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境界線の向こう側  作者: 柚子
64/74

【62】

実技試験が行われるギルド所有の円形競技場に来た。実技試験の場合は立ち入り禁止だが練習試合の場合は観客席に人が溢れて格好の遊戯となるらしい。


[洋子、どうした?]

『今日は私の実技試験なのに観客席が満席なのは何故?』

「ヨウコの実技試験を見たいとSランク以上の者が殺到したんだよ。俺も含めてな?」

『ぅええぇっ!?トイも?』

「当然だろ。ヨウコの魔法なら見たいし」


アイリスが手招きしている。

「ヨーコ!試験官がお待ちかねよ?」

扉を開けると遠くに立っている人は女性みたい。

「遅いわよ、ヨウコ」

店内の雰囲気そのままで挨拶したのはローザさんだった。ミラー家は水盆を操る魔導師の一族という。両手に抱えているのはレジ横に置いてある見慣れた水盆だった。

「私はギルド鳳凰の翼・専属魔導師ローザンヌ・ミラー」

観客席からは大歓声が沸き上がった。

「これからヨウコ・サトウの昇格試験を行います。方法は私と練習試合をして勝利すること」

再び大歓声がシャワーのように降り注いだ。

『わかりました』

審判は神妙な顔をしたギルド長が務める。


「開始!」


《Weather…》


「大地の恵みよ偉大な水よ、春の春雨を夏の夕立を秋の長雨を冬の吹雪を今ここに!我ローザンヌ・ミラーの元、水盆に表せ。ウォーターハリケーン!」


ローザさんが長々と唱和する間に洋子は雨の種類を思い浮かべて刹那に鍵とした。


霖雨りんう地雨じあめ霧雨きりさめ豪雨ごうう篠突く雨しのつくあめ俄雨にわかあめ驟雨しゅうう凍雨とうう白雨はくう氷雨ひさめ村雨むらさめ怪雨あやしあめ天泣てんきゅう


水盆の魔法を発動させる前に封じたのだ。

この事実に驚き水盆を抱えたまま座り込むローザさん。唖然とするギルド長。観客席からはアチコチ大きな?マークが飛んでいた。


そこに白梟のシヴァが大きな弧を描きながら音も立てずに舞い降りて来た。洋子の左肩に留まった。

[ククク…あんな長ったらしい唱和なんぞしていたら敵は待ってくれんぞ?」


普段、シヴァの声が聞こえるのは数えるほどしかいないが、今はシヴァが皆に言い聞かせるために話しているので、この場にいる全員の耳に届いた。


[儂は博識の白梟。Weatherの魔法を司る黒魔女には誰も手出し無用。もし手出しするようなら儂が相手だと覚悟せよ]

颯爽と現れたのは獣擬態化した刀威(トイ)だ。洋子をサッと背に乗せた。


《転移》


皆は言葉を発することも身動ぎすることも出来ずに見送った。



《五色を纏う黒魔女は白き翼の使者と黒き獣の使者を従えし者也》と、伝記通りだったと後世に渡り語り継がれていくことになる。



「さすがヨウコね、完敗よ」

「皆は展開についてこれなかったようだ。だから見学しても無駄と言ったのにな?実技試験の防御結界魔法を無効にして[転移]出来るとは白梟は末恐ろしいな」

「シヴァはWeatherの魔導書に宿る主よ?伝説は真実なのね。ヨウコのランクは?」

「Zだ」

「Z?初耳だわ」

「私もだ」

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