幕間①
その頃、オズ皇子は…
サンド国に派遣した騎士から報告を受けた。
「一瞬だが魔族の気配を感じた」という。オズは思わず顔をしかめた。心当たりある人物を見出したからだ。
「確か花鳥風月が護衛依頼を受注中だったはずだ。あいつの事だ。何か巻き込まれたな?」
オズは自身の魔導器に宿りし光の使者、サンクチュアリーを喚んだ。
「サンクチュアリー」
[オズデュランダル様、如何なさいましたか?]
「ヨーコは今、何処にいる?」
[異界にいらっしゃいます]
「そうか。報告感謝する」
洋子は天界か魔界にいるらしい。天界ならばサンクチュアリーは嬉々と述べた筈だ。魔界だからこそ先に招待出来なかったことを悔やんでいるのだろう。
「アリー、光の使者らしい考えだな。黒魔女に助太刀は不要だが、城に滞在する日程が遅れるかもしれん。ったく、覚えてろよ?ちょっとアマテラスの様子を見て来ようか?」
一見、口は悪く素っ気ない態度だが、オズは心からアマテラスを愛しているのだ。
「ヨーコが魔界にぃ!?」
可愛いアマテラスの雄叫びが城中に響いた。
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その頃、シヴァは…
ウォーター国への遠征依頼が決まってから、洋子は胸騒ぎがするという。特に親しい者の危機ならば、もっと緊迫した予知を視るのだが、今回は違うようだ。
《シヴァ、ルシアと魔界へ行くわ。私の身代わりをお願い!》
[承知。気をつけろよ?]
魔界か。久しく訪れていない。ルシアは現魔王の唯一の子だ。血族と力を主とする魔族の思考は変わっていない。洋子がヤラれる事は杞憂だが、闇魔法が確実に昇華するだろう。
[あっ、一番厄介な奴を忘れてた。“転移”]
護衛依頼は滞りなく進んだが、意気消沈した約1匹がウザい、煩い、鬱陶しい。
しかし、洋子が儂のチョーカーにルシアとのやり取りを一部始終映して報せてくれたので、状況を把握できた。愛しい女の結界に守られて指を咥えて見ていた立場を思うと、敢えてトイには何も言えなかった。
儂でも洋子の魔法陣術は足元にも及ばない。それほど洋子のWeatherの魔法は、精密かつ完璧を極めているのだ。トイの瞬発力でも間に合わないし、抜け出せないのは当然だ。
洋子が戻ると森は生き返ったようになる。
爽やかな風、降り注ぐ日差し、揺らめく熱気、湧き流れる水、そして大地は実り潤う。五色纏う即ち五色を司る者が洋子だと森が改めて教えてくれる。
「シヴァ、これからは俺もヨウコの側にいるからな」
[刀威よ、冷静こそ要だ。大丈夫か?]
「守りたいのはヨウコだけだ」
[ククク…金獅子と黒豹が出てきたな?]
「チッ!ウザい、煩い、鬱陶しい!」
儂の3段階活用で返しやがった!
頻繁に牙を剥き合う“犬猿の仲”ならぬ“狗VS獅子&豹”になるのは時間の問題だな、こりゃ。
シヴァは空から滑降しながら、森の見回りを続けた。




