【5】
洋子は夕食の時間帯から働いた。配膳や給仕を教わりながら動いた。宿泊客が様々な種族の人達がいたがCGと思えば違和感はなかった。
「あれっ!?新顔だな」
牛に似たステーキとサラダみたいな野菜盛り合わせを運んだら、その場で声をかけられた。
『いっ5日間お世話になりますヨウコです』
頭の獣耳に気を取られて返事が詰まった。
>>黒狐の化身みたいな感じでカッコいい。
「ふーん。俺は獣人族のトーイック。皆からはトイって呼ばれてる冒険者だ。次の依頼を受けるまで滞在するからよろしく!」
獣耳に金色の瞳がとても似合っている。周りの人達がトイは国外からの依頼も受けるベテランなんだと教えてくれた。
>>ベテランかぁ。まだ20代に見えるんだけど?年齢は見た目で判断しないほうがいい。
会釈して他のテーブルへ行った。
集中して時間を忘れてしまう。奥で休憩するよう言われると、全身から力が抜けて気怠さを感じた。
休憩で夕食をご馳走になった。パン、鶏に似た肉の香草焼き、クリームシチューよりあっさりしてるスープは、とてもとても美味しかった。
食べることが好きなのであまり好き嫌いはない。この世界での食生活は大丈夫だとホッとしていた。
やがてご主人は奥様と私に休むよう告げた。カウンターでお酒を嗜む人が数人いるだけだった。
奥様にお風呂の使い方を聞いて湯舟に浸かると全身の疲れが解れていった。
キッチンやトイレ同様、家電のスイッチの代わりに魔石があり、手を触れると作動する仕組みだ。それぞれの構造は元の世界と大差はない。
例えば岩や木で出来ているとか湯舟がかなり深いとかシャワーというより滝のように流れてくるとか些細な点が違うだけで用途は同じだから慣れれば問題なさそうだ。
お風呂から出て、部屋のベッドに倒れるように寝転んだ。
息を大きく吸って深呼吸すると、甘い天草の匂いがしてホッと和んだ。
『久しぶりにホールの仕事したよー。疲れたぁー!目を覚ましたら元の世界に戻れたらいいのに』
翌朝、目を開けた。自宅とは違う木製のロッジ風な天井を見て儚い夢だと思った。
一縷の望みはこの世界に沙織や他の人達もいるかもしれないということだった。
無事、宿舎【ヤドリギ】の依頼を完了した。
最後の朝食を味わって食べているところ。そこへ奥様のキャロルが紅茶を手渡してくれた。
「怪我が順調に完治したのもヨーコのおかげよ。本当にありがとう!」
『美味しいご飯が楽しみで、あっという間でした。ホント勉強になりました。ね、キャロル。宿泊5日間お願いします!』
キャロルは金髪に鳶色眼の女性で明るい笑顔が印象的な人だ。この5日間気後れすることなく気疲れすることなく仕事ができた。
評判の宿舎ならば客としてお世話になるのは当然の成り行きだった。
「嬉しいっ!じゃぁ5日間で8000ギルにしちゃう。少し手伝いお願いしてもいい?」
『ぅわぁい!ありがとうございます!手伝いするするー』
ご主人のザンフィルさんはにこにこして私達を見ていた。
早速ギルド鳳凰の翼へ向かった。受付でアイリスさんが手を振る。
『アイリスさ「ヨーコ、さん付は無しで」
『ア、アイリス、依頼完了の手続きをお願い』
アイリスは呼び捨てにすると笑顔でギルドカードを受け取り処理をした。
「無事、初依頼達成おめでとう!ギルドからプレゼントよ。受け取ってね」
小さな手のひらサイズの小瓶だった。
『こ、これは何?』
「やっぱりヨーコは知らないのね?これは回復薬よ。ほら、依頼で薬草依頼あったでしょ?露草は回復薬の材料なの」
『へぇえ~、ありがとう』
オンラインゲームの登場キャラになったみたい。飲むとHPやMPを半分回復してくれるらしい。でもいつ使うんだろ?
ギルは9000ギル引き出して財布にしまい、残り11000ギルはそのまま貯金しておいた。ギルドカードってマジ便利!
アイリスに別れを告げ、久しぶりに買物をしようと賑わうお店を順に見て回った。
洋子はリュックの中にある筆記用具や折り畳みできる鏡やブラシが手元にあってよかったと思った。