【28】
ウェンディ国では、森にある月影の隠れ家を訪れる他にはギルド依頼を受けるのは最小限に抑えようと考えた。全く何もせず働かないのはマズい。周りから不審な目で見られて怪しまれるだろう。
効率よく薬草採取を行うには個人契約するのが一番手っ取り早い。ギルドを通してカイルさんから弟に会うよう勧められたことは本当にラッキーだと思った。
洋子は活気ある【啄木鳥食堂】に足を運んだ。美味しい丼が食べられる地元の人達御用達のお店だ。
「「いらっしゃいませ」」」
爽やかな挨拶で出迎えてくれる。
『親子丼セット一つ』
洋子はお品書きを見てすぐ注文した。
>>くぅ〜〜何ヶ月振りのお米っ!美味しいっ!!
出汁の香りも卵のふんわり感も最高!鶏みたいな魔獣の肉も柔らかい。玉ねぎに似た野草もよく煮込んである。セットの味噌汁もワカメに似た川草で何故か磯の香りが漂う。川は淡水ではなく海水なのだろうか?
『ご馳走様でした』
箸を置いて合掌すると、店長らしき男性がジッと見ていた。
「良い食べっぷりだ!お嬢さん、名前は?」
『ヨウコ・サトウです』
店長は目を見開いた。
「へえぇ〜!佐藤か!箸の持ち方も様になってるのがわかるな!俺はケン・スズキだ」
>>スズキ?鈴木さん!?まさかの日本人?
「俺の祖先が異世界渡りでな、この界隈では有名なんだよ」
ウェンディ国では不定期に異世界から渡ってくる人達がいたらしい。屋号に「鈴木」「田中」「渡辺」「藤原」など今も残っているという。
ウェンディ国は風を司る国。洋子自身も突風に身を委ねた記憶がある。偶然に道が繋がった可能性が高い。
建物も和洋折衷だ。瓦や襖があり、一部に蓙や畳が敷かれているが、色使いがこの世界の特徴が優先されている。
『鈴木店長、親子丼もお味噌汁も緑茶も美味しかったです。また来ます』
「待ってるからな、佐藤!」
>>まさかの呼び捨てだよ。ま、いいけど。
シャイン国とは異なる対応に緊張が緩むのがわかる。月影や他の異世界渡りの人達が太古の日本文化を広めた名残だろう。
食後の運動も兼ねて市場を見て回った。ギルの相場を調べたり、取り扱う商品を見た。
洋子は香辛料である七味唐辛子を大袋、味噌を3種類、醤油を大瓶、出汁を取る昆布を1束、鰹節大袋を購入した。ボックスに和食スペースを確保して棚に入れてゆく。
念願のお米は30㎏程が一つの麻袋に入っていた。ふと横を見ると洋子の顔が綻んだ。
>>餅米がある!!
餅米は小さな麻袋に入っていた。恐らく5㎏程だろう。精米と餅米を購入して、露店で小豆を探しに戻った。
実際は小豆や大豆よりも粒が大きい豆だったが味覚は大差ないだろう。
『あのっ、きな粉ってありますか?』
店主は洋子の知るきな粉より遥かに明るい黄色の粉を見せた。
>>ヤバい色だわ。まるでトウモロコシを湯がいたような黄色だし。
洋子の態度に店主はニッコリ笑うと小さな木匙できな粉を試食させてくれた。
>>正真正銘のきな粉だわ。
洋子は隠れ家のキッチンでお汁粉とみたらし団子とアベカワ餅を作って試食した。
『美味しい。舌が喜んでる』
みたらし団子はカイルさんの弟さんへの手土産に持って行こう。




