【38】
洋子を自分の内に取り込み、高らかに笑う闇竜は嬉しそうだった。
〈儂の封印が解かれたあの夜。暴走を止めようと妖狐が飛び込んできた。少女はまだ力が解放される前だった。黒狗が少女を庇って息絶えた時、少女の怨みが覆い闇に染まった。もう儂の敵ではない。哀しみに嘆き悲しみを歎くことも無く一撃で黄泉へ送った。儂からの餞のつもりだ。
儂の名は無い。莫大な力、膨大な力故に恐れられ祀られていただけ〉
自嘲気味な声は先程とは違い哀愁を帯びている。
〈儂を恨むか?蔑むか?少女の魂を継ぐ者よ〉
《恨み妬み怨み嫉み…人として当然抱く感情を持てる間は、まだ救いがある。少女は人のまま死ねた。短くも一生を終えた。引導を渡した貴方のおかげ。
闇の心は這うように沿うように纏うもの。誰もが持つ誰もが有する闇の心。私にもある感情で一部であり全部。闇は恐れるものじゃない。ゆらゆら揺られている夢の淵で漂う籠のようなもの。
さぁ、私を見て?触れて?導いて?》
闇竜に流れ込んでくる洋子の心情。
父のように気高く母のように慈悲深い。兄のように冷静沈着で姉のように天真爛漫だ。弟のように度胸があり妹のように愛敬がある。
全て兼ね備えているのに不足していたのは想い人。愛しい人がいるから鬼にも神にもなると微笑むのは天使か悪魔か。
人の心は表裏、人こそ奇異で奇想天外な発想をする不思議そのもの。
〈儂と共に歩むつもりか?〉
《ええ。貴方は玄丞。私を助けて欲しいし、私は貴方を助けたい》
再び高らかに笑う闇竜。
〈良い名だ。気に入ったぞ、佐藤洋子。儂は這うように沿うように貴女の運命に寄り添っていこうぞ?〉
《ありがとう》
本は洋子の右眼に吸い込まれていき消滅した。
[洋子っ!!]
《闇竜と共に。名は玄丞。皆、よろしくね》
紅蓮[褒めるべきか?]
瑠璃[諌めるべきか?]
紫雲[称えるべきか?]
琥珀[呆れるべきか?]
桜翠[諭すべきか?]
五色の龍達の言葉に思わず笑うシヴァと闇竜。
「ヨウコォオオーーー!!」
シヴァは空を仰ぎながら、
[一番煩いのを忘れてたわ]
トイは必死の形相で飛ぶように走って来た。
「ヨウコのバカ。心配させやがって」
洋子は大人しくトイの胸に凭れて訊いた。
『ゴメンなさい。あの長距離の道で匂いを辿ってきたの?』
「ああ!もう逃がさない。絶対側に居るって言っただろ?」
〈げっ!?猪突猛進な黒狗まで出て来た!胡散臭い白梟だけじゃないのか?〉
[ヤるなら今だな]
「本気でシメルぞ]
〈ギャー!!コイツら嫌ぁい!〉
いつもより2トーン低い声で言った。
《な、か、よ、く、し、て、ね、?》
〈[「ーーーーーはい〉]」
異口同音に3声が聞こえた。
「俺を置いて行くなよ〜〜!」
実家でボッチ確定のトーマだった。




