫁、俺の伴侶。わかったな?」
『はい。ねぇトイィ〜暑いよぉ〜苦しいよぉ〜』
「気のせいだってよ。ほらウチに帰るぞ?」
池の揺れる水面がキラキラ輝き、空と陸と海が繋がっている様は、まるで一枚絵のような幻想的な風景だった。いつまでも色褪せることはなく、二人の脳裏に焼きついていた。




