【45】
久しぶりにローラさんと紅茶を飲んでいる。
「ヨウコ、雰囲気が変わったのは男ね?いい人を捕まえたみたい」
『ローラさん、もうイジらないで下さいよ?』
「ヨウコが幸せならいいの。マメに顔を出してね」
『はい』
ちなみに沢山お土産を渡した中に、唯一ファイア国で収穫できるカカオで作ったガトーショコラを二人で食べている。
待ち合わせたカイルさんが紅茶を飲みに来た。ローラさんの店は決して喫茶店ではないが一番信頼できる場所なのだ。
「ヨーコ、お帰り」
『サザンさんからお土産を預かりましたよ』
手渡したのは、カイルさん用の石鹸や香油のセットと、下着や部屋着等、日常生活で必要な物ばかり。
「カイルは無頓着だからサザンは心配してるのね、きっと」
ローラさんは紅茶におかわりを注いだ。
『後、必要な薬草があればお渡ししますね』
「ヨーコ、働き過ぎじゃないか?」
カイルさんは洋子を気遣ったのかと思いきや、
「いやいや。ただの寝不足だな?恋人が寝る間も離さないんだよな?」
>>お二人の連携は見事ね。
昨日、ご機嫌斜めだったアマテラスと仲直りをした。ウォーター国の遠征依頼の後、城に滞在して婚儀の儀に参加するよう言われたのを、その場で承諾したのだ。
見た目とは裏腹に人懐っこい妃様が、
「ヨーコが居なくなって寂しいと嘆いたアマテラスを優しく慰めるオズが新鮮だったわ。冷徹仮面だと思っていたから安心したわよ?」
息子に対する御言葉ではないが、クスクス笑い出してしまった。
そこへ、オズ皇子が扉を開けて入って来た。
「ヨーコ、爺が会いたいそうだ」
オズ皇子と一緒に入室した白髪の紳士は、魔導師の正装のローブを身につけている。有名な方だろうと推測できた。
「初めまして、ヨウコ・サトウ。私はトーマの祖父マギー・グラフィカル。この国の専属魔導師です。貴女は優れた術師だとお聞きした。シャイン国の専属魔導師になりませんか?」
『私には荷が重すぎます。森の守護者として生きていく所存です』
まさかの勧誘に迅速丁寧に辞退したが、妃様やアマテラスの残念な表情にチクリと罪悪感を感じた。
「アレを一瞬で感知したのだろう?勿体無いな。貴女のおかげで異界とのズレが修復されつつあるという。惜しいのう?」
『トーマやジャスミンさんと同じ榛色の瞳ですね』
静かな笑い声が心地よく響いた。
「こりゃトーマが太刀打ち出来んわ。アイツは貴女には永遠に勝てんなぁ〜」
『あのっ、マギーさん?』
「これは失礼致しましたな。黒髪娘の噂は真実とは。これからもトーマを鍛えてやって下され」
マギーさんは笑いながら退室した。
「あの爺が笑うなんて久しぶりだったな」と、オズ皇子が苦笑しながら呟いた。
洋子の退室後、アマテラスは寂しげに、
「やっぱりヨーコは専属魔導師になる気持ちはないわね」
「まぁな。森で暮らすのが一番だろう。黒魔女を縛れる者はいない。例えトイでも無理だ」
「そうね。ヨーコは自分より皆を選ぶでしょうから」




