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境界線の向こう側  作者: 柚子
34/74

【34】

いつもと同じパターンで最後まで飲むのはトイだ。

「ヨウコ、話がある」と、自分の隣に座るようソファーの左側をポンッと叩いてみせた。


黙って座った洋子の肩を抱いたトイは優しく言葉を発した。


黒狗の朔が祖先のトイは劣性遺伝が濃く出ているらしい。視覚嗅覚聴覚が数十倍優れている、変温動物のように暑さ寒さに調整できる、声帯模写ができる等、他の獣人族にはできないことが生まれつき備わっていた。しかし…


「今まで獣擬態化できなかったんだ」

獣擬態化とは、例えばトイは黒狗に属しているので黒狗そのものに変幻できる技だ。魔法ではない。大人になり一人前になると、大抵の獣人族は獣擬態化できるのだが、各自条件があるのだ。


「俺の場合は五色を纏う黒魔女が目覚めること」

真剣な眼差しで見つめるトイ。

反らせない。熱く洋子を縛っているみたいだ。


朔は五色を纏う黒魔女の守護として死ぬまで側に居た。絶えず苦しみが凪達家族を襲ったが、助けられぬ我が身が歯痒いと、別種族であるが故に添い遂げられぬ我が身が切ないと、常に思っていたそうだ。


〜今度生まれ変わる時には彼女と結ばれたい〜


凪の子供である妖狐が魔族に殺された時、朔の想いが、朔の思念が、子孫に宿り語り継がれていく…


「遠征後に立ち寄った宿舎でさ、黒髪黒眼の少女が居た。笑顔で給仕してて驚いたのなんの!獣擬態化なんてどうでもいい。ヨウコに話しかけたかった。ヨウコの声が聞きたかった。

そしたらさ『ヨウコ』だって名乗るんだからマジ勘弁しろよな?」


トイは洋子を胸の中に閉じ込めた。


「わかってる?あの最初の出会いで、朔とは無関係で、俺自身がヨウコに惚れたんだ。ヨウコに少しでも危険が及ぶなら一生獣擬態化なんて出来なくてよかったんだ」


トイは洋子を片腕で抱いたまま、顎をそっと摘んで洋子の視線の角度を変えさせた。見上げた洋子の視線の先には強く優しいキラキラした瞳。強く優しい意志が宿っている金色の瞳に魅せられていく。


「ヨウコはこの森に辿り着いた。刻が現れた。俺も運命から逃げない。ずっとヨウコと共にいる。前にも言ったろ?覚悟しろよ?俺の想いと、祖先の千年越しの祈願を叶えて貰うからな?」


『私、まだ自分の気持ちがわからないの。でも、早くトイの胸に帰りたかった。トイに会いたかっ…

トイは洋子の言葉をキスで塞いだ。

息をするために僅か離す刹那「好きだ」と繰り返すトイに、甘く熱く交わすキスに翻弄されていく…

次第に激しく切なさを増していく愛撫に、胸が指が背中が唇が、触れ合う度に喜びに震えている。身体の奥から悦びが湧き上がっている。


「ヨウコ、おいで」

包み込むように洋子を抱き上げ寝室へと誘う(いざな)


トイの背中で静かに扉が閉まった。


『トイ。私、貴方が好きかも?』

ククク…と低く笑うトイは吐息混じりの掠れた声で擽るように愛を囁いた。

「ヨウコのバカ。カラダはこんなに素直なのに?触れ合う度に俺が好きって聞こえるんだけど?ちゃんと伝わるけど?」

ベッドに横たわるとお互いの鼓動が高鳴る。離さまいと離れまいと、無意識に手足を絡めて密度を高めていく。二人の愛で溢れていく…


もう隠せない。

トイへの募る想いが。顔が見たい、声が聞きたい、側にいたいと焦がれる想いが隠せない。

もう戻れない。

リーダーとメンバーの関係には。友達では足りない。満足できない。元の関係には戻れない。

もう迷わない。

好きになってはいけないと、身を任せてはいけないと、必死にブレーキかけていたけど自分の気持ちに嘘がつけない。誤魔化さない。


過去の終わった恋愛に囚われた呪縛が解けた。長い間、心の奥底に燻っていた気持ちが溶けた。


気がつけば涙が頬を伝っていた。

『トイ。別れの辛さが恐いの。もう嫌なの。トイの気持ちじゃない。私の問題なの』

伝う涙をキスで受けるトイは額をピトッと引っ付けた。


「ヨウコ、大好き。絶対傷付けないし、絶対側に居る。俺を全部あげるから、ヨウコを全部くれよ?」


今宵の月は幾重にも重なる雲に覆われていた。二人の蜜夜を隠すようにーー


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