【30】
深い深い森の奥深く。一人の男性がひっそりと友である黒狗の朔と白梟の刻と暮らしていた。字名を凪といい、後の月影である。凪は元の世界では星読みであり博識だったので、森の近くに住む人達に親しまれていた。
凪が目覚めたきっかけは、魔族が人族を襲った事件だった。凪は自身の力を全力で使った。後に【五色を纏う黒魔女】と謳われた力を皆を守護るために魔法を用いたのだ。
現在魔族が極端におらず魔獣が少ないのは、異空間とも呼ぶべき裏側で魔界を築き上げているからだ。どの国とも決して相見えることはない。
当時、魔族を統一していた王は、全ての魔族が人族に危害を加えないと公約も出来ぬ、共存も出来ぬと訴えた結果、決して他の種族と混じり合わない場所を終の住処とした。
この世界での森羅万象は陰と陽。闇と光は表裏一体。切り離すことはできなかった。理から逃れられないのを光に嫉妬する魔族の王だからこそ、誰よりも認識していたのだった。
洋子は月影の隠れ家の何処かに、各国の境界線を越えて往き来できる門があるのを感じていた。
各国との門だけではなく、魔界や精霊界や天界へ繋がる道があると確信していた。
友である五色の龍は各属性だけを担っている訳ではない。この世界のバランスを互いに整え保つ役割を果たしている。きっと魔界に暮らす6番目の龍がいるに違いない。
………洋子は夢を見た。
月影が笛を吹いている。
その傍らで歌っているのは紅い瞳をした女性。
2人は微笑み合っている。
遠くから誰かが走って来る。
眩しくてよく見えない。
明るく可愛らしい少女が走ってくる。
黒狗と白梟が守るように側についている。
胸に飛び込んだ少女を抱き上げた月影の笑顔。
優しく少女の髪を梳いている女性の笑顔。
あどけない少女の笑顔にドキッとさせられた。
………あれは昔の私!?
いや違う。私と同じ魂を持つ者。
私は彼女の生まれ変わりではない。
だけど確かに私の魂そのもの。
そうか。門を開ける鍵は私だったんだ。
この森に来たから見つけられたんだ。
ーーー鍵はこの手の中にある。
『風を詠み炎を抱き土を語り光を包み水を汲み闇を迎えよ。風よ吹け炎を燃やせ土を育み水を潤せ光を浴び闇に溶けよ、我、五色を纏う黒魔女佐藤洋子が意志を継ぎ意思を注ぐ。出でよ紡ぎ繋ぎ結びし鍵よ』
洋子の行動と成り行きを見守っていたシヴァが全身を震わせていた。森の賢者と言われた白梟の刻が目の前に姿を現したのだ。厳かな雰囲気を醸し出す刻は、慈愛に満ちた母のような眼差しで洋子とシヴァを見つめていた。
〈久しいな、黒羽よ〉
[刻様、お久しゅうございます」
〈凪の最期を看取った洋子よ、心から感謝する。私は刻。この世界の番人と呼ばれし者。異世の鍵を…〉
刻の姿が霞んでいく。光の粒子が舞い消えていった。
やがて左肩にいるシヴァが洋子の前に来た。
驚きのあまりジッと見つめてしまう。
《シヴァ、貴方…》
シヴァは闇夜の八咫烏だった容姿から白銀の梟へ変貌を遂げた。
[進化できたのは洋子のおかげだ。刻様も月影同様やっと眠れたんだ。これから洋子を守れる〉
《今までも充分守ってくれたわ。側にいてくれてありがとう》




